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論点

「効率化社会」のあり方

 目的地に乗客を早く、確実に運ぶ新幹線。限られた資源を技術力でカバーし、高度経済成長を遂げた日本の象徴となり、鉄道網の合理化・効率化が進められてきた。だが、地方経済の衰退や在来線の切り捨てなど、東京中心の利便性向上と引き換えに失われたものもある。低成長・人口減時代を迎えた今、効率化社会のあり方は。

    「ゆっくり」「おっとり」にも価値 玄侑宗久 作家・福聚寺住職

     日本には長く「両行」という知恵があった。両行とは、古代中国の思想家、荘子の言葉で、矛盾や対立するものが同じように存在する状態を指す。例えば「善は急げ」の一方で「急がば回れ」、「うそも方便」と言いながら「うそつきは泥棒の始まり」と言う。このように日本人は「反対」の考え方に配慮し、あえて一本化を避けてきた。それが、この国の寛容さの背景にあったと思う。

     ところが、今世紀に入り、経済中心の新自由主義の考え方があらゆる分野へ広がった。経済中心の考え方は、すべてを「効率・生産性・スピード感」で割り切る。それらの対極にある「大器晩成」のような考え方は認めず、「ゆっくり」「おっとり」というものにも価値を見いださず、優生思想のようなものが強くなってきている。

     このような社会の雰囲気について、政治状況の責任は大きいと思う。政治が経済化しているのだ。フランスの国是である「自由・平等・博愛」から考えると、博愛を担うのが宗教、自由が経済、平等が政治であるはずだが、今の政治が平等を目指しているとは言い難いだろう。善悪の判断ですら経済にまかせ、「売れるものはいい」「売れないものは悪い」と、政治が経済に従属してしまっている。

     小泉純一郎政権はまだ良かった。小泉氏自身が主流の対極という存在だったから。現在の安倍晋三政権下では、社会の表面が「効率・生産性・スピード感」で覆い尽くされ、それに反対する考え方が生き残る余地がなくなっている。

     東日本大震災をきっかけに価値観が変わるかと期待したが、官僚は大変革を好まず、行政は変わらなかった。国民もスピードと便利さを追い求め、我慢しなくなっている。以前は疑問があれば祈って神の答えを待ったが、スマートフォンによって今はグーグルが神に代わり、グーグルで検索できれば神はいらないという状況だ。

     国民が短気になり、政治家も「スピード感を持って」と決まり文句のように言う。そんなに急がなくていいから、きちんとした仕事をしてほしい。実際、東京電力福島第2原発の廃炉決定(今年6月)は、まったく早くなかった。

     さらに、この国は新幹線に飽きたらず、リニアモーターカーのようなものまで走らせようとしている。リニアを走らせるのなら、かごを復活させるくらいしなければバランスがとれない。職人かたぎで新しい技術を開発しようという人は、当然いていい。しかし、反対を向く人も存在することが健全性の担保になる。技術というのは欲望の一つであり、技術そのものにブレーキはないのだろうが、地震やテロの脅威がブレーキとして働かないのは不思議なことだ。

     先のことは分からない。にもかかわらずシミュレーションに頼って「未来が想定できる」と考え、最近は「終活」といって死ぬ計画を細かく立てる人が増えている。ところが、その通りに進むわけがない。未来を思い通りにしようとしてもせんないこと。そろそろ「効率・生産性・スピード感」に拮抗(きっこう)する考え方が台頭し、「両行」を取り戻してもいいはずだ。【聞き手・永山悦子】

    東京中心網では行き詰まる 原武史・放送大学教授

     地方の在来線を廃止したり、第三セクター化したりする一方、リニア中央新幹線の開業を急ぎ、夜行列車を廃止して超豪華列車を走らせる--。鉄道の価値が「速さ」や「所要時間」という数値に還元され、大都市や外国の富裕層に特化したサービスばかりが目立つようになっている。

     先日、北海道夕張市で、JR北海道が来年4月に廃止する石勝線の支線(通称・夕張線)沿線を訪ねた。廃止後はバスの増便で市民のニーズに対応するという。だが、人口減が続き、現状でも約8000人の市民だけを想定したバスは、いずれ立ちゆかなくなるだろう。夕張市は新千歳空港から近く、夕張川沿いの光景や国内最大級の石炭博物館など観光資源もあるのに、増加する外国人一般観光客を呼び込む意識は希薄に感じた。

     同様の縮小志向はJRの地方路線で全般的に感じる。しかし、国鉄やJRの時代には大赤字だったが、第三セクター化などによって、地域の足や観光資源として再生したローカル線は少なくない。海外でも台湾の平渓線など、炭鉱跡と鉄道という夕張に似た条件で観光地化に成功した例がある。

     JR各社が豪華列車を運行するのは車窓や駅からの風景が「売り」になると分かっているからだが、一部の富裕層しか相手にせず、多様なニーズに対応しないのはどうしたことか。昔、私が初めて夕張線に乗った40年前の北海道では今のインバウンド(外国人観光客)のように大学生の旅行者が多かった。金のない若者たちは周遊券を使い、東京から夜行列車と青函連絡船を乗り継いで北海道入りした。今は、周遊券も夜行もなく、長距離列車は全国的に新幹線か特急ばかり。

     新幹線網の拡大は確かに東京と地方の「距離」を縮め、往復を便利にしたが、地方都市間では不便になった例もある。例えば、山形から秋田に行く場合、かつては1本の特急や急行で行けたが、今では新庄で乗り換えが必要な上、新庄-大曲間は普通列車でしか移動できなくなってしまった。

