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Interview

北方謙三さん 英雄が体現「大地は一つ」 大作『チンギス紀』刊行スタート

北方謙三さん=根岸基弘撮影

 「大水滸伝」シリーズ(『水滸伝』『楊令伝』『岳飛伝』)を終えて2年、作家、北方謙三さんの新作『チンギス紀』(集英社)の刊行がいよいよスタートした。まずは第1巻「火眼(かがん)」、第2巻「鳴動」が同時にお目見え。描くのはタイトルからわかるようにモンゴル帝国を築いたチンギス・カン。「目に火あり、顔に光あり」と言われたという男の物語が動き出した。これから5カ月に1冊ペースで出版され、15巻ほどの大作となる予定。

     チンギス・カンを題材にすることは、「大水滸伝」シリーズを始める前から頭にあったという。「純文学は立ち止まり足元の穴をみつめる。エンターテインメントは、ずっと歩いて歩いて風景の変化の中で物語が展開すると思っていた。ところがある日、いくら歩いても所詮地球だと気付いた。歴史小説で時間はさかのぼって書ける。では地球を縦横に駆け回った奴(やつ)は誰かと考えた時、思い至ったのがチンギス・カンだった。動きながら状況が変化することにより、人間が成長したり腐ったりする姿がもっと鮮烈に描ける」

        ■  ■

     まだテムジンと呼ばれていた13歳から物語の幕が開く。異母弟を殺し、南の金国に逃亡せんとするところだ。モンゴル族は氏族が乱立し、統一しようとしていた父は道半ばにして死去。テムジン10歳の時だ。一家は零落した。当時のユーラシア大陸の真ん中は、民族と小国が覇を競っている混乱の最中にある。

     テムジンの時代は、文字がなかったことから唯一といえる資料はもともと説話の『元朝秘史』だけなのだという。作家の想像力はぐいぐいと私たちを未知の世界へといざなう。弟殺しのトラウマを背負わせ、しかも追われる身にした。金国では書肆(しょし)と妓楼(ぎろう)を営む男のもとで働き、国家観を磨く。この雌伏の時間の過ごし方に深い味わいがある。各民族の長や将らの活躍、暗躍が少しずつ織り上げられていき、物語がうねり出す。「緻密に構成しないと、リアリティーが出てこない」。抑えた筆致、簡潔な文章に乗ってテムジンの世界が広がる。「抑制は行間を生む」

     ここでテムジンがのぞかせる国家観は、「国はない方がいい。大地は一つ」というものだ。「アメリカ・ファースト」などと盛んにいわれている時代、枠を超えた物語を書くことになる。「おそらく小説家はこういうタイミングになった状況の本質は何か見て、物語を作っていくのが仕事なのだと思う」

        ■  ■

     かつて『楊令伝』最終巻(2010年10月刊)では、梁山泊が水に流された。「土煙が上がって水が押し寄せてくる情景を描いた翌年、東日本大震災が起きた。津波をそのまま描いてしまった感があった。痛烈な実体験だった。なぜ描いたかずっと考え続けた。そんなことを考えながらも、こんな世界の中で大地は一つと小説家は言っていいと思う。そこにリアリティーがあって、人の心を揺り動かすなら」。そしてこうも語る。「物語作家として最後と言っていいかもしれない作品だから、書きたいことを陳腐と言われようとも堂々と物語で書きたい。こうした物語に帰結するように今まで書いてきた」

     さて、『岳飛伝』に登場した楊令の子、胡土児(コトジ)は最後に蒙古に行った。それから約20年後が『チンギス紀』となる。「遠景として梁山泊が出てきて、交錯することもあろう」とのこと。いや、もっと何か因縁があるのではないかと勘ぐりたくもなるが、そこはこれからのお楽しみだ。

     モンゴルは取材で1回2週間ほど訪れた。羊をさばいた。へその下に切れ目を入れ、手を突っ込んで心臓の管をつぶして血の一滴もこぼさない方法を教わった。草原の女性は強い紫外線にさらされ真っ黒だ。しかし服の下は白いのかもしれない。土地や風、経験したこと、何気ない印象などがあちこちに潜み、物語が息づく。【内藤麻里子】

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