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論点

なり手不足の地方議員

 地方議員のなり手不足が議会制民主主義の足元をむしばんでいる。市町村合併後、議員定数は減っているが、2015年の前回統一地方選で無投票の町村議選は全体の2割を超えた。人口減や高齢化による「競争なき議会」は住民の無関心を招き、地方議会不要論すら聞こえる。改革の取り組みから問題点を探った。【聞き手・中村篤志】

    夜間・休日審議で村民参加へ 下岡幸文・長野県喬木村議会議長

    下岡幸文氏

     私たち喬木(たかぎ)村議会(定数12)は昨年12月から「夜間・休日議会」を始めた。今年の6月定例会で3回目だ。本会議のうち開・閉会は平日に行い、一般質問は土日どちらか。常任委員会は原則、平日の午後7時から午後9時までの夜間に運営している。夜に審議するから、当然、時間は限られるでしょ。だから6月から、委員会に付託された案件について各議員があらかじめ賛否とその理由を文書で提出し、傍聴者や村職員にも配布することにした。議員の立ち位置を「見える化」し、委員会を実質的な討論の場にするためだ。

     議会改革のきっかけは、無投票になった昨年6月の村議選だった。これまで、村議選では、村内にある8地区から「地区推薦」によって議員を出してきたが、人口減少と高齢化で、いよいよ候補者が立てられない地区が出てしまった。それに自治会の会合に出るのは男性の世帯主ばかりで、女性は候補者にすらなれん。地区推薦に頼らず、幅広い年齢層で多様な人材を集める議会にできないか--。議長になってから兼業の議員が活動しやすいよう、夜間・休日議会を提案し、村長や村職員の労働組合にも協力してもらった。

     これまでは、みんなリタイアしてから村議になるから、当選してもすぐに辞めてしまい、議会としての「蓄積」がなかった。議員を名誉職と思っている人もいて、執行部の追認機関になってしまっている。本当に村をよくしたいという若い人を議員に育て、4、5期ぐらいまで続けさせないと、チェック機能を果たせんのじゃないかな。

     私の考える村議会の役割は、(1)民意の集約(2)村政のチェック(3)政策立案・提言だ。まず議員が報告会や各団体との意見交換を通じて村民の声を吸い上げ、村側とは違う視点から、予算の執行状況などを検証する。その上で村民の意見を政策や提言にまとめ、村政に生かし、法律や条例による対応が必要なら県や国にも要望する。こうした村議会を通じた「政策サイクル」を確立し、村民の議会への関心が高まれば、結果的に議員のなり手も増えると思う。

     同じ村にいながら、これまで議会と村民が意見交換する機会はほとんどなかった。村民も遠慮して、私ら議員にはオブラートに包んだようなことしか言わないし。村議会事務局と連携して議会の手引書をつくり、村民向けに議案審査から議決まで議会の流れを説明したり、議会用語を解説したりしている。村議会のホームページには、各議員の携帯電話番号まで掲載し、全国の地方議員から賛否両論の電話がある。中には、夜間・休日議会の取り組みを「パフォーマンス」と片付ける人もいる。

     喬木村の議会改革が定着するまで、あと4、5年はかかると思う。全国の地方議員が視察にくるけれど、議会に対する危機感に温度差を感じる。しかし、私は村議会を変えることで、村民の意識を変えていきたい。「自助、共助、公助」ってあるでしょ。村民の多くが期待するのは「役場や議会が何とかしてくれ」という公助なんですよ。いつまでも村に頼るんじゃなく、村民にも政治参加してもらい、一緒に村政をつくっていきたい。

    住民との距離縮める改革を 小田切徳美・明治大教授

    小田切徳美氏

     私が座長を務めた総務省の有識者会議「町村議会のあり方に関する研究会」は地方議員のなり手不足問題について昨年7月から議論を重ね、今年3月に報告書をまとめた。なり手不足の問題には、地方で加速する人口減少と高齢化に加え、制度的な問題がある。持続可能な地方議会を実現するためには、どんな取り組みが必要なのか--。私たちはまず地方自治法に基づき、町村議会に代わって、住民が総会で予算などの議案を審議する「町村総会」について現実に機能するかを整理した。

     町村総会は地方自治法で町村にのみ認められており、人口約400人の高知県大川村が昨年、導入を検討した経緯がある。戦後間もない1950年代に東京・八丈小島の旧宇津木村で実施されているが、当時の有権者数は38人にすぎなかった。地方自治体の合併で町村規模が拡大する中、有権者数も多数になっており、住民が一堂に会する町村総会の開催は事実上、困難だ。そこで「町村総会の持つ住民参加の仕組みを取り入れる形で、さらに地方議会制度を充実させることはできないか」を検討した。

     報告書では現行議会以外に二つの議会像を示した。まず、少数の議員によって議会を構成し、議員に専業的な活動を求める「集中専門型」。議員活動だけで生計を立てられるよう、十分な議員報酬を保障する。議員数が減る分、多様な民意を反映させるため、住民が議会活動に参加できる仕組みとして、新たに「議会参画員」制度を設けることを提言した。刑事裁判で国民から選ばれた裁判員に参加してもらう裁判員制度を参考に、くじ引きなどで議会参画員を選ぶため、女性が半数程度入ることになることも期待している。

