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世界初 3Dプリンターで架かる橋

上部から見た橋の主要部分。流れるようなデザインが特徴だ。架設時には底板が取りつけられる=MX3D提供

 オランダの首都アムステルダム中心部の運河に、3Dプリンターで造られたステンレス製の橋を架ける世界で初めての計画が進んでいる。地元のスタートアップ企業「MX3D」が中心となり、デザイン事務所や橋りょうメーカー、ソフト会社など国内外から20の事業者と大学、アムステルダム市が参加する共同プロジェクトだ。

 MX3Dのプリンターは、製造業の現場で使われている人間の腕(アーム)のような形の産業ロボットの先端に溶接機のノズルに似た専用機器を取り付けた。動くアーム部分の先から高温のステンレスが1時間に1~3キログラムのスピードで「出力」され、空中に絵を描くように少しずつ層を重ねる。

橋を「出力」する3Dプリンター。ロボットアームの先端からステンレスを少しずつ重ねて造形した=MX3D提供

 橋は今年4月、造船所を改築したアムステルダムの工房で全長約12メートルの主要部分が完成した。4台のロボットで約4.5トンのステンレスを6カ月かけて「印刷」した。現在は強度テストを続けている。

 架設の予定地はアムステルダムの主要な観光スポットでもある赤線地区。歩行者と自転車専用として利用される。市の担当者によると、現場では岸壁の補強工事を行う必要があり、実際に橋が架かるのは2019年末から20年初めになる見通しだという。

歴史と未来をつなぐ

橋を「出力」する3Dプリンター。ロボットアームの先端からステンレスを少しずつ重ねて造形する=MX3D提供

 空間に立体物を「印刷」するように造形する3Dプリンターは、ものづくりのあり方を根本から変えると期待がかかる。製造業にとどまらず、医療や食品など広い分野で応用に向けた研究開発が世界で進む中、MX3Dは3年前に今回の計画を発足させた。プロジェクトマネジャーのフィリッポ・ジラルディさん(29)は「歴史あるアムステルダムの運河に橋を架ける発想の原点には、最新の技術と歴史をつなげたいという考えがありました」と話す。

 アムステルダムに張り巡らされた扇形の環状運河は、オランダが「黄金時代」を迎えた17世紀に整備された。運河とそれに沿って並ぶ歴史的建造物は世界遺産にも指定されており、オランダの古き良き時代の象徴だ。ジラルディさんは続ける。

 「人々が毎日利用するものを作ることで、専門家や同業者だけでなく一般の人たちに未来を知ってもらうことにつながる」「アムステルダムは近年、我々のようなイノベーション分野の企業を多く引きつけています。プロジェクトは未来を切り開くアムステルダムの街の新しいイメージを支えるものになるでしょう」

 3Dプリンターの特性を生かすように曲線を多用した橋のデザインは、奇抜に見えるが各部分にかかる荷重を分析して設計された。担当したのはアムステルダムを拠点とするデザイナー、ヨリス・ラーマンさん(38)。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが、各分野の革新的な功績を残した人物を表彰する「イノベーター・オブ・ザ・イヤー」(11年)に電気自動車大手テスラの創業者、イーロン・マスク氏らと共に選出した気鋭のデザイナーだ。

 ラーマンさんは今年4月、地元紙NRCハンデルスブラットに橋のデザインの特徴について「自然の力のパターンに従っているので、まるでアール・ヌーボーの様式に見えるかもしれません」と語っている。これまでの技術的な制約から解き放たれたことで、高度に機能化した有機的なデザインが可能になったという。

200カ所にセンサー

橋の底部を点検するエンジニア。側面には装飾が施されている=MX3D提供

 プロジェクトにはもう一つの特徴がある。荷重、ひずみ、温度・湿度を測ったり、人の動きを感知したりするための複数の種類のセンサーを橋の200カ所以上に埋め込んだ。これにより、架設後も橋の上を何人がどれくらいの速度で通り、どのような負荷を与えているかというデータをリアルタイムで把握できる。また気温や大気など外部環境の変化もあわせて計測することで、経年変化の多角的な分析につなげられる。データは外部の大学や研究機関にも公開し、将来的に3Dプリンターを使う橋や大型構造物の設計に生かしたい考えだ。

 プロジェクトの総費用は同社の設備投資や研究開発費も含めて150万ユーロ(約1億9500万円)。「実際のプリンティング(建設)費用はごく一部に過ぎないですが、まだ費用がかさむ工法です。コスト面で競争力を高めることは私たちの優先事項です」とジラルディさんは強調する。

 橋は今年10月、オランダ南部アイントホーフェンで開かれるデザインイベント「ダッチ・デザインウイーク」で架設に先駆けて一般公開される。【八田浩輔】

工房で完成した橋の主要部分に並んで立つ開発チームのメンバー。実際に架設する際には底板が付けられる=MX3D提供

八田浩輔

ブリュッセル支局 2004年入社。京都支局、科学環境部、外信部などを経て16年春から現職。欧州連合(EU)を中心に欧州の政治や安全保障を担当している。エネルギー問題、生命科学と社会の関係も取材テーマで、これまでに科学ジャーナリスト賞、日本医学ジャーナリスト協会賞を受賞(ともに13年)。共著に「偽りの薬」(毎日新聞社)。Twitter:@kskhatta

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