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精神障害者、採用活発 法定雇用率算定対象 職場定着が課題

障害者の法定雇用率はどう変わってきた?
一般企業における障害別の職場定着率
障害者向けの就職フェアで、企業の採用方針について担当者の説明に聴き入る求職者たち=東京都中央区で2018年5月、宇多川はるか撮影

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     障害者の法定雇用率が4月に2・0%から2・2%に上がり、身体、知的障害に加え精神障害も算定の対象となった。就職を目指す精神障害者に突風のような追い風が吹くが、職場定着率は5割にとどまる。法定雇用率水増し疑惑に揺れる国や自治体をよそに、精神障害者と向き合う民間の課題を追った。【宇多川はるか】

    周囲の偏見・腫れ物扱い

     人材派遣のリクルートスタッフィングが5月、東京都内で障害者の就職フェアを開いた。集まった障害者約50人が企業8社の各ブースで「働く時間は?」「採用人数は?」と熱心に質問し、人事担当者が真剣な表情で説明。熱気にあふれていた。担当者の一人は取材に焦りの色を浮かべ言った。「現状でうちは率を満たしていない。こういう場を活用したい」

     法定雇用率は1976年の民間義務づけ以降、段階的に引き上げられ、対象も当初の身体障害から知的障害、精神障害に拡大され、障害者に就労の門戸を広げてきた。国は現在、従業員100人超で達成できない企業から不足1人当たり月5万円の納付金を徴収。達成すれば補助金を出す。未達成に事実上の罰金を科す国が自らルールを破っていた疑惑に、障害者の就労支援に取り組む関係者たちは「率を引き上げたばかりで最悪だ」「民間に冷水を浴びせる」とあきれている。

     疑惑が噴き出す官を尻目に民間はノルマ達成にしのぎを削る。採用対象は精神障害者が中心で、冒頭の就職フェアでも身体・知的障害者は見かけなかった。近年、身体・知的障害者の求職数は頭打ちか微増で、昨年度の障害者の求職・就職数の半分を精神障害者が占めた。裏返せば、精神障害者の就労はこれまで極めて困難だったということだ。

     「20年前に比べ精神障害者の雇用市場は劇的に変わった」。障害者の就労支援に取り組んできた神奈川県藤沢市の社会福祉法人「藤沢ひまわり」の船山敏一常務理事は言う。当時は企業に電話し「面接だけでも」と頼んでも、障害を伝えるとガチャンと切られた。「中小企業がお情けで就労させてくれる状態でした」

     だが、船山さんは今の追い風を手放しで喜んではいない。採用されても職場定着率が低いのだ。昨年の統計で身体・知的障害者は就職から1年後で6割を超えるが、精神障害者は5割に届かない。船山さんは受け入れ側の偏見のせいだと見る。

     こんなケースがあった。船山さんの支援で精神科病院に就職した男性が、調理師の経験を買われて調理室に配属された。だが、同僚たちは男性が統合失調症だと知ると「包丁を持たせていいのか」と反発。船山さんが現場に出向き、病状が回復して就職準備を重ねてきたことを説明し、現場を納得させた。「理解があるはずの精神科病院ですら、こうですよ」と言う。

     逆に、精神障害者に対する受け入れ側の過剰な配慮がトラブルを引き起こすこともある。障害者専門の労組「ソーシャルハートフルユニオン」の久保修一書記長は「良かれと思って特別扱いを続けると、精神障害者は職場の『腫れ物』になり、溝が広がって会社に行けなくなる」と解説する。

     精神障害者に対応する現場責任者の負担も小さくない。「精神障害はコミュニケーションや人間関係の構築が難しい障害だ。受け入れ側に知識やスキルがないと、トラブルは自分の管理能力のなさが原因だと悩み、うつ状態になる人もいる」と久保さんは言う。「法定雇用率アップに現場の態勢が追いついていない」

    就労後の官民支援

     精神障害者の職場定着を図ろうという官民の取り組みが広がっている。障害者の就労を支援する株式会社「LITALICO」(東京都)は、企業の勉強会に講師を派遣する。依頼主は大手から中小まで規模も業種もさまざま。最初はLITALICOの講師を呼び、理解を深めた社員が講師として勉強会を開く大手企業もあるという。

     クレジット大手のオリエントコーポレーションも7月下旬、人事部や本社管理職を集め勉強会を開いた。講師はLITALICOの臨床心理士。障害の種類や症状の特徴、配慮すべき点を説明し、「一方的に決めつけず、しっかり本人の考えを確認する」と締めくくった。人事部の中根ひとみさんは「精神障害について知らない社員が多い。知的障害と精神障害の違いを尋ねる管理職もいた」と話す。参加した男性社員は「障害を理解する機会になった」と感想を語った。

     厚生労働省も今年度、障害者の職場定着を目的とする「就労定着支援事業」を新設した。生活リズムや家計、体調の管理など就労に伴う生活面の課題について公費を受けた主に民間の支援員が相談に乗る。利用期間は3年間で、支援員が障害者と月に1回以上対面することが公費支給の条件。支援員は必要なら職場を訪ね、病院の仲介もする。LITALICOも今秋から同事業に取り組む予定だ。

     一方、藤沢ひまわりの船山さんは事業を画期的だと評価しつつも「穴がある」と懸念する。利用期間を「3年間」と区切るが、「会社での人間関係などで精神障害者が体調を崩す時に相談は必要だが、そのタイミングは3年以内とは限らない」と話す。支援員の障害者との対面や企業訪問も自立を妨げかねないと見る。

     船山さんは「今こそ精神障害者を支える仕組みの議論が必要だ。畑を耕さずに種をまいても芽は出ない」と話す。ソーシャルハートフルユニオンの久保さんも「問題を人事や現場任せにせず、企業が障害者の社内での位置付けを明確にすべきだ」と提案する。

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