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余録

その昔、泥棒の休日といわれた夜があった…

 その昔、泥棒の休日といわれた夜があった。60日に1度の庚申(こうしん)の日の夜で、人々は酒盛りやおしゃべりをして夜を明かしたのだ。眠っているうちに身中に潜む「三尸(さんし)の虫」が体外に出ぬようにするためだった▲この上尸、中尸、下尸という3種の虫、庚申の夜に宿主の体を抜け出し、天帝にその罪科を報告するといわれた。罪状次第で寿命が縮められたから、眠らないのが一番である。庚申待ちと呼ばれたこの行事、平安時代から続いていた▲きのう未明も泥棒は休業せざるをえなかったろう。サッカーW杯の決勝トーナメント、日本代表の対ベルギー戦のテレビ平均視聴率は30・8%、瞬間最高は42・6%(ビデオリサーチ調べ・関東)。早朝として異例の高視聴率だった▲この最高視聴率を記録したのが後半アディショナルタイム、土壇場でベルギーに逆転ゴールを許した場面だと聞けば、改めて天を仰ぎたくなる方が多かろう。2点のリードで一時は開きかけたベスト8への扉が閉ざされた瞬間だった▲だが例のボール回しを酷評し、対ベルギー戦の惨敗を予想した英BBCにして「戦士の気概を示した」と日本代表を称賛した。長らく「決定力不足」を嘆いてきた日本のファンに、「攻める代表」の姿を鮮烈に示した大会でもあった▲選手が涙で示した悔しさは厚い扉の向こうの光景をかいま見たからだろう。休業の泥棒も眠らせぬ未明の列島の盛り上がり、後の世に日本サッカーの新ステージの序章として語り継がれることになればいい。

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