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知られざる中・東欧

右派政権下で変質するオーストリア

NGOが運営する難民申請者の収容施設=ウィーンで2018年8月9日午後4時54分、三木幸治撮影
オーストリアで右派連立政権を発足させた国民党党首のクルツ首相(左)と自由党党首のシュトラッヘ副首相(右)=ウィーンで2018年3月12日、AP

 中欧のオーストリアで中道右派・国民党と右派・自由党の「右派連立政権」が昨年12月に発足してから、7カ月が過ぎた。難民・移民排斥、反イスラムを主張する自由党が12年ぶりに政権に入り、国はどう変わったのか。取材を進めると、欧州連合(EU)に反旗をひるがえし、「反難民」を主張する東欧諸国と同様、EU法に抵触しかねない改革が進んでいた。

    難民「排斥」を狙う

     「この国の難民たちに明るい未来は見えない」。難民らを支援するNGO「アサイラムコーディネーション・オーストリア」のアニイ・クナップ代表は嘆く。

     右派政権は昨年12月以降、次々と難民らを「排除」するための新方針を打ち出している。

     政府はまず、オーストリアで難民申請した時には収容施設の利用費として840ユーロ(約10万8000円)を徴集すると決めた。紛争などで国を追われた難民らには高額だ。さらに、政府は難民申請者に携帯電話の提出を義務づけた。携帯電話のデータを収集し、密輸業者や難民同士のネットワーク、入国経路などを調べるためだ。

     EUには、難民が最初に到着した域内の国で保護申請を義務づけるダブリン規則がある。オーストリア政府は、最初に入国した国を割り出すことで送還先を特定するための証拠にしようとしているのだ。だが携帯電話は難民らの間で授受されたり、売買されたりするため、携帯電話のSIMカードに残されたデータは本人のものとは限らない。クナップ氏は「一連の政策は、難民らの権利を著しく侵害している上、不確かな情報に基づいた送還を可能にする」と強く批判する。

     さらに政府は、公用語のドイツ語ができない難民の生活保護費をオーストリア国民の約7割に減額する方針を決めた。現在、オーストリアの生活保護費は月863ユーロ(約11万1000円)だが、中級レベルのドイツ語試験に不合格となった難民の生活保護費は、月額563ユーロ(約7万3000円)に抑えられる。仕事が見つかりにくい難民の生活を根本から脅かす改革だ。

     EUでは、難民認定された人たちを国民と「同等」に扱う必要がある。人権団体は、語学能力で生活保護費に差を付けるのは「明らかにEU法違反」としており、欧州司法裁判所に訴える構えだ。

     難民排斥の雰囲気が醸成されるに従い、難民に部屋を貸す住民も少なくなっている。難民認定されたものの住居が見つからず、アパートメントの地下にある物置などで寝泊まりしている人々も多い。今後、生活保護費の削減でさらに追い詰められた難民が「暴発」する可能性も否定できない。

     人口約880万人のオーストリアでは2015年、人口の1%にあたる約8万8000人が難民申請した。18年の難民申請者は6月末現在で、7098人に留まる。

     だが右派政権は、難民らの流入がオーストリアにとって今でも「脅威」だとあおり続ける。特に自由党は「オーストリア・ファースト」を掲げ、ドイツ語を話すオーストリア人を重視する綱領を持つ。自由党を「極右」と定義づける専門家も多い。政権内では今も、「難民排斥」を目指した議論が連日続けられている。

    「報道の自由」を侵害か

     自由党の政権入りは、「報道の自由」にも影響を及ぼしている。自由党はかねてから公共放送「オーストリア放送協会」(ORF)が「左派的だ」として批判。ORFの評議員である自由党のシュティーガー氏は4月、オルバン首相率いる中道右派の与党が勝利したハンガリー議会選の報道について、「『反オルバン』に偏っている」として非難。今後「公正な」報道をしなかったORFの海外特派員を解雇することを示唆した。また自由党党首で、オーストリア副首相を務めるシュトラッヘ氏は、ORFの著名キャスターを「うそばかりついている」と批判。ORF側から訴訟を起こされる事態となっている。

     1月にはニーダーエースタライヒ州の自由党員が所属している団体が、反ユダヤ主義の歌が書かれた本を持っていたことが発覚した。この事件を報道した女性ジャーナリストに対し、自由党の若者組織がインターネット上でジャーナリストのメールアドレスと映像を公開し、彼女を「非難」するよう求める事件もあった。

     NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)は、右派政権発足以降、自由党関係者によるジャーナリストへの個人攻撃が目立ち、「報道の自由が危機にさらされている」と警告している。

     国境にフェンスを建設して難民を排除するハンガリー、憲法裁判所の権限を弱めるなど「法の支配」を軽視し、EUと対立するポーランドなど東欧諸国に比べ、オーストリアの「変化」は目立たず、他国のメディアで報じられる機会は少ない。

     だが、オーストリアは密かに、そして着実にEUの価値観とは異なった方向に進み始めている。世界最年少、31歳の首相として手腕が注目されている国民党のクルツ首相だが、連立政権内の調和を保つためか、自由党を公に批判することはほとんどないのが現状だ。【三木幸治】

    三木幸治

    ウィーン支局特派員。1979年千葉県生まれ。2002年毎日新聞社入社。水戸支局、東京社会部、中部報道センター、外信部を経て16年春から現職。中・東欧諸国とウィーンの国連、核問題などを担当。Twitter:@KojiMIKI5

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