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語り継ぐ戦争

2018夏 群馬/4 今村均陸軍大将 兵第一、食糧確保に力 ラバウル防衛、桐生の著述家出版 /群馬

 太平洋戦争で、連合国側から名将として評価される数少ない旧日本陸軍将官の一人に、今村均大将がいる。その没後50年の今年、桐生市の著述家、岡田幸夫さん(71)が、今村の功績のひとつ「ラバウル防衛戦」の様子を一冊の本にまとめた。戦争の記憶が薄れつつある中、岡田さんは「混乱の中、日本軍にも時勢に流されない正義感と先見の明を持った人物がいたことを知ってほしい」と話す。

     著書のタイトルは「ラバウル 今村均軍司令官と十万人のサバイバル」(郁朋社刊)。対米開戦から1年、敗勢に転じ始めた時期に南太平洋戦線の拠点ラバウルに司令官として赴任し、大規模な餓死者や病死者を出すことなく終戦まで戦い抜いた今村の姿を詳細に記している。

     政府見解によると、太平洋戦争と、その前段となる日中戦争での旧陸海軍戦死者は約230万人。内訳は戦闘による死亡よりも補給欠乏による餓死や病死が多数といわれ、6割(約140万人)を占めるとする学説もある。

     今村は本国からの補給が全くない状況下で、終戦までの2年半余、自給自足による食糧確保と戦線維持を成功させて指揮下の陸軍将兵約7万人の「無駄死に」を防いだ。終戦後のラバウルからの生還者は、今村の赴任時とほぼ変わらず、海軍と合わせて約10万人に上る。

     今村は米軍撃退の命令を受けて赴任したが、補給も見込めない状況では将兵を餓死させないことが責務と判断。サツマイモなど食糧の組織的栽培・生産を実行した。岡田さんは「補給もせず精神論で戦闘を強要し、多くの犠牲者を出しながら責任を取ろうともしなかった将官が多かった中、今村の姿勢は際立っている」と指摘する。ラバウルの自給自足は食糧だけにとどまらず、火薬など兵器にまで及んだ。「代用品の域は出ないが、医薬品も自給したようです」。このため、米軍の激しい爆撃を受けながら、規律や士気は終戦まで維持されたという。

     岡田さんは桐生高卒業後、東北大に進学し、仙台市で今村の存在を知った。今村は仙台出身で、太平洋戦争序盤に宮城県出身の兵士を率いてオランダ領(当時)インドネシアを攻略したため、今村に特別な念を抱く人が多かった。「下宿先の寺の住職も、徴兵されて今村司令官の指揮下で戦った人で、私の前でも『今村閣下』と呼んで尊敬の念を隠そうとしなかった」。その後、少しずつ今村の事績を調べ、いつか本にまとめたいと考えてきたという。

     今村の優れた点を、岡田さんは「その人間性と良識」という。インドネシア攻略に成功して進駐した今村は、本国の干渉を無視し、降伏したオランダ人にもインドネシア人にも融和的な軍政を敷き、捕虜虐待などもなかった。このため、戦後、オランダから戦犯に指名された際も現地インドネシア人が法廷で擁護し、無罪となっている。

     また、オーストラリアから戦犯に指定されて巣鴨プリズンに収監されたが、「帰国することなく現地で収監されている部下がいる」として、マッカーサー連合国軍最高司令官に南太平洋ニューギニアの収容所への移送を陳情。マッカーサーは「初めて武士道の神髄に触れた」と感じ入り、許可したという。

     今村のような将官ばかりであれば、あんなばかげた戦争は起きなかったのではないか--岡田さんの思いだ。「戦後生まれの私だが、戦争の悲惨さを忘れないとともに、時代を超えて心にとめておかなければならない人物として今村を知ってほしい」

     「ラバウル 今村均軍司令官と十万人のサバイバル」の問い合わせは、郁朋社(東京都千代田区三崎町2の20の4、03・3234・8923)。【高橋努】=つづく


     ■ことば

    今村均

     1886年、仙台市で旧仙台藩士の家に生まれる。裁判官だった父の転勤に伴い、山梨、新潟で少年期を過ごす。父の急死で旧制高校進学をあきらめ陸軍士官学校入学。陸軍大学校を首席で卒業。太平洋戦争開戦後、オランダ領インドネシア攻略軍の司令官と占領後の軍政最高責任者を務める。1942年11月、ラバウルに赴任して終戦まで軍司令官として陸軍将兵約7万人を指揮した。戦後、オーストラリアから戦争指導者として戦犯に指名されて禁錮10年(オランダからの訴追は無罪)。釈放後は都内の自宅庭に建てた3畳一間の「謹慎小屋」で回顧録の執筆を続けた。68年、82歳で死去。

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