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生後2カ月の長男に宜蘭クレオールで話しかける呉さん(左)=台湾北東部宜蘭県で福岡静哉撮影
宜蘭クレオールが話されている村

 台湾北東部・宜蘭(ぎらん)県の寒渓(かんけい)、澳花(おうか)、東岳(とうがく)、金洋(きんよう)の4村では、日本語と似た言葉「ニホンゴ」が、今も中高年を中心に母語として話されている。現地で調査を続けてきた言語学者によると、日本が台湾を統治した時代に、先住民の言語が日本語に接触することで生まれた新しい言語という。

 東岳村には、主に先住民タイヤル族とセデック族が住む。海に近く、駅前には特産のトビウオの像が建つ。ニホンゴを研究している大阪大の真田信治・名誉教授(72)=接触言語学=と、その教え子である東華大(台湾東部花蓮(かれん)県)の簡月真(かんげつしん)准教授(47)=同=が村民に聞き取り調査をした。

 「ここに四つのカバンがあります。『どのカバンが私のカバンですか』は、どう言いますか」。簡氏が、村に住む薩美玉(さつびぎょく)さん(71)に中国語で尋ねた。すると、薩さんはニホンゴで「ドコノ、カバンガワシノ?」と答えた。この言葉では、女性も一人称は「ワシ」。日本語の「どの」は「ドコノ」。真田、簡の両氏はこうした調査を続け、ニホンゴの語彙(ごい)や文法の特徴などを論文で発表してきた。

 2種以上の言語が接触し合って新言語が生まれ、次の世代では母語として使われる。これは「クレオール語」と呼ばれる。クレオールは「植民地生まれ」を意味するフランス語。この「ニホンゴ」のように、元の言語の使い手がうまく聞き取れない新言語になっている点が特徴だ。真田、簡の両氏は宜蘭県のニホンゴを「宜蘭クレオール」と名付けた。

 ニホンゴが生まれた背景には、日本による先住民統治政策の影響が考えられる。日本は台湾を領有後、山間部にいた先住民の統治を進め、平地近くへ強制的に集団移住させる政策を進めた。台湾総督府が編集した「台湾統治概要」によると、移住者は1941年末時点で4万人あまり。東岳村などの4村には、別の土地からタイヤル族やセデック族が移された。一方で、日本政府は日本語教育を徹底した。その結果、タイヤル語、セデック語、日本語という三つの言語が交錯するようになった。

 「タイヤル族とセデック族は言語が異なり、意思疎通が難しかった。そこで日本語が共通語として使われるようになり、二つの言語と混ざり合って『宜蘭クレオール』になり、次の世代に引き継がれた」

 簡氏はこう解説する。

 4村の人口は計約3200人。だが中国語教育を受ける若い世代はこの言葉を話さない。ニホンゴには文字もなく、このままでは消滅する。「植民地統治はあってはならないが新言語が生まれたという事実を、歴史に記す必要がある」

 真田氏はこう力を込める。簡氏も「4村の人々が巧みに、タイヤル語の重要な要素を残した新しい言葉を生みだしたという事実を決して無視してはいけない」と強調した。

「クレオール語」世界に100種 公用語も

 「クレオール語」は世界各地で100以上が報告されている。かつて欧米諸国が植民地化した中南米やアフリカ大陸の国々に多く、長く偏見にさらされてきた。だが各国が独立した後は、一部が公用語として認められた。さらに言語の融合が独自の文化を生み出し、再評価が進んでいる。

 世界的にみれば、現地の言語が、フランス語、ポルトガル語、スペイン語、英語などと接触して生まれたものが多い。フランスの海外領土や旧植民地の多くでは仏語系クレオール語が現在も使われている。フランス文化・通信省の推計で、話者は計約1000万人。カリブ海の島国ハイチやインド洋の島国モーリシャスなどでは住民の大多数がクレオール語を話す。

 仏語と西アフリカの言語のクレオール語であるハイチ語は1961年、ハイチの二つ目の公用語となった。パプアニューギニアや中央アフリカ共和国などのクレオール語も公用語だ。

 欧米を中心に言語学研究が急速に進んだことも、再評価の動きを後押しした。

 真田氏は「クレオール語は崩れた言葉などではない」と力説する。言語が再構築される過程をそこから探ることができ、「言語の発達・変化に関する研究分野の中心的存在になっている」と見る。

 カリブ海の島国ジャマイカで話されているパトワ語は、英語とアフリカの言語のクレオール語だ。その独特のリズム感から1960年代、「レゲエ」が生まれた。

 文学では「クレオール文学」という分野がある。旧植民地の民話や風習などを取り入れつつクレオール語も交えた豊かな表現が特徴だ。

 一方で、クレオール語の使用者が弱い立場に置かれる状況も続いている。南太平洋にある仏特別自治体ニューカレドニアには、「タヨ語」がある。ただ、若者の多くは就労で有利に働くなどの理由で公用語の仏語を優先して学び、クレオール語を使わなくなっているという。【宜蘭県(台湾北東部)で福岡静哉、パリ賀有勇】


日本による台湾統治

 日本が清朝との日清戦争に勝利し、1895年に台湾を割譲された。統治は1945年まで続いた。日本は台湾総督府を置き、日本語教育や日本式氏名への改名、神社の建設など皇民化政策を進めた。多くの台湾人が日本兵や軍属として従軍し、3万人以上が死亡した。


宜蘭クレオールの例文

アンタ ブラ ガ(あなた、元気ですか)

ワシ スキ アレ ニ(私は彼が好き)

アレ レラ ガ センセイ チゴ(彼は先生じゃなかった)

アンタ ワカル アレ イツ ガサル クルノ(あなたは彼がいつ家に来るか分かる?)

キルクス アルクサン モウ(暑い! もう歩きたくない)

※真田信治氏の論文より

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