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 ジャーマン・ベーカリーの「フロインドリーブ」は、神戸の名店中の名店である。もう覚えている人は少なくなったが、1977年に放送されたNHK連続テレビ小説「風見鶏」の主人公が、この店の創始者であるハインリッヒ・フロインドリーブさんと妻の高木ヨンさんである。この朝ドラで異人館が並ぶ北野界隈(かいわい)が、神戸を代表する観光地として決定づけられた。

     現在の社長、ヘラ・フロインドリーブ上原さんの祖父がハインリッヒさんだ。1884年ドイツ生まれ。14歳でパン職人の世界に入る。ドイツが占領していた中国・青島に渡り、1912年にベーカリーを開店するが、第一次世界大戦が勃発。日本はドイツに宣戦布告して青島を奪い、ハインリッヒさんは日本軍の捕虜として名古屋の収容所で敗戦を迎えることに。

     解放されるがドイツには帰らず、ちょうど名古屋で創業した敷島製パンの初代技師長として迎えられた。れんが窯はもちろん、本社工場の設計から技術面すべてを担当する。

     面白いのは、日独親善の一つとして捕虜作品の展示会があり、のちに同じ神戸で洋菓子店を開くことになるカール・ユーハイムさんがバウムクーヘンを、ハインリッヒさんがパンを焼いて出品。好評を博した。明治以来のドイツびいきであった日本であるが、この大正期の話には、彼らドイツ人の持つ高い技術を認める国際感覚とゆとりが感じられる。

     その後、ハインリッヒさんは関西に移る。「大大阪」時代を象徴する食品デパートであり大食堂を有するホテルだった難波橋南詰の「灘萬」を経て神戸で独立。1924年、中山手1丁目の「電停前」にパン屋を創業する。これがフロインドリーブで、北野界隈をはじめとする神戸在住の欧米人の支持を得た。その人気ぶりは神戸市内にパン、洋菓子、レストランなど10店舗を展開するほどだった。

     長男のハインリッヒ(2世)さんは、12歳で単身ドイツの有名菓子店に修業に出される。3年のうちに国家技術者試験に合格。彼は戦後日本に戻るが、国家マイスターの称号を得ていた。

     太平洋戦争の空襲で中山手の店は焼失、バラックからの再開となる。ほどなく従業員が復員し、製造体制が整うやフル稼働。社長のヘラさんは「毎日午後6時からパンの仕込みを始め、夜通し作業して翌朝、店に並びます。朝5時からはケーキとクッキーにかかり、その手伝いで多忙でした」と振り返る。

     吉田茂元首相はこの店のファンで、ドイツコッペの「ウィナー」を毎週取り寄せていた。「三ノ宮駅まで持って行って、汐留駅止めの鉄道便でした」とヘラさん。高度経済成長期には、神戸のフロインドリーブとして全国区の知名度を得る。

     95年の阪神淡路大震災は、容赦なくフロインドリーブにも襲いかかった。店は東に4度傾き、須磨の工場は地盤が激しく沈下。「2年ぐらい無理かな」とヘラさんは思ったそうだが、店に張られた再開を望む寄せ書きの声に「ゆっくりできないな」と半年で復旧。「レンガが割れないように、窯の温度を上げるのに1カ月かけた」という。

     現在の店は、子どものころから礼拝に通い結婚式も挙げた旧神戸ユニオン教会。ヴォーリズ建築である。教会自体は移転し、震災後も廃虚同然で放置されていた。その朽ちた教会を買い取り、2年かけて改装したのが99年。ヴォーリズの名建築と広く高い礼拝堂をカフェにした空間の魅力に、わざわざ足を運びたくなる新店舗。わたしたちは「フロインドリーブはすごい」と称賛した。

     ちなみにわたしが編集していたタウン誌で、この店のことを初めて書いたのが90年。四半世紀以上も前、ちょうどヘラさんが社長に就任した直後だ。「風見鶏以来、観光色が強くなったものの、当時から煉瓦(れんが)窯で焼き続けるジャーマン・ホームベーカリーの真髄(しんずい)は、代が替わっても変わらない」とある誌面を懐かしく読み直している。<文・江弘毅 題字/イラスト・奈路道程>


    フロインドリーブ

     日が差してくればどことなく神聖な雰囲気がする圧倒的なカフェ空間。オリジナルローストビーフサンドイッチ(2052円)はうまいのなんの。隣の工場で焼いたパン、ケーキ、焼き菓子が1階店舗にずらりと並ぶさまも壮観。さすが老舗ベーカリー。ウィナー540円。神戸市中央区生田町4の6の15。電話078・231・6051。10~19時。水曜休(祝日の場合翌日休)。


     ■人物略歴

    こう・ひろき

     編集集団140Bの編集責任者。神戸松蔭女子学院大教授。最新刊は22日発売された「K氏の大阪弁ブンガク論」(ミシマ社)。


     ■人物略歴

    なろ・みちのり

     イラストレーター。「月刊島民」をはじめ雑誌挿絵などを手がける。

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