     もう一つは、本業を別に持ち、非専業的な議員で構成する「多数参画型」だ。現状よりも議員数を多くし、各議員の仕事量や負担を軽減する代わりに、議員報酬は副収入的水準にとどめる。数十人規模の大きな議会による「準町村総会」的な位置づけで、本業とも両立しやすいよう、夜間や休日中心の議会を想定している。他の自治体の職員との兼職を可能にするなど、議員の規制も緩和していく。それぞれの自治体は現行議会を含め、三つの議会像の中から選択し、新たな議会を導入するなら条例で定める。

     現状の地方議会は、住民との距離感が遠くなりすぎている。背景には、地域の活動に対する住民の「あきらめ」があり、「行政や議会が何かやってくれるだろう」という根強い「お上」依存心がある。住民の当事者意識を高めるため、誰もが何らかの形で地方議会に関わるべきだ。例えば、近所に住む人が議会参画員になり、議会活動に携わると、周りの人にも議会への関心が浸透していく。

     これから深刻な人口減に直面する日本では、地方を支える人材をいかに増やすかが重要だ。自分たちの問題を自分たちで解決できるよう、地方議会を通じて住民自らが地域を管理できる仕組みをつくりたい。それぞれの地域にあったやり方で議会を活性化し、住民参画を実現すべきだ。

    まず集中会期制を見直せ 田村秀・長野県立大公共経営コース長

    田村秀氏

     多くの地方議会は「議会」というよりも「集会」になっており、議論の場とはいえない。このため、「議会の活動が見えにくいから、地域住民による議会不要論を招く」という負の循環に陥っている。討論が低調なのは、議員の顔ぶれが似ていることが一因だ。多くが高齢化しており、自営業か引退した人で、しかも、ほとんど男性で構成されている。多様な人材を議会に送り込み、議員の「なり手不足」という問題を解消するためには、まず、議会の会期制を見直すべきではないか。開会日から閉会日まで数週間もあると、会社員はまとまった休みが取りにくく、兼業できない。例えば、毎週木曜日を「議会の日」として通年で同じ曜日に議会を開けば、あらかじめ休みが取れるので、会社員や女性も議論に参加しやすくなる。

     併せて、議員の対象者を増やすため、選挙に立候補することができる被選挙権の年齢を引き下げるべきだ。衆院議員や都道府県議、市区町村議、市区町村長の被選挙権は現在、満25歳以上だが、18歳、あるいは20歳ぐらいまで引き下げてもいい。大学生と話をしていると、社会保障の将来像など、関心の高いテーマはあり、問題意識も持っている。今の議会は社会人人生で最後のポストになりがちだが、最初のポストとして位置づけてもいいのではないか。成熟分野から成長分野へと雇用の流動化が求められる中、政治の世界も顔ぶれを固定せず、他分野からも参入できて、一定期間がたてば転身しやすい環境を整備すべきだ。

     一方、このまま人口減少が進むと、小規模自治体では、議員だけでなく、首長や職員も確保できなくなる可能性を否定できない。内閣府は地方創生に積極的に取り組む市町村(原則人口5万人以下)に対し、国家公務員や大学研究者、民間の人材を市町村長の補佐役として派遣している。私自身、2015年度から群馬県みなかみ町に参与として派遣されており、町の創生に関わってきた。行政ニーズの多様化、複雑化に伴い、専門性を有する人材の確保が急務になっている。憲法改正論議の中で、地方議会によって選任された行政専門家に政策の実行を委ねる「シティーマネジャー」制度を検討することも有意義だろう。中長期的には、小規模自治体が外部の人材を活用できる制度設計が必須になってきている。

     地方行政に関わって気になるのは、地域のことを地域で決める「住民自治」の力が弱くなっていることだ。地方分権といわれて久しいが、地域住民の行政依存はむしろ強まっているように見える。加えて、議論を避ける傾向が根強く、ディベート文化も普及していない。自分と対立する意見を聞き、異なる立場で問題を考えることが少ないように感じる。議員のなり手不足の解消など、地方議会の改革はもちろん大事だが、議会は地域社会の鏡であり、議員のレベルは住民に比例する。すぐに効果が表れる「特効薬」はない。学校現場で政治教育を充実させたり、議会活動に関心を持つよう住民の意識を高めたりして、「漢方薬」のような取り組みを地域社会全体で続けるべきだろう。


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     ■人物略歴

    しもおか・ゆきふみ

     1955年、長野県喬木村生まれ。みなみ信州農業協同組合喬木支所長を務めた後、2013年に喬木村議に初当選し、現在2期目。17年6月から議長。


     ■人物略歴

    おだぎり・とくみ

     1959年生まれ。東京大大学院博士課程単位取得満期退学。2006年から明治大農学部教授。専門は農山村再生論。著書に「農山村は消滅しない」(岩波新書)など。


     ■人物略歴

    たむら・しげる

     1962年生まれ。東京大工学部卒。専門は地方自治。旧自治省職員、新潟大法学部長などを経て、今年4月から長野県立大教授(公共経営コース長)。

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