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我らが少女A

/335 第9章 15=高村薫 田中和枝・挿画監修

 上田亜沙子は雪子との約束を忘れていたわけではない。自身の病気や引っ越しなど、身辺の変化の大きい年だったせいか、雪子が知る由もない隘路(あいろ)に自分で自分を追い詰めてしまい、電話もかけそびれて、プレゼントだけ郵送するに至ったのだ。ほんとうは、栂野先生の手紙の件で雪子に嘘(うそ)をついたことを謝罪したいと思い、何度か手紙を書こうとしたのだが、それがどうしてもうまくゆかない。もともとまとまった文章を書くのが苦手だということもあるが、書いては消し、書いては消し、するうちに自分が何をしているのか分からなくなり、いつの間にか雪子への謝罪よりも自分自身についてきた嘘があるような気がし始めて、あてもなく考え込む日が続いている。いや、正確には、目的地も乗るべき列車も分からないまま、駅のホームに立ち続けているといったところだろうか。

 駅のホームは、十二年前のあの栂野節子の手紙であり、列車は十二年前と今日をつなぐ亜沙子の記憶だ。この…

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