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欧州ニュースアラカルト

同性パートナーに「画期的」司法判断 背景を読み解く

原告のコーマンさん(右)と配偶者としての権利が認められる見通しになった米国籍のハミルトンさん=2016年7月撮影、AP

 LGBTなど性的少数者の権利擁護団体が「画期的」と評価する司法判断がくだされた。

 欧州連合(EU)の欧州司法裁判所は今月5日、EU加盟国の国籍を持つEU市民と結婚した同性のパートナーは、その国籍にかかわらずEU全域で暮らすことができるとの判断を初めて示した。EUの法律は、EU市民の配偶者であれば国境を越えて域内を自由に移動して暮らせる権利を保障している。

 しかし、これまで同性婚を認めない一部の加盟国は、別の国で成立した婚姻関係に伴うEU市民の同性パートナーを配偶者として扱わず、域外国籍者には居住権を与えない例があった。これに対し欧州司法裁判所は、配偶者には同性パートナーも含むと明示し、居住権を認めるべきだと判断したのだ。

「勝者は人間の尊厳」

 原告はEU加盟国ルーマニアと米国の二重国籍を持つエイドリアン・コーマンさんと米国籍のクレボーン・ハミルトンさんの男性カップル。

 裁定文によると、米国で2002年に出会った2人はニューヨークで共に暮らしていた。09年にEU欧州議会の職員となったコーマンさんは、ベルギーの首都ブリュッセルへ移住。ハミルトンさんは米国にとどまっていたが、翌年秋に2人はブリュッセルで結婚した。ベルギーでは同姓婚が法的に認められている。

 その後、コーマンさんが欧州議会を退職したことを機に2人でルーマニアへの移住を検討。しかしルーマニア当局は、自国で同性婚を認めていないことを理由にハミルトンさんを配偶者として認めず、EU加盟国の国籍を持たないため3カ月を超える滞在はできないと通知した。

 これを不服とした2人は、EU市民に認められた移動の自由を侵害する決定だとして13年10月にルーマニアの裁判所に提訴。EU法の解釈が争点となることから、EUの最高裁判所に相当する欧州司法裁判所に付託された。

 裁定では、EU法が移動の自由を認めるEU市民の「配偶者」について、「ある人と結婚によって結びついた人」と定義。それは「性的に中立」なものであり、同性間の婚姻を含むと位置づけた。その上で加盟国がEU市民の配偶者の性を理由に居住を拒否することは、移動の自由を認めたEU法に違反すると指摘。一方で、国内法で同性婚を認めるかどうかは加盟国に権限があるとした。

 これを受けてルーマニアの裁判所は審理を再開し、欧州司法裁判所の裁定をふまえて最終的な判決を出す。ルーマニア国内でのすべての司法手続きが終わるまでにはまだ時間がかかるとみられているが、この問題は今後ルーマニア政府とEUとの対立の火種となる可能性をはらむ。EUには加盟国の国内法とEU法が矛盾したり対立したりする場合は、EU法が優先されるという原則があり、加盟国が無視すればEU行政執行機関の欧州委員会による制裁手続きの対象となりうるためだ。

 「きょうの勝者は人間の尊厳だ」。裁定の当日、米国で暮らすコーマンさんは支援団体を通じて歓迎のコメントを出した。その3日後にはルーマニアの首都ブカレストで性的少数者の権利拡充を訴える「プライド・パレード」が行われ、参加した人々は同性婚の合法化を訴えた。AP通信によると、ブカレストでは同じ日に同性愛に批判的な保守派による集会も行われ、結婚を男性と女性間によるものと明確に定義づけるための国民投票の実施を求める声が挙がったという。

西高東低

 同性婚は01年に世界で初めてオランダで合法化された。現在はEU加盟28カ国のうちデンマーク、フランス、ドイツ、スウェーデンなど14カ国(19年施行のオーストリアを含む)で認められている。これとは別に、パートナーシップという制度で婚姻と同等かそれに近い関係を認める加盟国もあり、クロアチア、ギリシャ、イタリアなど8カ国が導入している。どちらも認めていない国はブルガリア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ルーマニア、スロバキアの中東欧6カ国だ。

 このような制度面だけでなく、社会的な受容度でも大きな地域差が残るのが欧州の現状で、その傾向は「西高東低」とみることができる。

 性的少数者の平等な権利獲得を目指す国際組織「ILGAヨーロッパ」は、国別の現状を詳しく調べた報告書を毎年発表している。性的少数者の権利や政策、差別や偏見を禁じる法制度など複数の評価項目を総合的に判断したランキングでは上位のほとんどを西欧、北欧の国が占める。ILGAがサイトで公表している地図<PDF>を見ると、西高東低ぶりは一目瞭然だ

 一方、今年5月に発表された最新の報告書では「過去10年の驚くべき成果は危機にひんしている」と指摘し、先進地での環境が後退していることを懸念。背景としてポピュリズム(大衆迎合主義)やナショナリズム(愛国主義)の広がりを挙げ、性的少数者を含む社会的弱者の生活に「負の影響」が生じていると訴えた。

 例えば世界で最初に同性婚を認めた「寛容の国」オランダは今回トップ10から漏れた。首都アムステルダムでは最近、ゲイ(男性同性愛者)のカップルを狙った傷害事件や嫌がらせ行為が増えていると報告されている。アムステルダムの文化事情に詳しいマルコ・デ・フーデ元市議は、「極右への支持が広がっているように、社会全体に不寛容さが広がっていることが関係しているのではないか」とみる。

 ただしオランダを含む西欧や北欧諸国では、極右支持層と性的少数者を排除する層は必ずしも一致しない。リベラル勢力が性的少数者の権利擁護に熱心であることは、どの国にも共通している。一方で極右政党は、性的少数者への不寛容を反イスラムを訴える根拠にする。伝統的なイデオロギーには、ねじれが生じている。

どうする日本

 それでも西欧、北欧の先進性は日本とは比べるまでもなく、性的少数者であることを公言する政治家も少なくない。

 ルクセンブルクのベッテル首相は15年、パートナー関係にあった男性と在任中に結婚した。カトリックが多く西欧でも保守的とされるアイルランドのバラッカー首相も保健相だった15年にゲイであると公表し、同国で同性婚の実現を後押しした。

 一方、日本では昨年11月に自民党の竹下亘総務会長が、国賓を招く宮中晩さん会への招待について「(国賓の)パートナーが同性だった場合、どう対応するのか。私は反対だ。日本国の伝統には合わない」と発言して批判を浴びたのは記憶に新しい。

 制度面でも今回の訴訟のきっかけとなったルーマニアと類似の問題を抱えている。就労などの目的で駐在する外国人は、海外で同性婚が成立している場合でも日本ではパートナーを「配偶者」として認めてもらえない。外交関係についてのウィーン条約に基づき外交官は認められているが、あくまでも特例である。同性婚を認める国が拡大していく中で、運用の変更を迫られるのは時間の問題だ。欧州司法裁判所の判断は、遠い地の出来事ではない。【八田浩輔】

八田浩輔

ブリュッセル支局 2004年入社。京都支局、科学環境部、外信部などを経て16年春から現職。欧州連合(EU)を中心に欧州の政治や安全保障を担当している。エネルギー問題、生命科学と社会の関係も取材テーマで、これまでに科学ジャーナリスト賞、日本医学ジャーナリスト協会賞を受賞(ともに13年)。共著に「偽りの薬」(毎日新聞社)。Twitter:@kskhatta

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