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舞台を囲んでパフォーマンスを見物する人たち。子供を前に座らせたら大人は後ろへ、というのが見物のルールみたいです

 フランス北部・ノルマンディー地方にあるルーアンという町に、フランス語習得のため4月から留学しています。新聞記者の仕事を離れ、語学学校に通う留学生活を日記風につづっています。

 フランスはバカンスシーズン真っ盛りです。

 働く人たちが長い休暇を取り、海や山へ出掛けるのがフランスのバカンスだと言われています。

 4月から世話になっている下宿先のご家庭には常時、私を含めて3、4人は留学生が滞在しています。だからこの家を切り盛りする夫妻はどこにも旅行に出掛けられないのかなと思っていましたが、そんなことはありませんでした。しばらく前から2人は気もそぞろ。「10日間、家を空けるよ。その間は近所の友達に家を見に来てもらうよう頼んであるから、何かあったら彼らに相談すること!」と夕食時に宣言されました。

 洗濯機や食洗機、オーブンなどあらゆる家電に「使用方法」が書かれたメモが張り付けられ、冷凍庫は食料備蓄でいっぱいに。出発の準備は万端整っています。ネコのえさやりの指示も受け、「あんたは一番長くうちにいるんだから、新しく来た学生が困っていたら教えてあげてね、いい?」とウインクが飛んできました。夫妻のライフスタイルを見ていると、まず自分たちの暮らしを充実させることが優先。その上で、普段の掃除や洗濯なら誰でも交代できるようにしておき、各国からやってくる留学生たちとの生活を楽しんでいるように見えます。夫妻の子供たちが独立した後、15年ほど前から学生の受け入れを始めたということですが、こんな姿勢が続けられる理由かもしれません。

まきを使って構造物がくみ上げられた舞台。ここからショーが始まります

太陽がなかなか沈まないから

 とはいえ、遠出するだけがフランスのバカンスでもないようです。パリから列車で約1時間半の地方都市ルーアンではこの季節、街中や近郊で音楽や芝居、花火などの野外行事が毎週のように開かれて、多くの場合、無料で楽しむことができます。ようやく最近は午後10時半を過ぎると暗くなるようになりましたが、先月までは午後11時にやっと夕暮れ。こうした行事が人々を外へ誘い出し、バカンス気分を盛り上げます。

 「サーカスを見ることもやることも大好き」という友人のキャロリーヌに連れられて、私もあちこちのイベントに出掛けることができました。郊外の公園やお城の周りなどの広い会場にいくつも舞台が設けられ、芝生や砂地の上にめいめい座って楽しみます。

 「サーカス」と聞いて大きなテントの中で動物が出てくるショーを思い浮かべましたが、フランス語ではこれより意味に幅があり、手品や曲芸、ダンスなども含まれます。忘れられないのは、4人の男性が舞台の上に大量のまきで構造物を組み上げ、体で破壊し、なおかつおのを振り回してまきを切り刻むというパフォーマンス。Claudio Stellatoというイタリア出身でベルギーを拠点にするアーティストの一座によるコンテンポラリーダンスと彫刻が混ざり合ったような舞台でした。

広場に設置された「レ・テラス・ドゥ・ジュディ」の舞台。7月の前半は午後11時前でも空はほんのりと明るかったです

 「手が滑っておのが観客席に飛び込んだらどうしよう」などと、どきどきしながら見ていましたが、キャロリーヌは見慣れたもので、さかんに合いの手を入れて満喫していました。気付いたのは、たいてい観客の一番前は子供たちの「指定席」になっていること。フランスの人々は小さいときから大人と同じようにパフォーマンスを見て、感受性を磨いているということなのでしょうか。朝から晩まで大小のショーが繰り広げられているので、おなかがすいたら会場内にあるカレーやフライドポテト、ソーセージ、ケバブなどが食べられる屋台に並びます。欧州で高まるプラスチックごみ削減の機運を受けて、イベントで提供される料理の容器は紙で、プラスチック製コップは返却すると1ユーロ戻るしくみで繰り返し使うものでした。コップは使い捨ての薄いものではなく、厚めです。ビールを入れたら、ちゃんとジョッキに見えます。マンガが描いてあって、キャロリーヌは、「かわいい! 家でも使いたい!」と言って持ち帰っていました。

