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社説

人口を考える 縮む日本社会 未来の危機を直視する時

 この国に待ち受ける未来を、私たちは正確に捉えているだろうか。

     かつて経験したことのない勢いで日本の人口は減っていく。2053年ごろに1億人を割り、100年後には6000万人から3000万人台になると推定されている。

     江戸時代の日本は3000万人国家だった。その程度の規模でゆったりと暮らせばいいではないか、と考える人もいるだろう。

     しかし、現代に生きる私たちは、年金や介護、子育てなどの社会保障がなければ暮らせない。鎖国の時代とは異なり、経済も安全保障も外国と絶えず影響し合っている。

     日本だけが急激な速度で人口が減っていけば、社会はその変化に耐えられなくなる。

    15年後の空き家率3割

     何もしなければ危機は確実に深まる。まずはこの変化が何をもたらすかに目を凝らしたい。

     <2025年> 東京五輪・パラリンピックから5年後のこの年、人口が最も多い団塊世代がすべて75歳を超える。1人当たりの医療費は現役世代の5倍かかる。国民全体の医療費も現在の42・3兆円から57・8兆円へと膨らむ。

     大企業の会社員が入る健保組合の多くが赤字で、後期高齢者医療制度への支出金の負担に苦しんでいる。23%もの組合が解散の可能性があるという。負担増に耐えられず解散する組合が続出すると、戦後の日本人の生命や健康を守ってきた国民皆保険の土台が崩れてしまう。

     <2033年> 空き家率が3割を超える。全国の空き家は2166万戸と予想される。空き家が増える地域は住宅価格の下落を招く。建て替えや修理をする費用が工面できなければ、老朽化した大量の空き家が放置されるままになるだろう。

     日本の人口は08年の1億2808万人をピークに減少に転じた。ただ、それ以降も住宅は増え続けている。すでに住宅の数は世帯総数より16%多いのに、新規の建設は続いている。国は景気対策の面から供給過剰を後押ししている。そのツケが一気に回ってくる。

     道路や橋、上下水道などの社会インフラは日本が持続的に成長することを前提に整備されてきた。特に高度成長期以降、全国各地で公共工事に多額の予算が投じられてきた。地方の景気対策や雇用の確保という意味合いもあった。

    年齢構成の激変が本丸

     ただし、造ったものはいずれ老朽化していく。道路や港湾の耐用年数は50年といわれており、20年代にはその多くが耐用年数を超える。

     <2044年> インフラの修繕費がピークとなり、18兆~19兆円にまで膨らむ。修繕費は市町村の負担分も大きく、過疎地の道路や橋は老朽化したまま放置されるものが多くなる恐れがある。

     増え続けてきたのは大学も同じだ。1955年時点では228校だったが、92年に523校、2012年には783校になった。

     ところが、1992年に205万人いた18歳の人口は、2040年に88万人にまで落ち込む。大学の倒産や統廃合が続出するかもしれない。

     人口減少は過疎が進行する地方の問題だと思われがちだ。しかし、その直撃を受けるのはむしろ東京や大阪のような大都市である。

     今の東京は、活気に満ちているように見える。湾岸部では高層マンション群が林立し、都心の真新しい商業ビルは外国人観光客でにぎわう。

     だが、きらびやかな街の内部で危機が進行している。

     日本全体の人口が減る一方で、75歳以上の高齢者は54年まで増加傾向にある。その多くを抱えているのが都市だ。戦後、地方から東京などの都市に転入してきた人々とその子ども世代が高齢化の階段を次々に駆け上がっていく。

     これまで都市の高齢者を介護する労働力は、地方が供給源になってきた。だが、今後はその穴が埋められなくなる。都市部での介護施設や介護サービスの極端な不足は、最も深刻な社会問題になるだろう。

     1960年の日本の人口構成は、子どもや若い世代が多く、高齢になるほど少ない典型的な「ピラミッド型」だった。50年後の2010年は65歳前後が多い「つぼ型」。それが2060年になると、若い世代が少なく、高齢者の層が膨らむ「棺おけ型」へと大きく形を変える。

     つまり、日本の危機は単に人口が減るだけではなく、年齢構成が急激にバランスを失うことにある。

    今から備えを万全に

     高齢化率は2060年時点で38%を超える。この年、認知症の人は1154万人になると予想されている。人口そのものが9284万人となるので、国民の8人に1人が認知症という計算になる。

     人口減少はいったんスイッチが入ると、止められなくなる。現在の減少規模は年間40万人程度だが、60年を過ぎると100万人近くになる。和歌山県や北九州市の人口が毎年消えていくようなものだ。

     このように日本の未来図を概観していくと、人口減少に対する安倍政権の甘さが浮き彫りになる。

     待機児童の解消などの少子化対策は十分とは言えない。現在約120兆円の社会保障費は、際限なく膨れ上がる一方だ。空き家や老朽化するインフラへの対策も乏しい。

     これから数十年かけて日本に訪れる巨大な変化は、従来の制度や慣習をなぎ倒すほどの威力がある。

     ただ、長期にわたる政策ビジョンと、世代をまたいで持続する社会の強い意思があれば、この変化にも必ず適応できるはずだ。悲観論に閉じこもってはいけない。

     冷静に、そして覚悟を持って未来に備えるため、人口減少という大波について集中的に考えてみたい。

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