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公文書クライシス

ファイル名抽象化、政府全体に 国立公文書館が20万件内容照会

 

 歴史的価値のある公文書の選定や保存を担う国立公文書館が、文書の保存価値を判断できずに省庁に内容を照会したケースが2016~17年度の2年間で20万件超に上ることが、同館への取材で判明した。省庁が国民向けに公表している文書ファイル名が抽象的なためだ。専門家からは改善を求める声が上がるが、「情報公開請求を避けるために抽象的にしている」と証言する職員もおり、省庁の意識改革が求められる。【後藤豪、大場弘行、片平知宏】

 省庁が保有する公文書ファイルは、一件ごとに「保存期間」や「保存期間満了後に廃棄するか国立公文書館に移管するか」を決めることになっている。公文書管理法を所管する内閣府は、歴史的に重要な公文書が「廃棄扱い」になっていないかのチェックを国立公文書館に依頼している。同館は、省庁が作成したリストに記載されているファイル名を主な判断材料にして、廃棄か保存かを決める。リストには、政府がウェブサイトで国民に公表している「行政文書ファイル管理簿」と同じファイル名が記載されている。

「会議関係書類」「雑件」など内容が分からないファイルが続々

政府の公文書はすべてこのように分類・整理して保存することが義務づけられている。背表紙の「名称(小分類)」がファイル名。そのほか、保存期間、保存期間後の扱いなど基本的な情報も記されている。これは内閣府公文書管理課の公文書。電子データの場合も同様だ=2016年9月9日午後1時38分、日下部聡撮影

 同館は、ファイル名から保存の要否が判断できない場合は省庁に内容を照会する。こうした照会の件数は、集計を始めた2016年度は11万6843件、17年度は8万4277件に上った。「会議関係書類」「法令協議」「雑件」などファイル名が抽象的であるため内容が分からないケースがほとんどだった。

 2カ年度分を合わせた照会20万1120件の省庁別の内訳は、防衛省が最多で10万8080件。厚生労働省(1万5874件)、財務省(1万3238件)、国土交通省(1万1769件)、農林水産省(1万568件)と続く。照会先の省庁数は39に上った。

 国立公文書館は13年度から省庁の担当者を集めた研修会でファイル名の適切な付け方を啓発している。しかし同館関係者によると目立った改善はみられないという。

 公文書のファイル名を巡っては、防衛省が自ら「名称が抽象的」と認めて内閣府への資料に補足説明を付けたファイルが約4万件あることが毎日新聞の取材で判明。同省はファイル名の見直しを進めている。新たに判明した実態は、内容の分からないファイル名が政府全体に広がっていることを示している。

情報公開で批判されることを恐れて「丸めた」

 省庁の職員らは毎日新聞の取材に「ファイル名を抽象化する動きは情報公開請求への警戒感から始まった」などと証言する。

 「抽象的なファイル名にして内容を分かりにくくすることを、『丸める』と呼んでいた」。ある省庁の元職員は、毎日新聞の取材にそう語った。

 文書管理を担当する部署から、内容をぼかした名称を例示され、それを参考にファイル名を付けていたという。具体的な会議名が書かれていたファイル名を「会議関係資料」と改めることもあった。「名称からファイルの内容が推測されると開示請求されやすくなるという警戒心があった。開示した情報をもとに批判の的にされることを恐れた」

 公文書のファイル名は「行政文書ファイル管理簿」と呼ばれる目録に登録され、政府のウェブサイト「e-Gov(イーガブ)」で閲覧できる。ファイル名の公表は情報公開法の施行令などに基づき2001年4月に始まった。国民が情報公開制度を利用する際に役立つと考えられたからだ。

国立公文書館=東京都千代田区北の丸公園3番2号で2009年5月26日、根岸基弘撮影

文書を探すのに手間取るようになり「自分の首を絞めた」

 しかし、省庁の中では別の受け止め方が広がっていたという。

 情報公開制度の導入時に準備作業に携わった厚労省の職員は「ファイル名の抽象化は、開示請求を極力避けようとの思いから、職場の方針になった」と振り返る。「それが長期にわたって踏襲され、変えられなくなっている」

 内閣府関係者は「ファイル名を抽象化したことで、かえって文書を探すのに手間取るようになった。自分の首を絞めたようなものだ」と嘆く。経済産業省の幹部は「不祥事を起こした企業の調査報告など、注目されそうな案件をそのままファイル名にはしづらい」と言う。

国立公文書館で2017年まで公文書専門官(アーキビスト)だった下重直樹・学習院大准教授(アーカイブズ学)の話

 在職中、「業務検討資料」「決裁原議」などと内容が分からないファイルが多すぎて閉口した。省庁に内容を照会しても「秘密だ」と言われたこともあった。約10人しかいない専門官は照会作業に忙殺され、専門知識を生かした本来の業務が十分にできない。結果的に国の公文書管理の質の向上を妨げていて、大きな損失だ。抽象化が情報公開請求の回避のためなら、主権者である国民に対する背信行為でもある。国は抜本的な改善に取り組むべきだ。

公文書管理に詳しい記録管理学会・小谷允志元会長の話

 公文書ファイル名の抽象化には三つの重大な問題がある。

 一つは、国民が情報公開請求で必要な文書を選択できず、国が説明責任を果たせないこと。次に、官庁の職員自身が文書を見つけられなくなるなど、効率的な行政運営ができなくなること。そして、国立公文書館へ移管すべき文書が見落とされ、国家の歴史が残らなくなることだ。

 公文書管理の先進国のように専門職員を登用すべきだ。日本では歴史的な公文書の管理を担うアーキビストが少なく、行政機関で使用中の文書の管理を担う「レコードマネジャー」は全くいない。専門職員の養成と各省庁への配置を進め、一般職員が日常的に支援を受けられる体制を作るべきだ。

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