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社説

米国が中国と貿易戦争 戦後秩序の重大な転換点

 トランプ米政権が中国製品3兆円超を対象とした制裁関税を発動した。米国企業の先端技術など知的財産権が中国に侵害されているという理由だ。中国は報復に踏み切り、本格的な貿易戦争に突入した。

     対抗策としてトランプ大統領はさらに巨額の追加関税を課す構えも示した。世界首位と2位の経済大国が高関税で応酬する異常事態である。

     第二次世界大戦後に米国が築いた自由貿易体制の重大な転換点だ。

     大戦時に米国務長官を務めたコーデル・ハルは、戦前の自国の保護主義に対する反省を回顧録にこうつづっている。「高関税はわれわれに繁栄をもたらすものではない。他国のうらみをもたらすものである」

     日米開戦の引き金となった「ハル・ノート」で知られるが、戦後の自由貿易体制の構想を練った人物でもある。大恐慌後の米国経済を守ろうと高関税で海外製品を締め出したことが各国との対立を激化させ、大戦の惨禍を招いたと考えたのだ。

    世界に混乱広げる独善

     関税をできるだけ低くして貿易を活発にする。世界全体が潤えば各国も豊かになる。米国が自由貿易を主導して戦後の世界経済を支えたのは、こうした理念に基づいていた。

     最も心配なのは米国の強硬な保護主義が世界に混乱を広げることだ。

     米中対立は、かつての日米貿易摩擦と同じ経済大国同士のあつれきだが、事態はもっと深刻である。

     安全保障を米国に頼る日本は、米国の要求をほぼ受け入れ、摩擦は日米間にとどまった。一方、米中は対立が泥沼化する恐れがある。両国の経済規模は世界の4割近くを占めるだけに世界経済を直撃する。

     さらに経済のグローバル化による国際分業が一段と広がっている。

     中国には日米欧の工場が集まっている。日本から部品が輸入され、中国で製品に組み立てられ、米国に輸出されるケースも多い。高関税で輸出が停滞すると分業も寸断される。影響は日本も含め広範囲に及ぶ。

     またトランプ政権は制裁関税に加え、中国や日欧に対し鉄鋼製品への高関税を発動している。自動車関税の引き上げも検討中だ。これに伴って保護主義が各国に連鎖すれば、自由貿易体制を根底から揺るがす。

     米国が鉄鋼や自動車に高関税を課す理屈として持ち出したのは、自国の安全保障の脅威になるというあいまいな内容だ。他国でも安保を盾に高関税を課す動きが出てもおかしくない。世界経済が悪化した場合、保護主義が一気に拡大し、景気をさらに冷やす悪循環に陥りかねない。

     本来、米国は超大国として世界の安定成長に責任を負う。貿易でもめた場合、世界貿易機関(WTO)のルールに沿って解決を図るのが米国が築いた自由貿易体制の原則だ。「米国第一」を振りかざし、制裁の応酬を引き起こすのは身勝手だ。

    多国間の枠組みが重要

     これまでの米中関係を振り返ってもトランプ政権の異質さは際立つ。

     米国の歴代政権も対中貿易赤字と中国市場の閉鎖性は問題視してきた。トランプ氏と根本的に違うのは、米国が主導する多国間の枠組みを通じて改革を求めてきたことだ。

     中国に市場開放と国際ルール順守を促すため、WTOへの加盟を後押しした。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)も推進した。知的財産権の保護も含めた地域共通のルールを設け、TPPに入っていない中国にも順守を迫る狙いだった。

     確かに中国の取り組みは問題が多い。WTO加盟時に知的財産権の保護強化を約束したが、効果が不十分と日欧も批判している。だとしてもTPPから一方的に離脱したトランプ政権の対応に説得力はない。

     トランプ氏の強硬姿勢の背景にはハイテク分野での覇権争いがある。

     米国は、奪われた先端技術が中国の新産業育成に利用されると危ぶんでいる。中国に経済規模で追い上げられ、先端技術でも脅かされる事態への危機感が強いようだ。

     しかし保護主義は米国の国力を低下させるだけだ。高関税で非効率な産業が温存され、結局は競争力を失ってしまう。やはり多国間の枠組みを活用する必要がある。

     中国も報復を自制すべきである。米国の保護主義を批判するが、これまで改革を求められても、大型商談でかわしてきた。経済力に見合った責任を果たしてほしい。

     日本も大国として自由貿易の維持に責任がある。政府は米国に保護主義の撤回を働きかけるべきだ。

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