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毎日21世紀フォーラムから

第172回例会 これからの食と農を考える 全国農業協同組合中央会会長 中家徹氏

毎日21世紀フォーラムで講演する全国農業協同組合中央会(JA全中)の中家徹会長=大阪市中央区で2018年5月18日、平川義之撮影

地方と農業 JAが元気に

 異業種交流組織「毎日21世紀フォーラム」の172回例会が5月18日、大阪市中央区のホテルニューオータニ大阪であり、全国農業協同組合中央会(JA全中)の中家徹会長が「これからの食と農を考える」と題し、約180人を前に講演した。中家会長は、落ち込んだままの食料自給率や歯止めがかからない農業者の高齢化など「日本の食と農の危機」を具体例を挙げて提示。JAグループが進める自己改革の目標を農業者の所得増大と農業生産の拡大に加え、地域活性化とし、「JAが元気になることを通じて、農業を元気にしたい」と述べた。【まとめ・土居和弘、撮影・平川義之】

     日本の農業は、大きな変革が必要な時期を迎えています。JAグループにとっても試練といえ、自己改革に取り組んでいます。

     なぜ、変革が必要なのか。まず、日本農業の現状をお話しします。農業総産出額は平成に入っても減少を続け、2010年には8・1兆円に落ち込みました。その後、16年に9・2兆円に回復しており、農業が元気を取り戻しつつあると思われるかもしれません。しかし、理由は生産量が減り、一方で単価が高くなったため、産出額が上がったからです。農業が強くなったわけではありません。

     農家数は1965年前後には600万戸でしたが、50年後の15年には215万5000戸に減りました。10年と比べても約15%減少しています。しかも、作った作物を販売する農家の減少率は自給的農家の倍以上になっています。さらに農業の危機的な姿を示しているのが、年齢別で見た農業就業者の構成です。05年に58・2%だった65歳以上の比率が、15年には63・5%になりました。この年の農業就業者の平均年齢は66・4歳。高齢化に歯止めがかかっていません。

     このような状況を打開するためには、新規就農を進めないといけません。一方で、耕作放棄地が増え、農地面積も減っています。IターンやUターンした人のうち、農業に興味のある方ができるだけスムーズに農業に参入でき、地元の直売所などで販売する仕組みをつくるなど、支援策を整備しないといけないと思っています。

     消費者が農産物に最も求めているのは安全・安心です。そのため農家は細心の注意を払っています。防除のために使用した農薬の種類や量などを正確に生産履歴に書き込み、JAがチェックしています。農薬の種類や希釈の割合が間違っていたら出荷できません。農家には負担になり、非常に神経も使いますが、そうした苦労があるからこそ、世界一、安全・安心な作物を作っているのだという自負があります。

     これまでお話ししたように、農業の最大の目的は食料の生産と供給です。しかし、農業には、それ以外にも多面的な機能があります。農村の美しい景観の保持や伝統文化の継承、そして水の涵養(かんよう)などです。水田は雨水をいったん集め、河川に一気に流さない機能があり、洪水を防ぎます。

     現在、政府を中心に、農業で大規模経営化を図り、企業の参入を進めて、成長産業にしようという動きが出ています。それらは大事なことですが、疲弊した農村をどうするかという視点が弱い。産業政策と地域政策は車の両輪であるべきですが、地域をどうするかという議論がおろそかになっています。都市と地方の格差が拡大し、地方の人口減少、東京を中心とした都市への集中が進んでいます。人口格差に加え、所得格差や地価の格差もあります。抜本的な改革をしないと、地方はますます疲弊します。農業の成長産業化は重要ですが、農業をする人が生活できる条件を教育、医療なども含め整備していかないと、地方は元気になれません。

    38% 食料安保の危機

    中家徹会長の話に耳を傾ける人たち=大阪市中央区で2018年5月18日、平川義之撮影

     次に、食料自給率と食料安全保障について話します。食料自給率は、国民が口にする食料のうちどれくらいが国産で賄われているかを示す数値です。16年度の日本の自給率は38%(カロリーベース)です。65年度には73%(同)だったのが大きく落ち込みました。品目別では16年度、米は100%近くですが、小麦は12%(同)、油脂類は3%(同)、飼料の大半を輸入に頼る畜産物も16%(同)です。自給率の低さは、国内農業の実態からすると、「自給力」がなくなっていることの表れです。日本の自給率は先進国では最低です。

     食料の安定供給の確保と不測時の食料安保は、「食料・農業・農村基本法」(99年制定)にうたわれています。一方、世界的には、スイスのように憲法を改正して食料安保を明記した国もあります。自給率50%(カロリーベース)のスイスは昨年9月、国民投票を実施し、8割近い賛成を得て、憲法を修正しました。

     世界の食料事情は今後、逼迫(ひっぱく)すると予想されています。世界の人口は50年には100億人に近づきます。しかし、人口増加に食料の生産と供給が追いつかない。地球温暖化に伴う砂漠化の進行や水不足で農地面積が減少しています。アフリカなどの途上国で飢餓で苦しむ人が増えています。

     加えて、日本が輸入している農産物がストップする可能性もあります。温暖化による異常気象や政情不安などで、農産物輸出国が輸出を抑制する動きが出ている。さらに農産物をバイオ燃料に使う動きもあります。自国で食料を賄えない危機が高まれば、他国に輸出する余裕はありません。独立国なら、自国民の食料の確保は基本だと考えます。

     しかし日本は、先ほども話したように、食料生産の基盤が弱体化している。そのため、異常気象に見舞われると生産量が減ります。

     今は飽食の時代と言われます。廃棄される食べ物も膨大です。しかし、日本農業の実態や世界の食料事情を考えると、いつまでも現在の状況が続くとは思えません。

     今、世界的に和食ブームですが、国内では和食離れが起きている。日本人に理想的な食事のメニューは、昭和50年代に食べられていたメニューだという専門家もいます。その食生活が大きく変わり、和食の基本である米の消費量は大きく減っています。日本人1人の年間消費量はかつて、120キロ近くでした。現在は60キロを割っています。今の日本の農と食の実情、世界の実情を踏まえた上で、食について国民的な議論をしなければいけないのではないかと考えています。

    地域活性化にも全力

     JAグループは、農業の振興とともに地域活性化を大きな目標にしています。97年に制定されたグループの理念「JA綱領」では「農業と地域社会に根ざした組織としての社会的役割を誠実に果たします」としています。

     JAはこの数年間、政府・与党や規制改革会議から改革を求められてきました。そうした中で現在、進めているのが「創造的自己改革」です。JAを「食と農を基軸として地域に根ざした協同組合」と定義し、農業者の所得増大、農業生産の拡大と、地域の活性化を最重点に取り組んでいます。私の地元、JA紀南では中山間地に住み、街へ買い物に行くことが困難な高齢者らのため、食料品や日用品などを積んだ移動購買車を走らせています。また過疎が進む地域で、多くのJAがガソリンスタンドを運営しています。いずれも採算は合いませんが、地域を守るJAが果たすべき役割だと思っています。

     私たちJAグループは、農業者の所得増大、農業生産の拡大、地域活性化に全力を挙げています。JAが元気になることを通じて、農業を元気にしたいという思いで取り組んでいきます。


     ■人物略歴

    なかや・とおる

     1949年、和歌山県生まれ。72年、中央協同組合学園卒。農業を継ぐ傍ら、74年に紀南農協(JA紀南)に就職。営農部長などを経て、2004年に組合長、13年から会長。12年からJA和歌山中央会会長。17年8月から、JA全中会長。

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