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我らが少女A

/333 第9章 13=高村薫 田中和枝・挿画監修

 その野川公園で元美術教師栂野節子が事切れ、不思議なことが起こる。一つの死が、全生命を含めたこの宇宙の、ごく微細なエネルギーの放出や干渉や伝播(でんぱ)を引き起こし、死者に近しい人もそれほどでもない人も、ほとんどそうと意識しないままふと何かを感じたり、考えたりするのだ。それは、あるときは虫の知らせになり、あるときは神秘体験になり、多くの場合は何かが脳裏を過(よぎ)ったこと自体、速やかに忘れてしまうが、その日のその時刻へ時間を巻き戻すことができたなら、実に多くの人びとが栂野節子、もしくは彼女にまつわる出来事の片々が傍らを過ってゆくのに気づき、いまのはいったい何かと一瞬まばたきしたことだろう。

 午前七時半から八時前にかけて、たとえば栂野家の向かいに住む老夫婦は二人して節子の怒鳴り声を聞き、朝…

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