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炎のなかへ

/225 アンディ・タケシの東京大空襲 石田衣良 望月ミネタロウ・画

その夜(60)

 最初にひさしを飛びだしたのはタケシと登美子だった。足を引きずる千寿子の両手を引いている。伯母の指先は冷たかった。

「お先に」

 意外な身の軽さで、よっさんが二十キロ以上はある直邦を脇に抱えて追い抜いていった。ちいさな俵でも運んでいるようだ。

「うわー、よっさん、すごいや。力もちだ」

 男の子が歓声をあげている。命がかかった場面なのにのんきなものだった。とよちゃんと君代が後に続いた。これでひと安心だ。風が巻いて白い煙が晴れ、一瞬交差点の視界が澄んだ。骨組みだけになった自動車のなかで、運転手が炭人形のようにハンドルを握り息絶えている。鉄兜(てつかぶと)だけが元の形で残っていた。

 交差点の向こうでは直邦をおろしたよっさんが肩で荒い息をつく。通りの奥を見て叫んだ。

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