     2027年に品川-名古屋間で開業予定のリニア中央新幹線も本当に便利だろうか。同区間は40分になるが、ホームは地下深く、テロ対策で空港並みの荷物検査も予想されるので乗車まで時間がかかりそうだ。そのうえ、例えば、神奈川県内の駅は(新横浜駅から電車で約30分かかる)相模原市緑区橋本になる。新横浜駅から名古屋駅まで「のぞみ」で1時間20分の方が、むしろ楽ではないか。

     リニアをつくるよりも、新幹線の料金を下げたり、並行在来線を充実させたりする方が乗客にとってはよい。あるいは、費用がリニア建設とほぼ同額と見込まれる日韓トンネルを掘ってユーラシアと地続きになる方がよほど前向きだ。朝鮮半島の南北和解が進めば韓国から欧州までレールがつながる。

     今の鉄道を巡る動きは「東京中心の閉じたネットワーク」をますます強化している。必要なのは、地方や海外からの視点で鉄道網を見直すことだ。それは、本当の意味で効率的な日本社会の将来像を描く作業につながるはずだ。【聞き手・鈴木英生】

    人口集約まちの活力維持 森雅志・富山市長

     私が大学に入った頃、富山から上野に行くには8時間もかかった。今は、北陸新幹線が開通し、2時間ほどで到着できる。それだけ便利になったが、人口の減少を止めることは困難だ。人口減は日本全国で進むが、放っておけば地方は全国平均を超えるペースで加速度的に減るのは間違いない。だから、減少のスピードを少しでも緩やかにし、地域の活力を可能な限り維持する施策が求められる。

     富山市は2002年から「公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり」に取り組む。既にあるまちをコンパクトにまとめるのではなく、郊外へのまちの「拡散」を抑制することを目指す。人々の暮らしが郊外に広がり続ければ、道路整備、ゴミ収集などの行政サービスも広がり、将来市民の重い負担になる。そんな不安を抱えるまちに人は住もうとするだろうか。今を生きる世代の責任として、県外の人も「家族で住みたい」と感じる都市構造にしようと考えた。

     そこで衰退の一途だった公共交通へ思い切って公費を投入した。欧州のような乗降が便利な路面電車を導入し、運行頻度を増すことで利便性を上げ、公共交通の沿線に人々が住みたくなるように緩やかに誘導しようと考えた。さらに中心市街地に「にぎわい拠点」を整備するなど、中心部に人を集める事業を進めた。いずれも当初は効果が出るかは分からず、ドン・キホーテのような挑戦だった。

     一方、自治体の行政サービスは「どこに住んでいても同水準のもの」を提供するのが常識だ。この平等なサービス・予算の投入は右肩上がりの時代なら可能だが、人口が減る中で同様のことを続けるのは無駄が多すぎる。私は、効率的な投資によって税収を増やし、市全体に還流させようと考えた。これは、公共交通沿線以外に住む約6割の人にとって不公平なやり方だから、反対や不満もあった。私も専業農家の出身で6割の一人。「中心地とそれ以外では役割が違う。役割に応じた補助をすべきであり、温度差があるのは当たり前だ」と説得して回った。

     その結果、公共交通沿線の居住人口割合は05年の28%から昨年は37%へ増え、拡散が抑制されてきた。富山市の人口減少率は全国平均レベルに抑えられ、平均地価は4年連続で上昇。今年度の固定資産税と都市計画税は12年度比で約1割増えた。それを財源にした市独自の福祉施策も進めている。

     全国各地に企業団地を作った揚げ句、どこも草が生えている状態というのが最悪の仕事だろう。北陸全体で見たときには金沢に集中投資するということでも構わない。圏域全体が活力を維持するために必要なことを考えるべきだ。

     最近、市民から「やっと市長の考えていることが分かった」と言われることが増えた。人の営みにはさまざまな要素がある。行政の仕事は、全体の最大公約数的な方向に物事をリードして利益を生み出すことであり、それができなければ全体の地盤沈下を招く。将来市民に負の財産を残さないため、「どこに、いかに投資するのが効率的か」を徹底して考えていきたい。【聞き手・永山悦子】


    姿消す赤字在来線

     東京五輪が開かれた1964年、国鉄は東海道新幹線を開業する一方、赤字に転じた。自家用車の普及や地方の過疎化が原因とされる。その後も債務は累積し、87年にJR7社へ分割民営化された。民営化後、事業の効率化が一層進められ、新幹線網の拡大を中心とする高速化と、赤字の在来線の整理・廃止が加速した。各地で市民の足となっていた路面電車も60~70年代に経営難で次々と廃止され、現在も残るのは18地域となっている。


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     ■人物略歴

    げんゆう・そうきゅう

     1956年福島県三春町生まれ。慶応大卒。さまざまな仕事を経て、同町の福聚寺住職。東日本大震災復興構想会議委員などを歴任。被災地の子どものための「たまきはる福島基金」理事長。


     ■人物略歴

    はら・たけし

     1962年生まれ。早稲田大卒後、日経新聞記者を経て東京大大学院博士課程中退。専門は日本政治思想史。明治学院大名誉教授。著書に「鉄道ひとつばなし」(1~3)など。


     ■人物略歴

    もり・まさし

     1952年生まれ。中央大卒。77年に司法書士・行政書士事務所を開設。95年から富山県議2期。2002年に旧富山市長に初当選。05年に7市町村が合併した富山市長に初当選し、現在4期目。

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