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記者の目

「今市事件」から見たDNA鑑定 混入防止に対策徹底を=平塚雄太(西部報道部、前東京社会部)

DNA型鑑定に挑戦する筆者。繊細な作業の連続だった=東京都世田谷区の鑑定科学技術センターで2月24日(同センター提供)

 2005年に栃木県日光市(旧今市(いまいち)市)で殺害された女児の遺体に、捜査過程で県警の元刑事部長らのDNAが付着した疑いがあることを報じる記事を、2月3日付の夕刊(東京本社版)に掲載した。現在、DNA型鑑定は、客観的な証拠を収集する捜査方法として確立しており、別人のDNA混入は冤罪(えんざい)を生みかねない。今回の問題を受け、私は実際にDNA型鑑定を体験してみた。作業は長時間かつ繊細で、事前の混入防止を含め、慎重な鑑定が求められることを改めて実感した。

     通称「今市事件」では、遺留物から勝又拓哉被告(36)のDNA型は検出されず、栃木・茨城両県警の合同捜査本部は14年6月、供述と防犯カメラの映像などを根拠に逮捕に踏み切った。被告は1審で無罪を主張したが、16年4月の宇都宮地裁判決は有罪と認定し、無期懲役を言い渡した。昨年10月に東京高裁で始まった控訴審でも、被告は無罪主張を続けている。

     女児の遺体は茨城県常陸大宮市で発見された。そのため、茨城県警が遺体や周辺の遺留物などを採取し、栃木県警がDNA型鑑定を実施。遺体周辺から男性のDNA型が検出された。

    捜査過程で付着、無駄だった照合

     犯人に直結する重要な証拠とされたが09年、このDNA型が同県警捜査1課幹部の型と一致することが判明した。捜査の過程で付着したとみられる。この結果、数年間にわたり実施されてきた前科がある人物などのDNA型との照合作業が全て無駄になり、捜査に少なからぬ遅れが生じた。

     さらに今回、14年に勝又被告の逮捕を発表した元刑事部長のDNAが、遺体に付着していた疑いが浮上した。科学捜査が根底から揺らぎかねない事態に、弁護団は「元刑事部長のものとみられる型を含め多数のDNA型が検出されているのに、被告の型が出ていない」と無罪主張を展開している。

     元刑事部長のものとみられるDNA型が確認された鑑定を分析したのは、押田茂実・日本大名誉教授(法医学)。押田氏は弁護側証人として2審の法廷に立ち「進歩した(DNA型の)検出法が定着しているのに、(捜査員のDNA型が混じるような)汚染の問題が起きている。気を付けるのは常識だ」と批判した。

     「DNA型鑑定とはどんなものなのか」。2審の経緯を取材し、さまざまな疑問を抱いた私は、一般財団法人が運営する「鑑定科学技術センター」(東京都世田谷区)で鑑定を体験してみた。

    長時間を要する繊細な作業体験

     同センターは親子関係の確認や、事件や裁判の証拠につながる事案まで幅広いDNA型鑑定を行っている。体験は休憩や待機もはさみ、午前10時から午後4時半までの6時間半。長時間を要し、予想以上に繊細な作業の連続だった。

     まず、鑑定途中で異物が紛れ込まないように帽子、マスク、手袋を身につけた。鑑定するのは自分のDNA型だ。血液を採取してもらい、ロケットを上下逆にしたような形の「チューブ」と呼ばれる容器に入れ、スポイトで「たんぱく質分解酵素」を加えた。

     血液入りのチューブを56度の高温で10分間温めると、酵素の活性化によって血液内の細胞からDNAが溶け出す。DNAが溶け出した血液を別のチューブに移して洗浄液を加える。この作業を2度繰り返すと、純度の高いDNAを含んだ液が残った。

     液をチューブからチューブに移す時も、スポイトを使った。スポイトの先端には異物混入を避けるため、滅菌されたカバーが付いており、毎回取り換えた。

     作業はこのように慎重に進められるが、それでも裁判所が鑑定時に別人のDNAが混入したと疑われると判断した事例はある。

     一家4人を殺害したとして死刑が確定した袴田巌元被告について、静岡地裁は14年3月、「着衣に付着した血痕のDNA型が、袴田さんや被害者と一致しない」とする弁護側の鑑定を「新証拠」と認めて再審開始決定を出した。ところが東京高裁は先月11日、第2次再審請求の即時抗告審の決定で、このDNA型鑑定に関して「鑑定者自身のDNAのコンタミネーション(試料汚染)を疑わせる」と指摘。地裁決定を覆した。

     鑑定体験では最後に、純度の高いDNA液の型を解析ソフトで判定した。DNA型は折れ線グラフ状の図で示されるが、鑑定員は私のDNA型に他人のDNA型を重ねた別の図を見せ、こう言った。「事件現場から、あなたと被害者のDNA型が採取されました」。想定だと分かっていても、これが「混入」の結果だったら私は冤罪の被害者だ。想像するだけで、ぞっとした。

     今市事件の高裁判決は8月3日にある。高裁が「DNAの混入の可能性」をどう判断するのかは分からないが、混入によって捜査や公判に影響が出たのは明らかだ。捜査関係者や鑑定人は捜査の混乱や冤罪を生まないためにも、現場検証時を含む捜査過程や鑑定時にDNAが混入しないよう、徹底した対策を取る必要があるだろう。

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