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炎のなかへ

/177 アンディ・タケシの東京大空襲 石田衣良 望月ミネタロウ・画

その夜(12)

 菊川橋の上で人が薪(まき)のように燃えていた。焼夷(しょうい)弾の直撃をくらったのか、橋のなかほどで人々が折り重なり、積みあげられた薪のように炎をあげている。周囲の熱とゼリー状ガソリンのせいで、水分をたっぷりと含んだ人間の身体(からだ)さえ、乾いた薪のように燃えあがるのだ。

 燃える遺体の横で菊川橋を向こうへ渡ろうとする人と、こちらへ渡ろうとする人の流れがぶつかり、みな身動きがとれなくなっていた。長さ三十メートルほどの橋の上には数百人の避難民がごった返している。熱さに耐えかねた家族が橋の欄干を越えて、つぎつぎと大横川に飛びこんでいた。

 タケシは口を開いて息をしながら、先ほどの防火水槽を思いだしていた。三月でも水槽のなかの水に薄氷が張…

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