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余録

「この節毎夜二時ごろに現出せる赤色の星を…

 「この節毎夜二時ごろに現出せる赤色の星を遠めがねにて見れば、西郷隆盛(さいごう・たかもり)氏が陸軍大将の官服を着せる体(てい)なりと。何人(なんびと)がこれを言い出したるか、かかる妄説さえ伝えに伝えて、物干棚(ものほしだな)に夜を更(ふ)かす人のある」▲1877(明治10)年8月3日、「西郷星」の出現を伝える新聞記事である。これ、実は9月3日に地球に最も近づいた火星の大接近であった。西南戦争で政府軍に追いつめられた西郷さんが自刃したのは、同じ月の24日のことだった▲火星が5630万キロの距離まで接近したこの時、二つの衛星が見つかり、「運河発見」の騒ぎもあった。一方、今夏の火星大接近の最接近距離は5759万キロ、西郷星よりは少し遠いものの6000万キロを切る接近は15年ぶりだという▲星の見にくい東京でも、このところ夜になると南東の空でひときわ赤い輝きを見せている火星である。最接近日となる7月31日にはマイナス2・8等にまで明るくなり、見かけの大きさも遠い時の約7倍になって夜半の南の空に輝く▲今では「スーパーマーズ」とも呼ばれる火星大接近だが、最接近後も9月上旬ごろまでマイナス2等を超える輝きを保つという。昔の人が西郷さんや火星人の運河に見立てた表面の模様の変化を天体望遠鏡で目にするチャンスである▲「夏日星(なつひぼし)」とは火星の古い和名という。酷暑の夏の大接近を予想したわけではあるまいが、この先も長く記憶に残るに違いない熱帯夜の赤い輝きだ。次の大接近は2035年だというから、お見逃しなく。

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