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漆黒を照らす

/60 米朝首脳会談どう見る 祖国の変化、願い共通 /大阪

金正恩政権が米国とどんな交渉をしているのか、大半の国民は知らされていない。写真は鴨緑江の河原に出てきた北朝鮮住民=中国側から2017年9月撮影

 このコラムが掲載される12日、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長とトランプ米国大統領の会談がシンガポールで開催される予定だ。非核化の問題だけでなく、朝鮮戦争終結宣言も検討されている。冷戦構造最後の残滓(ざんし)が消えて、軍事的な緊張は緩和されるのか。あの「漆黒の国」は開かれて、ようやく光が差し込むことになるのだろうか。当事者である北朝鮮の人と脱北者はこの歴史的会談をどう見ているのか、話を聞いた。

     韓国ソウルに暮らす金周一(キムジュイル)さん(80)=仮名=は、日本の東北地方生まれの脱北者。貧しかった青年時代に社会主義に傾倒して、大阪で在日朝鮮人運動に没頭した。革命家を夢見て1960年代に帰還事業で北朝鮮に渡った。

     「20代で血気盛んだった。でも北朝鮮は物質的にも精神的にもあまりにも落後した社会で失望の連続だった。もう、北朝鮮で過ごした時間は思い出したくもないんですよ」という。

     製鉄所に配置された。労働に打ち込みながら学ぼうと、日本からロシア文学やマルクスの書籍を持ち込んだが、すべて没収された。5年前に脱北し、北朝鮮にいる子供と孫にひそかに送金を続けている。金一族による支配への嫌悪は今も激しい。「国民は奴隷だ」と言い切る。そんな金さんも、この数カ月間の南北と朝米の対話の進展には大いに期待を寄せている。

     「敵対関係が終われば、人が往来できるようになるかもしれない。そうしたら、死ぬ前に北朝鮮にいる娘、息子と会えると思うのです。金正恩も本気だろう。トランプ氏が会談をうまくやって北には変わってほしい」

     10年近く前に平壌から脱北し、今は関西地方に住む40代男性、康忠識(カンチュンシク)さん=仮名=の意見は真逆だ。「住民を犠牲にした核開発で生き延びようとした金正恩政権は、国際社会の制裁で窮地に陥っている。それなのに、なぜあの一族独裁体制の延命に手を貸すのか。北の人民の苦労をまったくわかっていない」と、韓国・文在寅(ムンジェイン)政権の対北朝鮮融和政策に怒りをあらわにする。トランプ氏については、発言が目まぐるしく変わるので戸惑い続きだ。「金正恩に会っても安易な妥協をせず、核を放棄するまで経済制裁を解くべきではない」というのが康さんの考えだ。

     北朝鮮の北部に住む取材協力者の女性には、先週6日に電話で考えを聞いた。

     「そもそも金正恩元帥がトランプ大統領と会談するなんて、ほとんどの国民は知らされていない。非核化問題と朝鮮戦争の終戦を話し合う? それで支援が入ってくるとか、開放に向かうなら歓迎だけど、あの政権が核を捨てるなんてありえないと思う」と、女性はさばさばと答えた。朝米会談に対する考えは三様だが、祖国が変化に向かってほしいという思いだけは共通であった。<文と写真・石丸次郎>


     石丸次郎さんと玉本英子さんが交代で執筆します。次回は26日掲載予定。


     ■人物略歴

    いしまる・じろう

     1962年生まれ。アジアプレス大阪代表。朝鮮半島や中国を取材し、北朝鮮に住む人と連携して内部情報を発信している。

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