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メディアの風景

デジタル時代の改ざん防止 「人間は不完全」認めてこそ=武田徹

 先日、カメラメーカーのキヤノンがフィルムカメラの販売終了を発表した。デジタル化による物理的な記録媒体離れはあらゆる領域で進み、写真の世界も例外ではない。

     こうした技術的な世代交代との関係を改めて考えてみたいのが財務省の公文書改ざん事件だ。

     人はなぜ記録を残すのか。それは過去を参照して現在の軌道を修正し現在の検証を未来に委ねるためだろう。そこで踏まえられているのは人間は不完全な存在だという認識だ。不完全な人間が考え、行うことだから参照と検証の不断のプロセスを通じて改善しなければならないのだ。

     そうした参照と検証に役立てる記録は利用者の都合で恣意(しい)的に改変されては困る。確かに固定されている必要がある。

     これまで記録は「もの」の安定性に支えられていた。例えば紙という「もの」に書かれた記録は修正の痕跡が残るのでひそかに改変できなかった。写真も同じだ。フィルムという「もの」に映像を定着させるプロセスは物理・化学的現象であって、人為的に介入できないがゆえに写真は「真実」を「写す」と信頼されてきた。複数の写真を合成して印刷するなど事後的な加工は可能だが、フィルムという「もの」にさかのぼって調べれば改ざんの有無がわかる。

     こうした事情をデジタル技術の進捗(しんちょく)は一変させる。デジタル情報は紙やフィルムの大きさや重さといった物理的制約から人々を解放したが、同時に「もの」の安定性を手放すことでもあった。

     つじつまを合わせるために公文書を改ざんすればいい。うまくやれば隠し通せるだろう--。官僚たちのおごった考えはこうした情報環境の変化によって誘発された面もあっただろう。デジタル情報は痕跡を残さずに改変できる。電子ファイルの編集履歴を残したり、プロテクトをかけて編集を禁じたりする技術もあるが、システム管理者を含む組織ぐるみの改ざんの前には無力だ。

     財務省の改ざんを明らかにする上で、国土交通省が保有していた「もの」としての公文書原本との照合が果たした役割は象徴的だ。過渡期の今はまだ「もの」の力が借りられる。だがデジタル化がさらに進むとどうなるか。

     問われているのは、結局は人間観ではないのか。技術の進化におごらず、人間とは過去の参照と現在の検証を常に必要とする不完全なものだと認める。そんな謙虚な人間観を私たちが持ち続けられれば、デジタル情報に「もの」並みの安定性をもたらす技術開発も進むに違いない。文書や写真が記録としての役目を果たし続けるために、はやりのブロックチェーンで修正の有無を確認するなどアイデアはいろいろと出てくるはずだ。(専修大教授、評論家)=原則第2木曜日掲載

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