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麗しの島から

「ニホンゴ」の村で収穫祭に参加した

祖先への感謝と祈りをささげる寒渓村の人たち=台湾北東部・宜蘭県寒渓村で2018年8月4日午前7時26分、福岡静哉撮影

 台湾の先住民族タイヤル族が多く住む台湾北東部・寒渓(かんけい)村。ここでは今も、日本語と先住民族タイヤル族の言語が交ざった、日本語とは異なる新言語「ニホンゴ」(宜蘭クレオール)が主に中高年の間で話されている。8月初旬に行われた村の収穫祭に誘われ、参加した。

先祖との対話を重視

 収穫祭は「小米感謝祭」という。「小米」は中国語で穀物のアワのこと。タイヤル族が狩猟やアワの栽培で生活していた名残だという。寒渓村では、作物の種をまく「播種(はしゅ)祭」(1月)▽作物の間引きをする「間抜祭」(3月)▽収穫の始まりを祝う「収割祭」(6月)▽「小米感謝祭」(8月)--と年間を通じて祭事が続く。いずれも祖先と対話をする、とても大切な祭事だ。

刀を手にする寒渓村のタイヤル族、鄭豊栄さん(81)。とても流ちょうな日本語で取材に応じてくれた=台湾北東部・宜蘭県寒渓村で2018年8月4日午前7時34分、福岡静哉撮影

 早朝6時。「アンタロコイクー」(どこへ行くのか?)。中国語に交ざり、ニホンゴが飛び交っている。現地を訪れると、メスの豚が村の集会所の床に寝かされていた。既に事切れている。先祖へのいけにえだ。豚の体を触ってみると、まだ生温かい。タイヤル族の伝統衣装に身を包んだ村の長老、鄭豊栄(てい・ほうえい)さん(81)が刀を手に「これで心臓を一突きよ」。日本語教育を受けた世代だけに、流ちょうな日本語だ。頭にはイノシシの牙をあしらった帽子をかぶっている。

 鄭さんは見事な刀さばきで豚の腹を割き、手を差し込んで、まず肝臓を切り出した。さらに耳、尾を切り取り、葉っぱに丁寧に包み、ヒモでしばる。近くに設営された祭壇には収穫されたばかりのアワや果物、花々が並ぶ。祭壇の近くにある木の枝に、肝臓、耳、尾が包まれた葉が、順にくくりつけられた。鄭さんが「肝臓は体の大事な部分だから。耳としっぽは、頭から尾まで豚の全体を先祖に贈るという意味がある」と解説してくれた。

 祭壇の前に村の役員ら6人が、太陽の昇る東の方角に向かって並んだ。先祖への感謝の儀式だ。「タイカサムハラナママケ……」。鄭さんがタイヤル語で3分ほど語り続けた。後ほど意味を尋ねると「これが今年の収穫です。本当にありがとうございます。来年も私たちを助けてください」と、先祖に対し、収穫の報告や感謝の気持ちを述べたという。続いて役員らは「小米酒」と呼ばれる伝統のアワ酒を飲み干した。

タイヤル族としての誇り

 豚の肉は大きな釜で野菜などと一緒に煮込まれ、村人たちに振る舞われた。「タベタモ?(食べましたか?)」。私にも勧めてくれた。さっきまで生温かかった、その豚を食べる--。改めて、生き物をいただくことの感謝の気持ちが心の底からこみ上げてくる。少し硬めの歯ごたえのある肉は、特別な味がした。会場にはタイヤル語の伝統的な歌が響き、村人たちは日々の疲れをいやしていた。

豚の肉を煮込んだ料理を振る舞う寒渓村の人たち。村の若者たちも多く参加した=台湾北東部・宜蘭県寒渓村で2018年8月4日午前9時2分、福岡静哉撮影

 鄭さんは1937年3月生まれ。8歳まで日本語教育を受けた。寒渓村では戦前、先住民族の言語は禁じられたが、村人どうしではタイヤル語も使われていた。鄭さんは「おやじは日本語があまりできなかったから、家ではだいたい山地語(タイヤル語のこと)で話していた。だから私は山地語もできる」と言う。

祭事では、収穫したてのミニトマトも振る舞われた。真夏の太陽で照らされ、口に運ぶと温かかった=台湾北東部・宜蘭県寒渓村で2018年8月4日午前9時22分、福岡静哉撮影

 戦後、日本が去り、先住民族たちは今度は急に中国語を学ばねばならなくなった。台湾を独裁統治した蒋介石が中国語教育を強制し、先住民族の言語を禁じたためだ。このため寒渓村に限らず、80代以上の日本語世代の人々は、今も中国語があまり得意ではない。例えばタイヤル族とアミ族のように異なる現住民族間の共通語として、今でも日本語を使う高齢者が多い。鄭さんは「僕は今も中国語が下手だね。日本語のほうが話せる」と笑う。

 タイヤル族も長年にわたり言語権を抑圧されたため、鄭さんのようなタイヤル語を流ちょうに操れる人は限られている。「最近の若い者は全然、タイヤル語を話せない。しかしタイヤル語を残していきたいし、伝統行事は受け継いでいかねばならない。それは祖先に対する私たちの責任です」。その言葉にはタイヤル族としての誇りがみなぎっていた。【福岡静哉】

福岡静哉

台北特派員。1978年和歌山県生まれ。2001年入社。久留米支局、鹿児島支局、政治部などを経て2017年4月、台北に赴任した。

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