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そこが聞きたい

人口問題 解決への糸口は? 国連人口基金(UNFPA)事務局長 ナタリア・カネム氏

ナタリア・カネム氏

女性中心に政策転換を

 先進国で少子高齢化が進む一方、途上国では若者を中心とする人口増加が続く。貧困や移民の発生など各国が抱える課題の根底には人口の不均衡が横たわる。解決への糸口はあるのか。リプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)=1=の擁護に取り組む国連人口基金(UNFPA)のナタリア・カネム事務局長に聞いた。【聞き手・福島良典、写真・川田雅浩】

    --世界の人口を巡る課題は何ですか。

     世界には出生率が高く、若者の多い国もあれば、人口減少と高齢化が進む国もあり、それぞれの政府は子どもが「多すぎる」「少なすぎる」と懸念している。いずれの場合も、「女性を中心にすえる」ことで人々にとって最も望ましい状況がもたらされる。

     例えば、途上国で若者人口が増大する現象「ユースバルジ」(「若者の膨らみ」の意)。女性の性と生殖に関する健康の点から見ると、早婚の結果という側面がある。10代の妊娠の場合、肉体的、心理的に用意ができておらず、社会も彼らを支援し、次世代を育てる準備ができていない。

     「子どもを産むか産まないか」「子どもの数は何人か」は女性自身によって決められなければならない事柄だ。アフリカなどの出生率の高い国々では女性たちは「8人もの子どもは持ちたくない」と思っている。「女性の教育水準が高いと、出生率は下がる」という調査結果が出ている。出生率が高い国々で「何も手を打たなくても出生率が下がる」と考えるのは非現実的だ。

     持続可能な開発を成し遂げるには若者教育が必要だ。女性が仕事を得て働き、社会参加するには、少女時代に望まない妊娠をしないよう、性と生殖に関する健康を自己管理しなければならない。中等教育を受け、自らの出産を管理できる女性は「貧困の悪循環」を断ち切ることができる。

     最近、気候変動と、性と生殖に関する健康の関係を調べた。出生率の高い国々では、干ばつや洪水、飢饉(ききん)などに対して脆弱(ぜいじゃく)で、女性の権利がないがしろにされがちだ。

    --女性の権利を守る上での障害は何ですか。

     問題の根源はジェンダーの不平等だ。1994年にカイロで開かれた国際人口開発会議は「男女が手を携えて、持続可能な社会を建設しなければならない」と訴えた。欠けているのは「女性・少女の完全な尊重」だ。男の子の出産を望む社会風潮は依然、残っている。一部の国で続く女性性器切除の風習は少女たちの生殖能力を一生損ない、死亡に至るケースもある。2030年までに撲滅したい。

    --トランプ米政権はUNFPAへの資金拠出を停止しました=2。影響は深刻ですか。

     二つの点で極めて深刻だ。まず、UNFPAが「女性に中絶や不妊手術を強要している」との(米政権の)主張は事実ではない。UNFPAは、性と生殖に関する女性の権利を守る国連機関だ。ジェンダーの平等と女性の人権のために長年、先頭に立って活動してきた。

     次に、少女たちが性暴力から守られて育ち、学校に通うには情報が命綱だ。UNFPAから、若者たちに情報を提供するための「酸素」(資金)を取り上げるのは、前進を阻む行為だ。

     (米国の撤退で)巨額の資金を失った。人道支援分野に1325万ドル(約15億円)追加拠出してくれた日本など、拠出金を増やしてくれた国々に感謝する。

    --日本政府の支援を得て、バングラデシュに逃れたミャンマーの少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」への支援を強化しています。

     ロヒンギャは世界で最も弱い立場に置かれている人々だ。生まれ育った土地から逃れ、多数の女性や子どもたちが性暴力をくぐり抜けてきた。バングラデシュ南東部のコックスバザールにある難民キャンプを7月初め、グテレス国連事務総長らと共に再訪し、現状を視察した。難民キャンプでは大勢の赤ん坊が生まれ、母親たちは「モンスーンで小屋の屋根が崩れ落ちないか、ずぶぬれにならないか」と心配している。母親が無事に出産し、新生児が健康であるようにしなければならない。

     UNFPAは生理用品や腰布などを入れた「尊厳キット」を配布している。妊産婦用の特別キットもある。これらの支援物資は国際社会の連帯のシンボルだ。UNFPAバングラデシュ事務所の加藤伊織副代表はキャンプの女性たちの命を守っている。

     日本政府はミャンマーでの国勢調査も支援しているが、これはロヒンギャが安全に帰還する際の基礎情報となるものだ。日本からの支援は、ロヒンギャの人々に「日はまた昇る」という希望を与えている。

    --先進国と途上国で人口のバランスが崩れ、貧困国から富裕国への移民が増えています。

     移民の問題は出身国の社会・政治・経済状況と切り離すことはできない。人々は仕事があるところに向かう。高齢化が進んでいる先進国では、一部の労働が移民によって補われ、移民労働力に依存している。

     私自身、若い頃にパナマから米国に移住した移民だ。けれども、大半の人々は「自国で暮らし続けたい」と願い、移民になっても移住後、後ろ髪を引かれていると思う。移民が新天地を求めて海を渡る途中に命を落とすよりも、人々がいま暮らしている移民送り出し国に投資する方が良い解決策だ。

     カイロ、チュニス、ナイロビ、ベイルートで専門家が若者の「出身地」「滞在歴」「滞在の合法・違法性」「次の目的地」「所在を両親が知っているか」などを調査した。「仕事にありつけるだろう」と思って4都市にやって来た若者たちの多くは、事前に正確な情報を持っておらず、移動の途中に性暴力を含む多大な被害を受けていた。

     すべての統計には「人間の顔」がある。移民、避難民、難民は皆、物語を抱えている。共感に基づき、かつ根本的な問題は何なのかを理解する「人間的な対応」が必要なのだ。

    聞いて一言

     性や生殖に関する問題には宗教や文化が絡む。避妊がご法度のキリスト教カトリックの総本山バチカン(ローマ法王庁)を取材していた時のことだ。途上国でエイズ予防のためのコンドーム配布事業に参加していた修道会「マルタ騎士団」の幹部が、「教義第一」の保守派の突き上げに遭った。改革派のフランシスコ法王の取りなしで事なきを得たが、立ちはだかる壁の厚さを感じた。人口問題解決で女性の権利を重視するカネム事務局長も同じような障害に直面していることだろう。「女性第一」の取り組みを後押ししたい。


     ■ことば

    1 リプロダクティブ・ライツ

     「性と生殖に関する権利」と和訳される。子どもの数や出産時期などを自由に決定でき、そのための情報と手段を得ることができる基本的人権。1994年にカイロで開かれた国際人口開発会議で提唱され、95年の第4回世界女性会議「北京宣言」に「女性のリプロダクティブ・ヘルスの促進」が盛り込まれた。

    2 米政府の資金拠出停止

     トランプ政権は2017年4月、UNFPAが「中国で強制的な人工妊娠中絶や、本人の同意を得ない避妊手術を支持したり、関与したりしている」として資金拠出停止を発表した。UNFPAは「誤った主張」と反論。米国は16年時点で約6300万ドル(約70億円)を拠出する第3位の拠出国だった。


     ■人物略歴

    Natalia Kanem

     パナマ生まれ。米コロンビア大で医学博士号を取得。1992年から米フォード財団で、女性の性と生殖に関する健康の問題などを担当。UNFPAのタンザニア事務所代表、事務局次長を経て2017年10月から現職。

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