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オーケストラのススメ

~20~ 18年下半期の来日オーケストラの聴きどころ

山田治生

 今回は2018年後半の来日オーケストラについて見ていきたい。

     今秋の来日オーケストラは、まさに、マーラー、ブルックナーの競演となる。マーラーでは、サイモン・ラトル&ロンドン交響楽団の第9番、マリス・ヤンソンス&バイエルン放送響の第7番、ワレリー&ゲルギエフ&ミュンヘン・フィルの第1番「巨人」、ダニエル・ハーディング&パリ管弦楽団の第1番、サカリ・オラモ&ロイヤル・ストックホルム・フィルの第1番、アラン・ギルバート&NDRエルプ・フィル(旧・ハンブルク北ドイツ放送交響楽団)の第10番よりアダージョなどがあり、ブルックナーでは、ミュンヘン・フィルの第9番、NDRエルプ・フィルの第7番、フランツ・ヴェルザー=メスト&ウィーン・フィルの第5番などが予定されている。

    また、今秋は、ドイツのオーケストラの来日が目立つ。昨年来たベルリン・フィルやライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の来日はないものの、クリスティアン・ティーレマン&ドレスデン州立歌劇場管弦楽団、バイエルン放送交響楽団、ミュンヘン・フィル、NDRエルプ・フィル、パーヴォ・ヤルヴィ&ドイツ・カンマーフィルなどが日本を訪れる。ドイツ語圏ということでは、ウィーン・フィルもあげられよう。残念なことに、この秋にアメリカのメジャー・オーケストラの来日はない。

     

     新たな組み合わせでは、ラトル&ロンドン響、ギルバート&NDRエルプ・フィルが楽しみ。

     ラトルは、昨年秋にロンドン響の音楽監督となり、就任披露演奏会でオール・イギリス・プログラムを組んで、センセーショナルな成功を収めた。そして、今年9月、ハネムーンというべき、このコンビでの初めての日本公演が行われる。マーラーの交響曲第9番はラトルの十八番。ヤナーチェク、ドヴォルザーク、シマノフスキなどの東欧の音楽、シベリウスの交響曲第5番なども彼にとって非常に重要なレパートリー。いきなり勝負曲でプログラムを固めてくるところに、ラトルの意気込みを感じずにはいられない。また、バーンスタインの生誕100周年を記念して、交響曲第2番「不安の時代」を取り上げる。生前のバーンスタインと共演を重ねた、クリスティアン・ツィメルマンがこのピアノ協奏曲的な交響曲で独奏を務めることにも注目される。

     ギルバートがNDRエルプ・フィルの首席指揮者に就任するのは来年9月。しかし、彼は、NDRエルプ・フィルが「北ドイツ放送交響楽団」と呼ばれていた2004年から15年までこのオーケストラの首席客演指揮者を務めていたので、既に関係は長い。北ドイツ放送響といえば、ヴァントのブルックナーやテンシュテットのマーラーが思い出される。ギルバートは、今回の就任直前のツアー(11月)で、ブルックナーの交響曲第7番とマーラーの交響曲第10番よりアダージョを取り上げる。マーラーのアダージョは外来のオーケストラが持ってくることがほとんどないので聴き逃せない。

     バイエルン放送響とミュンヘン・フィルという、ミュンヘンを代表する二つのオーケストラの競演も興味津々である。

     マリス・ヤンソンスは2003年からバイエルン放送響の首席指揮者を務めている。ヤンソンスは、これまでにも、同楽団やコンセルトヘボウ管弦楽団との来日公演で何度もマーラーを取り上げてきたが、今回(11月)は、マーラーの交響曲のなかで最も難解ともいわれる第7番を披露する。R.シュトラウスの「英雄の生涯」、ストラヴィンスキーの「春の祭典」とともに、ヤンソンスの精緻な音楽作りによって、まさにオーケストラの粋が味わえるだろう。エフゲニー・キーシンとの共演(リストのピアノ協奏曲第1番)も楽しみ。

