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Interview

堀江敏幸さん(作家) 時代への問い、奥行き深く 短編集『オールドレンズの神のもとで』刊行

堀江敏幸さん=渡部直樹撮影

 作家、堀江敏幸さんの短編集『オールドレンズの神のもとで』(文芸春秋)は、長さもテーマも手法もさまざまな18編から成る。「すべて雑誌などからの依頼に応じて執筆した。よくぞこんなバラバラなものを書いたと思う」と話す。

     見開き2ページに収まる掌編から、50ページに及ぶ作品まであり、発表時期も2004~17年にまたがる。小説とエッセーを区別しない自在な散文を追求してきた作家だが、この本では虚構性の明確なものがそろった。「それぞれ注文の条件が具体的に決まっていたから」だという。

     漫画家が描いたイタリア人の肖像画をもとに「絵のままの主人公を想像して書いた」作品もあれば、住宅雑誌から頼まれ、ある設定の家族が住みそうな家を描いたものもある。雑誌『男の隠れ家』の依頼で書いた「めぐらし屋」は、後に毎日新聞日曜版の連載小説として長編(同題で07年刊行)に発展した。どの作品も奥行き深く描かれ、続きを読みたくなるような余韻がある。「一冊にすると何かしら統一感が生まれてくるという期待はあった」と言う通り、全体として不思議な世界が形作られている。

        ■  ■

     とりわけ変わった味わいなのが、最後に置かれた表題作だ。頭部に「一センチ四方の小さな正方形の孔(あな)」を持ち、一生に一度激しく頭が痛んで「無名の記憶が不意に臨界点を迎える」という一族の男による語り。臨界が訪れた時は「荒れ狂う記憶の粒を吸収する」ため細い木の棒を孔に差し込まなくてはならない。その際に男が見る奇妙な「映像」を記していく体裁だが、謎めいていて散文詩のようにも読める。

     3年前、フランスで刊行された植田正治(1913~00年)の写真集に添える文章として日仏英3カ国語で掲載された作品だ。植田は鳥取を拠点に独自の演出写真を確立したことで知られるが、この写真集の1枚に、頭に大きなばんそうこうを貼った少年の写真があった。

     「そこから始めて、想像力で2次元の写真を3次元化していった。恣意(しい)的に、関係のない写真をつなげて話を作っている」。作中では「色のない世界」の男が臨界によって「色のある世界」に出合うが、これも「大部分がモノクロで、最後に少しカラーが出てくる」写真集の構成に基づく。

        ■  ■

     また、この作品には原爆や原発のイメージが頻出する。「広島カープの帽子をかぶった少年」の写真にもよるが、11年の東日本大震災と原発事故を経たことも関わっているという。「本来なら植田さんの世界はもっと静謐(せいひつ)な、柔らかいものとして捉えられていると思うが、僕は写真から何とも言えない、ざわざわする感じを受けた。そこには震災、原発事故の後に起きた、別の波長の揺れが加わっている」

     もとより、堀江文学は社会的な問題を直接訴えかけるものではない。この短編集でも、むしろゆったりした時間の中で交わされる多彩な人々のやり取りの底に、批評的なまなざしがある。表題作には「なにごとも数値で表現するこの世界がひた隠しにしてきた、もうひとつの世界」という言葉が出てくる。「人は単体で生きることはできない、つながりがあって生きているということを書いている。これは数字にならないものだ」

     全編を通し、時代への問いかけが、決して声高にではなく伝わってくる。「すぐに分かる強い言葉で戦わなければ間に合わないという状況がいま続いている。そうでない戦い方はだんだん許されなくなってきたが、ゆっくりした回路も用意しておかなければならないと思っている」【大井浩一】

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