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坂村健の目

サマータイムという怪談

坂村健氏

 日本でのサマータイム導入話は、何度消えてもしつこくぶり返す、もはや夏の怪談話という感じだ。

 従来、サマータイムを正当化する利点は、省エネをはじめとして全てあやふやだった。「エネルギー消費の中心が空調の近代では、サマータイムは省エネにはならず増エネ」というのが実測値に基づく結論。「終業後の消費喚起」も、ビアホールや花火大会など日没後の消費が大きい日本ではプラスマイナスゼロ。むしろ今年の酷暑を考えると「終業後にテニス」といった需要は非現実的だろう。

 そこで推進派、今度は2020年東京オリンピック・パラリンピックの酷暑対策を持ち出してきた。競技時間--特にマラソンの開始時間を大幅に繰り上げるべきだというのは大賛成。しかし単純に「マラソンは朝5時スタート」とすればいいだけで、それはダメだという納得できる理由を聞いたことは一度もない。

 交通機関の臨時ダイヤとか観客向けのホテルの早めの朝食とか、関連する業界でのオリンピックシフトはいずれにしろ必要だが、サマータイムは社会の動きを全体としてシフトさせる。実行すればオリンピックと関係ない業界や地方にまで負担を強いることになる。通勤ラッシュと観客の移動が重ならないようにという観点では、むしろ社会の動きと競技に「時差」を作るべきだ。東京都が言い出した出社時間をずらす「時差ビズ」はいいが、サマータイムは明らかに逆行する。

 根拠のあやふやな利点に対して、睡眠障害による健康被害やケアレスミス、事故、コンピュータートラブルといったサマータイムのリスクは、実施国では現実のものだ。それにたえかねてロシアはサマータイムを廃止。ドイツやフィンランドも国民の大多数が廃止支持で、欧州委員会では廃止が議論されている。

 さらにコンピューターの専門家として私が一番違和感を覚えるのが「サマータイム導入の経済効果」。確かにこれを導入するとなると、コンピューターのシステム改修やテストを含め、数千億円規模の「仕事」が発生するだろう。確実な「経済効果」というならこれだ。

 ただ、準備期間が短いことを考えれば、皆が必死で作業しても多くのトラブルが起きる。しかも聞くところによると、期間限定で、2年とか数カ月とかでやめるという。まさに「賽(さい)の河原の石積み」。社会に何の益もない(推進派は「ある」と言うのだろうが)どころか、多くの害が予測されることを、ただやって壊すために、皆が必死で働くことが経済効果だろうか。

 世界ではコンピューター技術者が不足し、必死で取り合いをしている。IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などの最新技術を導入して社会システムを変革し、国を強くし、社会問題を解決するためだ。そのパワーを「賽の河原の石積み」で浪費する--そんな余裕は日本にはないはずだ。(東洋大INIAD学部長)

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