アカデミックカフェ

建学75周年記念 観光学部シンポジウムから

2018年5月1日掲出

【あかでみっくさろん】

 インバウンド6000 万人に向けた取り組み

観光マーケットとして見た場合、日本はフランスに比べて地理的に不利な位置にある

 観光は今や社会的にも大きな存在になっており、貿易の7%を占めるまでに成長しています。その波及効果も含めると、世界のGDPの10%が観光に当たります。

 政府が取りまとめた「明日の日本を支える観光ビジョン」によると、訪日外国人旅行者を2020年に4000万人、2030年には6000万人に、という目標が掲げられています。同時に、外国人の日本での消費額を、2020年には8兆円、2030年には15兆円にするという、大きな経済効果を目指しています。15兆円というのは非常に高い数字で、現在、日本の輸出額トップの自動車が11兆円なので、自動車を超える最大の産業になるという、壮大な目標を示していることになります。

 国際観光マーケットは現在12億人ですが、2030年には18億人に増大すると予測されています。これは、目標に向けてプラスの要因になります。ただ、このマーケットは、世界の中で“どこの地域に存在しているか”ということも非常に重要になってきます。

 

 観光における4つの距離

 現在、アジア全体の観光が伸びており、日本はその成果を享受しています。一番わかりやすいのは中国の存在です。世界一大きなマーケットがすぐ近くにあるため、プラスの影響を受けているのです。他方で、マーケットの拡大については、4つの距離が影響を及ぼすといわれています。1つ目は地理的・物理的な距離、2つ目は文化(言語・宗教)的な距離、3つ目が経済(所得格差)的な距離で、最後に政治的な距離が挙げられます。

 日本で一番影響があるのは、地理的な距離です。たとえば日本から2000キロというと、ソウル、上海などですが、フランスの場合はアフリカの北側、東欧など観光客がいそうなところはすべてカバーしています。したがって日本は地理的に非常に不利なところに位置し、しかも陸続きではないという大きなハンディを背負っていることになります。これだけでもフランスとは対等な競争をできないことが分かります。

 2014年の時点でインバウンド4000万人を超えている国は、フランス、アメリカ、スペイン、中国、イタリアの5カ国で、トップのフランスは8000万人以上です。2030年までの目標は、これらの国に日本が数年間で並ぶ、ということで、大変なチャレンジになることは想像がつきます。

 こういった4つの距離は、外国人の訪れ方にも直接的に現れています。2003年以降の訪日旅行者で多いのは、韓国、中国、台湾、香港。同じアジア圏で近い距離にあるからです。これからも日本はアジアの観光客が中心になると思われます。しかし、当然、欧米へのプロモーションにも力を入れる必要があります。

 

 変遷する訪日外国人観光客

 日本への海外からの旅行者は、昨今いくつかの点で傾向が変化しています。それは、大きく分けると、旅行客の個人化、リピーターの増加、地方への観光分散化、消費行動の変化です。

 日本にパッケージや団体で訪れたか、個人手配で訪れたかを調べてみると、イギリスやフランスなどはほとんどが個人手配です。アジアではまだ団体や個人パッケージがありますが、全体的に見ると、個人化が進んでいます。国民性にもよると考えられますが、このことはリピーターの増加にも関係しています。何度も来ていれば、同じ場所に行くことは少なくなり、より観光の深度が増していきます。この深度は、地方への分散を促すことにつながります。従来の観光地以外の所、たとえば四国地方、中国地方なども大きく伸びていて、これは好ましい傾向です。地方の活性化はもちろん、“日本の本当の魅力は地方にこそある”点が注目され、見直された結果として分散化が進み、良い循環ができてくるからです。

 また、一時は“爆買い”という言葉が流行したように、おみやげなど物品を中心とする消費行動が目立っていました。しかし、リピーターが増えることで徐々に物品以外の楽しみのためにお金を使うようになってきたと考えられます。そこで、新たな観光資源の開発に取り組み、観光客目線でその理解・活用を促すことや、国立公園を世界水準のナショナルパークに引き上げることなどが求められています。

 

 インバウンド6000万人を達成するために

 もうひとつ考えなければならないのは、日本人が良いと思う場所、見せたい景色と、外国人が見たい場所、見たい風景は必ずしも一致しないということです。日本人から見ればただの田舎でも、外国の人にとっては、それこそが日本的で“クールな”場所となることもあるのです。例えば、飛騨で行われている里山のサイクリングツアー。人と自然が共存する里山は、日本ならではの存在であることに着目し、通訳と案内、自転車を用意してお客さんを募ったところ、口コミでどんどん広がり、今や大きなブームになっています。

 加えて訪日外国人が長期滞在できるような宿泊施設の拡充も不可欠です。日本式のおもてなしの心は残しつつ、1カ所を拠点として2週間、3週間と長期滞在できる施設の整備も進めていく必要があります。

 また、移動の手段としてクルーズ船が多く寄港するようになったことも大きく注目したい点です。富裕層のマーケット拡大の進展へつながる期待が持てるからです。

 観光地としての日本は、これまでの日本人による日本人のためのマーケットから、世界の人による世界の人のためのマーケットに今、成長しようとしています。訪日外国人旅行者6000万人の目標に向け、世界を相手にした観光産業を精力的に育てていかなければなりません。今後海外からの旅行者を増加させ、観光先進国になるためには、国民一人ひとりがインバウンドについて考えていくべきでしょう。そして、観光を生業とする人々も、学問的な観光の研究も、行政の取り組みも、世界水準に向けた注力が必要です。東海大学観光学部には、こうしたさまざまな分野でこれからの観光をリードできる人材を育成していくことが期待されます。

 

 ●本稿は2017年11月10日開催の学校法人東海大学建学75 周年記念観光学部シンポジウム「『インバウンド6000万人時代に向けた提言』〜産官学が果たす役割と課題〜」の講演およびパネルディスカッションの内容を編集したものです。

 

[シンポジウム登壇者]本保芳明氏(初代観光庁長官)/デービッド・アトキンソン氏(株式会社小西美術工藝社代表取締役社長)/岡田晃氏(株式会社ANA総合研究所代表取締役社長)/澤功氏(旅館澤の屋館主)/廻洋子氏(敬愛大学国際学部教授)/藤本祐司教授(東海大学観光学部)/岩橋伸行教授(東海大学観光学部長)