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金言

分断国家の民族意識=西川恵

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     韓国と北朝鮮の融和ムードに拍車がかかっている。今月18日にジャカルタで開幕するアジア大会で、韓国と北朝鮮がボートなど3競技で合同チームを結成する。開幕直前の15日は日本の植民地支配から解放された「光復節」(韓国)と「解放記念日」(北朝鮮)。民族の一体感はこの上なく盛り上がるだろう。

     対北融和政策を繰り出す文在寅(ムンジェイン)政権の民族左派路線の底流には、北朝鮮への親近感、あこがれともいえる感情がある。これを支えているのは「韓国は米国のかいらいのようになってしまった。それに対して北は自主自力でやってきた。北こそあるべき民族の姿」との左派の人々の思いである。中心となるのは現在40代末から60代の、大学生時代に民主化闘争に参加した世代だが、この思いは世代を超えて共有されている。

     韓国特有の現象と捉えられるかもしれないが、かつて欧州で特派員をした私は、東西に分裂していたドイツにも似たものを感じた。分断国家に共通する傾向で、人々は「いずれの側に国家として正統性があるか」を自問し、その際、米国が多分に屈折した役割を果たしてきた。

     思い出すのは世界的に知られた旧東独の知識人で作家の故シュテファン・ハイム氏(2001年没)だ。第二次大戦前、米国に留学していた同氏は、大戦中は連合国軍の一員で従軍。戦後は戻るべき祖国に東独を選ぶ。「西独は米国の植民地に見えた」からだ。

     当初、「反ファシズムの亡命者の帰郷」として東独で優遇されたハイム氏だったが、次第に執筆を制限され、度々、出版禁止措置もくらう。体制の批判派になった同氏は、それでも東独にとどまった。

     「ベルリンの壁」が崩壊して4カ月後(1990年3月)、東独初の自由選挙が行われ、「西独による東独の早期併合」を主張する右派政党が圧勝。この時、同氏は「東独は歴史の片隅にしか記録をとどめない存在となった」と嘆いた。

     90年10月のドイツ統一後、ハイム氏は旧東独地域が冷遇されていることを批判し、「東独時代の良き社会政策は引き継がれるべきだ」と訴え続けた。どちらか一方をバッサリ切り捨てるのでなく、彼なりに両独を相対化した。

     北にひかれる韓国の人々に「北の人権抑圧をどう見ているか」と外から批判はできる。しかし国家の正統性を問い、「民族」というものが常に意識にある人々である。引き裂かれた民族同士の同胞意識と対抗意識の複雑な感情を押さえなければ対北融和は理解できない。(客員編集委員)

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