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南光の「偏愛」コレクション

萬乗醸造当主の十五代久野九平治さんとのトーク拡大版

日本酒「黒田庄に生まれて、」を味わう酒造家の久野九平治さん(左)と桂南光さん=兵庫県西脇市で2018年7月25日、梅田麻衣子撮影
酒造家の久野九平治さん(左から4人目)、桂南光さん(右から3人目)と、半年間移住して稲作を担当する萬乗醸造の杜氏たち=兵庫県西脇市で2018年7月25日、梅田麻衣子撮影

 日本酒を愛する桂南光さんが今、その中でも「偏愛」しているのが「醸し人九平次(くへいじ)」というブランド。醸造元は名古屋市の萬乗醸造で、当主の十五代久野九平治さんは「日本酒界の異端児」とも呼ばれる存在です。さまざまな挑戦を続ける九平治さんの情熱に触れ、日本酒の新たな可能性を感じる南光さんでした。【構成・山田夢留】

    【日本酒はワイングラスで】

    桂南光 初めて「醸し人九平次」のお酒を飲んだのは、もう20年ぐらい前なんですよ。

    久野九平治 じゃあ、まだ立ち上げたばっかりの頃ですね。その頃から、だいぶ変わってると思います。

    南光 すべて飲んだわけじゃないですが、「黒田庄に生まれて、」に出合った時、一番好みやな、と思いました。

    九平治 うれしい!

    南光 ワイングラスで飲むと香りが立って、さらにいいですよね。日本酒をワイングラスで飲むって、最初はごっつ抵抗あったんですよ。でも、九平治さんがオススメしてはるのをどっかで読んでね、一回飲んだろかな、と思(おも)たら、悔しいほど良くて! もうこれはワイングラスじゃなくて、日本酒グラスですね。「黒田庄に生まれて、」で僕が特に好きなのはね、心地よい酸味。これが一番難しいんですよ。

    九平治 いやあ、うれしいです! 僕らが目指しているのは、熟した果実味をベースに、気品や優しさを体感していただけるようなお酒なんですけど、その中で「五味」を味わっていただきたいと思ってるんです。五味には酸味とか苦みとか、マイナスイメージのものも含まれますけど、それらも大切にすることで立体的な味になると思うんですよ。中でも酸味は、人間で言うと背骨だと僕は思います。お酒の姿勢が良くなるというか。

    南光 苦みや酸味は、もともと人間は好きじゃないですよね。でも、大人になると楽しみ方がわかってくる。それに、心地よい酸味があるからこそ、フランス料理にも合うんじゃないでしょうか。

    九平治 はい。お食事との相性は、酸味があるからこそ生まれます。日本酒にはコハク酸という酸が多く含まれているんですが、これはワインには少ししか入っていない。コハク酸は貝由来のうまみ成分。だから、海の幸との相性はワインより日本酒の方がいいと思います。例えばこういうことを少し知っていただけると、楽しみ方の幅も広がるのかな、と思います。

    南光 大吟醸の香りを何に例えたらいいか、僕はずっとわからなかったんですが、ソムリエの田崎真也さんが「青竹を割った時の香り」と言わはったんで、「それですわ!」と。でも、青竹には若いというか、生臭いというか、良しとしないところもあるでしょ。この大吟醸(「黒田庄に生まれて、」)は、その良しとしない部分のない青竹の香りと酸味ですわ。

    【田んぼのドラマ】

    九平治 南光さん、ワインって畑のドラマを語るじゃないですか。

    南光 そうですね、テロワール(ブドウが育つ環境などを意味する仏語)。

    九平治 お米も本当はそれがあるはずで、日本酒をより理解してもらうためにはそれも含めて知ってもらいたいんです。

    南光 それがお米作りもされるきっかけですか。

    九平治 どっかで自分でやってないことを後ろめたく思ってたんですよ。本当ならお米だってブドウ同様、毎年毎年、物語が違うはずじゃないですか。でも、リアルにそこで起きてる物語をお客さんに伝えたくても、自分たちでやってないとウソっぽくなっちゃう。そんな時、農業大学でお米を学んだ金子(現在は農業法人の代表を務める金子敦司さん)が「お米やりましょうよ」って言ってくれて。

    南光 へえ。でも、普通は契約した農家から買うんですよね。変えるって、大変やったでしょうね。それに、この場所(兵庫県西脇市の黒田庄地区)にいきなり来て、すぐに受け入れてもらえたんですか。

    九平治 最初は「このお兄ちゃんたち、続くの?」って目だったと思います。でも、農家のご長老から見たら孫みたいだったからか、可愛がっていただいて、とても良くしていただいてます。通いじゃなくて、最初から最後までここに住んだということも良かったんだと思います。3年前からは農業法人を作って、土地も譲ってもらいまして。

    南光 農業も高齢化してますから、その意味では貴重な存在なのかもしれませんね。酒に使う米の奥、つまり米を作る田んぼまで、今までの蔵元は考えてなかった。それを自分たちで作ろうって考えられたのは、すごいと思います。「黒田庄に生まれて、」のオシャレなラベルには、ここの緯度と経度が書かれている。もう他の米は使えないわけで、それもすごいです。

    九平治 今では11ヘクタール、東京ドーム2個分ぐらいで山田錦を作ってます。将来的にはここで酒造りまでやりたいと考えています。

    南光 ほう。やっぱりそうですか。その時は、ぜひここにまた来て「黒田庄に生まれて、」を飲みたいですね。お米は、やっぱり山田錦がいいんですか?