    ミュンヘン・フィルは、2015年から首席指揮者を務めるヴァレリー・ゲルギエフとの再来日である(12月)。チェリビダッケをはじめとする巨匠たちの薫陶を受け、ミュンヘン・フィルが最も得意とするブルックナーを演奏する。今回は交響曲第9番。また、ミュンヘン・フィルは、その前身がマーラーの交響曲第8番の世界初演を担うなど、マーラー演奏の伝統もある。今回は交響曲第1番を取り上げる。ユジャ・ワンが独奏者を務めるブラームスのピアノ協奏曲第2番にも注目。

     ウィーン・フィルは、ウェルザー=メストとやってくる(11月)。ウェルザー=メストは、6月のクリーヴランド管弦楽団とのベートーヴェン・ツィクルスに続いての、来日である。

    2014年までウィーン国立歌劇場の音楽監督を務めた彼は、ウィーン・フィルとは気心が知れている。2010年の来日公演ではブルックナーの交響曲第9番で名演を残したが、今回は第5番。巨大な音の伽藍(がらん)が築かれるに違いない。ウィーン・フィルは、サントリーホールで2006年にアーノンクールとも第5番を演奏した。そのほか、モーツァルト、ブラームス、ワーグナーなどのドイツ=オーストリア音楽が並べられる。「神々の黄昏」抜粋では、歌劇場のオーケストラとしての本領が発揮されることだろう。

     ハーディング、ティーレマン、パーヴォ・ヤルヴィら、今最も脂の乗っている、40代、50代の中堅指揮者たちが自らのオーケストラを連れて来日するのにも注目したい。

     ハーディング&パリ管は2016年に続いての2度目の来日(12月)だが、ハーディングが2019年に3年間の任期満了をもって離任するので、このコンビでの来日は最後になるかもしれない。マーラーは、ハーディングの得意曲でもある。今回は第1番。そのほか、ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」とヴァイオリン協奏曲、ベルクのヴァイオリン協奏曲などが予定されている。ドイツ音楽を並べるのがハーディングらしい。ヴァイオリン協奏曲では、バロックから現代音楽までそれぞれの時代様式に合った奏法で弾き分けるイザベル・ファウストが独奏を務める

     ティーレマン&ドレスデン州立歌劇場管は2日間でシューマンの四つの交響曲を演奏する(10、11月)。ドイツ音楽界を担うマエストロと伝統のオーケストラによるドイツ音楽の神髄が体験できることであろう。

     パーヴォ・ヤルヴィはドイツ・カンマーフィルとともにシューベルトを取り上げる(12月)。室内オーケストラとの親密かつ新鮮な交響曲第8番「ザ・グレート」は聴き逃せない。ヒラリー・ハーンとはバッハやモーツァルトで共演する。

     北の国からは、サカリ・オラモ&ロイヤル・ストックホルム・フィル、ウラディーミル・アシュケナージ&アイスランド交響楽団、ユーリ・テミルカーノフ&サンクトペテルブルク・フィルなどがやって来る。

     ロイヤル・ストックホルム・フィルは、日本・スウェーデン外交関係樹立150周年を記念して、ベートーヴェンの交響曲第5番、第9番、チャイコフスキーの交響曲第5番、マーラーの交響曲第1番などを演奏する(9月)。アイスランド国籍を有するアシュケナージは、アイスランド響の桂冠指揮者のポストにある。ラフマニノフの交響曲第2番、シベリウスの交響曲第2番など、北方の作曲家の作品を取り上げる(11月)。辻井伸行との共演もある。テミルカーノフ&サンクトペテルブルグ・フィルは、プロコフィエフの「イワン雷帝」やラフマニノフの交響曲第2番など、十八番のロシア音楽(11月)を披露する。

    著者プロフィル

     山田 治生(やまだ はるお) 音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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