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不法移民

国境ルポ 貧困、犯罪から逃れ、米へ長い道のり

ギャングに夫が殺されそうになったというホンジュラス人女性。1歳の女児を抱きまがら母国の窮状を語った=メキシコ南部タパチュラで2018年7月4日、山本太一撮影

 メキシコと中米グアテマラの国境地帯を今月訪れると、中米諸国の不法移民たちが次々に川を渡ってメキシコ側に入っていた。貧困や犯罪、政情不安から逃れて来た人たちだ。メキシコを北上、縦断して米国入国を図るという。不法移民にいら立つトランプ米大統領は、メキシコ政府に対し、米国との国境やメキシコ南部国境の管理強化を求める。だが、今月1日のメキシコ大統領選で勝利した左派のロペスオブラドール氏は、貧困や暴力犯罪の撲滅こそが不法移民解消につながると主張、トランプ氏に協力を呼びかける。米国を目指す不法移民たちを取材した。【タパチュラ(メキシコ南部)で山本太一】

    「金がない人」非合法のいかだで入国

     メキシコ-グアテマラ国境のスチアテ川を渡ったチューブ製いかだがメキシコ側に到着すると、乗っていた家族とみられる5人が足早に立ち去った。船賃の相場は片道10ペソ(60円)という。入国審査はない。いかだ着岸地点から約300メートル南の橋を徒歩や自転車で渡るのは、合法的に出入国する人たちだ。「金のある人はあっち、ない人はこっち」。いかだ業者の男性が言った。

     中米エルサルバドル出身のホセ・カルロスさん(31)は米国に2度不法入国し計約2年間、塗装工などをした。強制送還され、今はグアテマラで移民を運ぶいかだを運行する。「米国なら1日100ドル稼げる。ここやエルサルバドルの2週間分だ」と、3度目の米国入国の機会をうかがう。

     スチアテ川に近いメキシコの町タパチュラにカトリック系団体運営の「移民の家」がある。中米の不法移民にベッドや食事を無償提供している。取材した今月4日、約110人が滞在していた。

     「もう故郷に帰ることはできない。今度は本当に殺される」。ホンジュラスの首都テグシガルパ出身の女性(30)が声を震わせた。路上販売をしていた夫(30)は現場を支配するギャング「マラス」に仕事をやめるよう脅され、6月2日、複数の男に全身数十カ所を殴打され重傷を負った。夫の兄弟2人も既にマラスに殺されていた。

     夫の退院後、1~10歳の子供4人と夫婦で故郷を離れた。スチアテ川を渡り、6月17日に「移民の家」にたどり着いた。米国を目指すという。夫は旅費を稼ぐため、痛みが残る体を押して建設工事の仕事を始めた。

     米国への道のりは長い。犯罪の危険も伴う。国境周辺は人身売買組織や麻薬組織の動きも活発で、誘拐や強盗、恐喝なども多発している。エルサルバドル人のミルトン・アランさん(37)は7月3日、メキシコ南部イダルゴで男3人に暴行された。「警察も周囲の人も助けてくれなかった」。所持金のほぼ全額150ドル(約1万7000円)を奪われ「この先どうすればいいのか」と嘆いた。

    揺れる心 「トランプ氏で大丈夫か」

     メキシコ次期大統領のロペスオブラドール氏は、トランプ米大統領に送った書簡を22日に公表した。「メキシコ人が貧困や治安問題を理由に移民しないようにする」と、12月発足の新政権が社会開発・経済対策に乗り出す決意を表明。「移民問題には中米諸国も巻き込んで対処しなければならない」と主張し、中米パナマから米国国境に至る広大な開発計画にトランプ氏も協力するよう提案した。

     トランプ氏は24日公表された返信書簡で「中米の経済発展や治安問題にさらに取り組む用意がある」とロペスオブラドール氏の提案に理解を示しながらも、「法の順守のためにもっと協力しなければならない」と、出入国管理の徹底を優先させる考えを示唆した。

     米調査機関の推計(2017年12月)によると、ホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラの中米3カ国から米国に不法入国した移民は、11年の6万人から、14年は12万人に倍増した。

     最近増えているのがニカラグア人だ。左派オルテガ政権に対する抗議デモが4月から頻発。治安当局との衝突などでこれまでに約300人が死亡した。

     首都マナグア出身のクルス・サンチェスさん(53)は7~14歳の孫3人を連れ、6月22日にタパチュラの「移民の家」に逃げてきた。「(政権は)武装集団やスナイパーを使いデモ参加者を殺している」。デモに加わったサンチェスさんも恐怖心から避難せざるを得なかったという。「家族や友達みんながいて、穏やかな街だったのに」と涙を流した。

     「米国に入国できたとしても不当な扱いを受けるのではないか」と不安を募らせる人も多い。トランプ政権は4月から不法移民の親と子供を別々に収容する政策を始め、中米出身などの子供2000人以上が親と引き離された。「非人道的」と国内外から激しい非難を浴び、トランプ大統領は政策を撤回した。

     「米国に行きたい。でも、子供を鶏小屋のような施設に入れるトランプ大統領で大丈夫だろうか」。サンチェスさんの心も揺れる。

    マラス

     10代、20代を中心に構成する中米諸国のギャング団の総称。1960年代、米西部カリフォルニア州で中米系移民が結成したグループが起源とされる。90年代、米国から母国への強制送還が進み、中米各国に浸透した。麻薬密売や人身売買、みかじめ料などを資金源とする。マラスによる一般人殺害や犯罪が多発。国連の2016年の統計によると、10万人当たりの殺人事件は、エルサルバドルが82.8件で世界最悪。2位はホンジュラスとなっている。

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