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人生は夕方から楽しくなる

タレント・林マヤさん 有頂天から大地へ 畑こそランウエー

「秋や冬になると、土の表面は茶色っぽくて地味だけど、ニンジンなどの根菜で土の中はカラフルなのよ」=茨城県つくば市内の畑で、根岸基弘撮影

 夏の日差しが、青々としたナスの葉を照らしていた。たわわに実ったナスは鮮やかな紫色のほか、白や緑色といった珍しい品種もあった。そこに黄色いピーマンも加わっているので畑は華やかなにぎわいに。バジルが、清涼感のある強い香りを放っていた。

     「このカラフルに彩られた畑が、今の私の『パリコレ』。野菜のファッションショー。土の道がランウエーなんです」。そう言うと、カラフルな野菜が入ったかごを高々と持ち上げた。

     10年前に夫の野菜文化研究家、笛風呂タオスさん(60)とともに茨城県守谷市に移住した。同市と、近くのつくば市の4カ所で借りている畑は計2400平方メートル。そこで、国内では珍しい品種を含んだ約120種を栽培している。農薬や化学肥料、家畜ふん尿は一切入れず、もみ殻などを使った発酵肥料や、腐葉土で土作りをしている。

     「虫もいっぱいやってくる。野生のキジが遊びに来て、野菜を朝食代わりに食べていくの。だから、うちの畑は植物園と動物園みたい。そのうちキジは恋人を連れてきて、しばらくすると子どもまで。仕方がないから彼らが食べる分は、ネットをかけないようにしています」

     野菜作りは、食べ物が喉を通らなくなったことがきっかけになった。笛風呂さんが少しでも食べさせたいと、東京都内から茨城県内の農家に通い、野菜を作り始めた。「私は見た目にハマるタイプだから、変わった野菜なら絶対に食いつきがいいだろうなと思って始めてくれたの。持ち帰る野菜のあまりの可愛さに『あれも、これも作って』とリクエストしているうち、ダーリンがヘトヘトになって……。それで2人の合計年齢が100歳になったのを機会に思い切ってこちらに引っ越しました」

     体調を崩した要因の一つにパリコレクションに出演するモデル時代の無理なダイエットがある。欧米モデルの高い身長、手足の細さに憧れた。「身長が低いと仕事をもらえないんじゃないかって、勝手に思い込んで。痩せれば手足が細く、背が高くなったように見える。どんどん手足を細くすれば、かっこいいと思っちゃって」。常に追い詰められているような感覚になり、酒量も増えていった。

     「あの頃は、バブルな時代でしたよね。毎晩、大勢の人を呼んだパーティーで高級シャンパンを何本も開けてました。また、本当に気に入ったわけでもないのに服をラックで丸ごと買ったりして」。当時のパリコレは、トップモデルならば1回ランウエーを歩けばギャラが100万円と言われた世界だ。金銭感覚がまひしていた。

     有頂天になっていたのか。ジャズ歌手になることを思い立ってCDを制作した。プロモーションのため自腹でライブを展開した。そんなある日、自宅の電気やガスを止められ、気づけば1億円以上の借金を重ねていた。生きる気力を失い、寸前のところで自殺を思いとどまった。

     移住の直前に借金を完済できた。「失敗がいろいろあって、『自分は何者なんだろう』って考えました。山の近くの小さな地域で育ちました。子どもの頃は、山に入って木に向かって話し掛けて、小鳥と一緒に歌うような子。それが勘違いした人生を送っちゃった。モデルの時なんて、表面というか、自分の外側の世界ばかりを作り上げていた感じだった気がします」

     それが今、野菜から教わることがたくさんある。台風の風雨に負けず、細い茎の野菜が踏ん張る。病気でも枯れずに実を付ける。厳しい環境であっても簡単につぶれないことを学んだ。

     「私って欲張りなの。自分を一色に決められない。だから、『十人十色』じゃなく『一人十色』って言ってます。だから、野菜もいろんなものを作っちゃう。還暦になって落ち着かなきゃならないけど。でもいい。もう少し風のかおりを感じながら、大地に遊ばせてもらうの」

     真夏の太陽は、土の上に立つ彼女をスポットライトのように照らした。【庄司哲也】


     ■人物略歴

    はやし・まや

     1958年、長野県生まれ。モデル時代は、仏版の雑誌「マリ・クレール」に日本人で初めて登場。タレント活動では、NHK「週刊こどもニュース」のお母さん役で出演。現在はオリジナルのファッションブランド「MAYAMAYA」を展開。

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