 街中でも、7月は毎週木曜日の夕方から「レ・テラス・ドゥ・ジュディ(木曜日のテラス)」というライブイベントがありました。ある晩、同じ下宿の学生たちが出掛ける用意をする中、私だけが「勉強するから行かない」と言ったら、下宿先の母に「勉強ばかりしていても効率が上がらないよ。フランスではやる時はやる、やらない時はやらないものよ! あんたも行っておいで」と追い立てられました。

 そうしたら、やっぱり行って良かった。広場ごとにロックからテクノまで違った音楽をやっています。仕事終わり風の人から「涼しくなったから外に出てきた」といった調子のお年寄りまで幅広い年齢層。それぞれがビールを片手に音楽に合わせて体を揺らす時間を楽しんでいました。これも町が企画し、地元企業の協賛などで開催されており無料です。テロ厳戒のフランスなので、大きな広場では入場の際にセキュリティーチェックもありました。市の担当部署によると、2001年から、バカンスシーズンに人が集まれる行事として始まり、今ではこの季節の恒例行事です。

 フランスで初めての長い夏を過ごしていますが、ここの人たちは広場や公園に集まって大勢と喜びを共有することがとにかく好きなのだなあという印象を受けます。

サーカスの野外イベントの屋台で使われたプラスチック製のグラス。返却すると1ユーロ返してくれます

ルーアンの路上に舞う旗

 こうして普段から夏は外に出ることが習慣づけられているようなルーアンの人たちなので、7月15日のワールドカップ(W杯)ロシア大会の決勝戦は大変な騒ぎでした。

 町が急ごしらえでセーヌ川沿いの空き地にパブリックビューイング会場をしつらえると若い人が集結。試合後は祝福のクラクションと爆竹と発煙筒の煙が町を包んでいました。交差点ではラッパーが若者の熱狂を一つにまとめ、バーでは人々が踊っていました。車で騒ぎに駆けつけた若い男女は、開け放した窓に腰掛けて身を乗り出し、携帯電話で自分たちを撮り続けていました。

 乱舞していたのはフランスの国旗だけではありません。代表選手がルーツを持つカメルーンなど外国の旗を掲げ持つ人たちもいました。その様子を見て思い出したのは、6月にW杯の1次リーグが始まった頃のこと。モロッコ出身の友人に連れられ地元の小学校のバザーに行くと、あるご夫婦とこんな世間話が始まりました。

 「うちは夫婦ふたりともイタリア出身でしょ。今回は(イタリアが出場していないので)あまり見る気になりません。おたくは?」「うちもモロッコだからフランス戦はあまり関心ないです」「でも子供たちが応援しているんですよね…」

 その足元では、フランス代表グリーズマンの背番号入りTシャツを着てほおにフランス国旗(トリコロール)である3色のペイントをしたご夫婦の子供らが走り回っていました。フランスは、人種や出身地にかかわらずフランス国民としての共通の価値観を持つことを重んじます。優勝を祝うトリコロールの群れに現れた外国旗は、この立場に立てばフランス社会のゆらぎを象徴するようなできごとかもしれません。一方、バザーで出会った子供たちの姿には、この理念は少なくとも学校教育の場では共有され、社会に根づいていることもまた事実なのだと感じさせられました。

 開幕当初は冷めていたモロッコ出身の友人ですが、1次リーグで故郷の代表チームが敗退してからは、勝ち上がるフランス代表をしっかり応援していたそうです。フランスで暮らす多くの人々にとって、地元チームのW杯優勝という特別な思い出が加わった今年の夏ですが、長いバカンスシーズンはまだまだ続きます。【久野華代】

久野華代

1983年三重県生まれ。東京外国語大学を卒業後、2006年に毎日新聞に入り北海道や東京で記者として働いた。日当たりの良いテーブルか、あたたかい布団で本を読むことが好き。寒い部屋ならルイボス茶をいれる。山菜採りも好き。

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