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くらしとつなぐ

その人らしく、対話から=国立がん研究センター東病院 がん相談統括専門職 坂本はと恵

 「今、希望するのは奥さんに会うこと。あいつは俺がいないと元気が出ないんだよ。もう少しだけ体を楽にして地元に帰してくれないかな」

     抗がん剤治療の継続が難しく、残されている時間もかなり限られていることを知ったある70代男性の言葉です。唯一の家族である奥さんは、病気で足が悪く、自力でお見舞いに来ることができない状況でした。

     「奥さんと会いたい」。男性の希望を聞いてから3日後、男性の自宅近くにある緩和ケア病棟が転院を引き受けてくれることになりました。それからわずか5日後、男性は奥さんに見守られながら旅立ちました。後日、奥さんが「最期まで『早く家に帰らなきゃ。お前の世話をしなきゃいけないから』と言っていました。すごく強がるんです。この言葉を含め、本当に彼らしい最期でした」と教えてくださいました。

     「あなたが、治癒の見込みがなく、命を脅かされる病気になった場合に大切にしたいことは何ですか」。昨年、市民を対象に行われた意識調査の項目です。多くの人が大切にしたいこととして「苦痛の軽減」「自立していること」「希望する療養場所の実現」「人生の達成感」などが報告されました。

     がん医療の現場にいると、時にがんの根治が難しいなど、人間の力では変えられない厳しい現実に直面します。一方、苦痛の軽減を目的とした薬の開発、支援制度の拡充や緩和ケアを提供する施設の増加など、緩和ケアの提供体制は変化し続けていることも実感させられます。

     例えば約15年前、全国に緩和ケア病棟は約120施設、利用の申し込みから入院までに3~4カ月かかることが少なくない状況でした。今や病棟は394施設に増加。入院までの待機期間は2週間以内の施設が60%以上を占めるまでに変化しました。

     人生の最期の時をどこでどのように過ごすのか。当然のことながら、それは単なる入院先探しではありません。一人一人がその人らしく過ごせ、大切にしたいことを最大限実現できることを願い、患者さんとその家族、関係者が一丸となって力を尽くすことだと私は考えています。

     また、それは皆さんが大切にしたいこと、つらいと感じていることを言葉にすることから出発します。医療従事者との対話を遠慮せず、まずは話しやすいスタッフに声を掛けてください。そこから支援の輪が広がっていくはずです。(次回は7月29日掲載)


    治癒の見込みがなく、命を脅かされる病気になった場合に大切なこと

    ・からだの苦痛が少なく、穏やかな気持ちで過ごせる

    ・楽しみがあり、明るく過ごせる

    ・自分が望んだ場所で過ごし、最期を迎えられる

    ・身の回りのことができて、トイレや排せつに困らない

    ・自分の人生をまっとうしたと感じる

    ・医師や看護師を信頼でき、気持ちが分かってもらえる

    ・「もの」や子ども扱いされず、生き方や価値観を尊重してもらえる

    ・自由で人に気兼ねしない環境で過ごす

    ・ひとに迷惑や金銭の負担をかけない

    ・家族や友人に気持ちが伝えられ、支えられている

    ※ホスピス・緩和ケアに関する意識調査2018年

    ※9割以上が「非常に大切」「大切」「どちらかといえば大切」と回答

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