    九平治 いろいろ試した結果、僕らが目指すお酒には山田錦だね、ということになりました。熟した果実っぽいところを出したいので、それをお米に置き換えると山田錦と雄町だな、と。

     日本的プロダクトは一度こしらえると、つくる側もお客さんも永遠にそうじゃないと気が済まない、ってとこがありますよね。でも、口に入るものは本来そうじゃない。毎年天候にすごく左右されるわけです。例えば2016年の8、9月は曇りばっかりで、太陽がないつらさってこういうことなのかと僕らは思い知った。そういうふうに、毎年毎年田んぼのドラマを皆さんに聞いてもらえばいいじゃん、良いことも悪いことも正直にお伝えしたいよね、そう思うんです。

    南光 ワインではそうですよね。出来の違いは毎年言ってるし、悪い時はブランデーの方に持って行ったり。

    九平治 僕らはお米の取れた年号を入れてます。

    南光 そこもワインと同じですね。

    九平治 最近、年号を入れる蔵元さんが増えてます。お米の出来がいい年のものは長熟がかかるので、時の経過も楽しんでもらいたい。逆の時は、早く召し上がっていただくようにアナウンスします。

    【過去・現在・未来】

    南光 昔の日本酒とは本当に変わってきてますね。今は女性で日本酒好きな人も増えたし。

    九平治 それでも全体の消費量は毎年5%とか10%とか落ちっぱなしです。海外で注目されていると言ったって、輸出総額は160億円とか。フランスはワイン・シャンパンを1兆円以上外に出すわけです。やっぱり、日本酒屋として単純に悔しいです。

    南光 ワイン造りから学ぼうと思ったのは、若い頃、パリコレモデルをされてたから?

    九平治 いやいや、モデルと言っても大したことないですし、大昔の話ですけどね。やっぱり、今まで日本酒屋がやってきたことじゃないことにトライしないと、皆さんに目を向けてもらえないよねって思ったんです。

    南光 最初から家業を継ぐおつもりだったんですか?

    九平治 19、20の頃はイヤでした。若い頃、家業ってどうしても否定しちゃうじゃないですか。それにその頃、うちは安い酒を大量に造っていて、うちの酒がおいしいと思えなかった。あの頃のプロダクトって、いかに均一に、いかにコストを抑えて、いかに全国にばらまくか、どんな産業もそれを目指してましたよね。白物家電や自動車のものづくりを、僕ら口に入るものの小さなメーカーも目指しちゃった。でも21世紀はそうじゃない。もう一回、手づくり、農家的な仕事に、僕らの業界全体が戻ってます。

    南光 今はちゃんと造ったものなら、少々高くても飲まれますよね。そして、ついにはフランスでワイン造りも始められた。

    九平治 僕は、もっと日本酒っていろんなものとミックスされるべきだと思うんです。例えばお米を自ら育てることもその一つですし、作り手がワインもやることで感覚がまたミックスされて、違うものになっていく気がする。そのためには日本酒をわかってる人間が行かないと意味がないですから、経験のある社員を派遣して、まず1年語学を勉強させて、3年前にブルゴーニュ・モレサンドニの醸造所を購入しました。M&Aという手法もあったわけですが、それでは意味がないので。

    南光 許可取るの、大変だったでしょう。

    九平治 たらい回しには遭いましたけどね。南光さん、僕、基本、頭良くないんで、やってみないと気が済まないんですよ。本読んで理解して損得でやめとこうっていうのができなくて。ワイン造りは5年でまだ一銭にもなってませんが、来年、初めてリリースできます。

    南光 そちらも楽しみにしています。今日は九平治さんの心意気がよくわかりました。若い頃はパリで遊んだんでしょうね。

    九平治 いやいや、貧乏な若者でしたから。酒屋さんってお金持ちに見えますけど、うちは大手さんの下請けとかだから金銭的には困窮してたんですよ。だからこそ、今までと真逆のことやろうって思ったんです。機械を手づくりに戻して、新しい銘柄にリセットして、父が継がなかった「九平治」を継ぎました。

    南光 ご先祖が一番喜んでるでしょうね。

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