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余録

「苦熱」、つまり熱さに苦しむという漢詩がある…

 「苦熱」、つまり熱さに苦しむという漢詩がある。北宋(ほくそう)の韓〓(かんき)が詠んだある夏の暑熱で、天地は煮え立ち、竜や雷神もさっさと逃げ出したという。あらゆる物が干し肉になりそうだったというから、すさまじい▲韓〓はそこで神仙の住む涼しい別世界に思いをはせ、飛んで行きたいものだと空想する。だが、彼はすぐに一人で行くのは道義に反すると思い直す。「なんぞ世(せ)上(じょう)の人の同日に毛羽を生ずるを得んや」(吉川幸次郎(よしかわ・こうじろう)著「宋詩概説」)▲世の中の人すべてが一緒に羽を生やして飛んで行けぬものか--というのだ。朝廷の重臣だった韓〓はまず民の幸福を考えるべき立場だった。そして今、やって来た夏の暑さが豪雨の被災地の住民の身の上を気づかわせる列島である▲「みんな干からびてしまう」。交通網の寸断で給水や物流がとぎれ、広島県呉市のような中核市でもこんな悲鳴が上がった。四国が梅雨明けしたきのうも被災地の多くでは真夏日となり、避難所や復旧作業の住民を熱中症が脅かした▲睡眠や入浴のままならぬ避難所暮らしで、疲労のたまる体を襲うこの暑さである。熱中症に加えて感染症の恐れも高まるのに、飲み水や手洗いの水も十分でないところがある。水分補給はエコノミークラス症候群の予防にも不可欠だ▲政府は自治体の要請をまたずにエアコンや水を現地に送るプッシュ型支援を行う。まさしく時は命なりという非常事態だ。暑さから逃れる羽を一刻も早く被災地へと届けたい平成日本の「苦熱」である。

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