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公文書クライシス

14道府県、資料廃棄・不明 満蒙悲史、残されず 8万人犠牲「自刃玉砕」記述の文書も

盗賊の襲来に備えて銃を持って農作業をする日本から満州に渡った青少年たち=山形市の滝田博さん提供
板子房開拓団の開示資料を初めて見る佐藤安男さん=山形県高畠町で、佐藤良一撮影

 日本が1932~45年、旧満州(現中国東北部)に農業移民として送り込んだ「満蒙開拓団」約27万人は、旧ソ連の参戦や終戦の混乱で約8万人が犠牲になったとされる。長野県に次いで多い約1万7000人が海を渡った山形県の資料には集団自決などの悲劇が生々しく記されている。戦後、都道府県が実施した開拓団の全国実態調査は当事者の証言をまとめた貴重な1次資料だが、既に14道府県で廃棄したか確認できなくなっており、専門家は歴史的な公文書を保存する仕組み作りを訴えている。【佐藤良一】

     「知りたくても知り得なかった事実がたくさん読み取れる」。一家で満蒙開拓団に参加し、終戦時の集団自決から生き延びた山形県高畠町の佐藤安男さん(81)は今年2月、毎日新聞が情報公開請求し、山形県が一部開示した「満蒙開拓団実態調査表」を見て驚いた。

     山形県庁に保管されていたB5判の資料18冊には、終戦時に開拓団が旧ソ連軍の侵攻から逃避した際の状況などが載っていた。生還した開拓団の幹部らから聞き取った証言を基にまとめた詳細な報告書や、団ごとに団員と家族の生死を調べた名簿もあった。一人一人を追跡調査することで死亡場所も分かるが、個人情報にあたる名前や部隊名などは非開示でマスキングされていた。

     佐藤さん一家が参加し、1940年に山形県置賜地域から三江(さんこう)省(現黒竜江省)に入植した「板子房(バンズファン)開拓団」の資料には、終戦直前に男性87人が日本軍に召集されたため、団には高齢者や女性、子供ら273人が残っていたとあった。

     資料によると、45年8月9日に旧ソ連軍が越境してきたことから、板子房開拓団は13日に避難を始めた。途中で4組に分散し、佐藤さん一家を含む組は近隣の別の開拓団と一緒に学校の校舎に立てこもった。だが、現地の盗賊に包囲され、団の幹部らは「万一の場合は総員玉砕の覚悟を定むること」「不能の婦女子らは他の男子代(かわり)て処置すること」を申し合わせた。防戦するも18日午後8時に弾丸が尽き、午後10時ごろ、校舎に火を放って集団自決した。資料は生き延びた団員3人の証言で作られており、「火の玉となり遂に焼け落ち全員自刃玉砕する」とあった。分散した他の組も一斉に身投げして命を絶った。

     当時8歳だった佐藤さんは「死ぬのは嫌だとの一念で火の海から逃げた」。三十数人の生存者と逃げ、母と弟、妹が一緒だった。隠れていたトウキビ畑で幼い子の泣き声が盗賊を寄せ付けないようにと、女性たちが泣きながら幼子の首を絞めた。妹は1歳になったばかりだった。その後、病弱だった母も力尽き、弟と2人になった佐藤さんは中国人に助けられ、その家庭で育った。日中国交回復後の80年、中国残留孤児として帰国し、日本で既に抹消されていた戸籍を回復した。佐藤さんは「帰国できない開拓団の人が中国に何人いるのかさえ正確に分かっていないのではないか。国と県が責任を持って記録を整理すべきだ」と話す。

     板子房開拓団の集団自決は山形県史にも記載があるが、逃避ルートや団員一人一人の生死などは載っていない。開示された資料には、これまで不明だった詳細な逃避ルートの図があったほか、団員一人一人の生死についても、伏せられた名前の下に「死亡」「引揚」「復員」などと書かれていた。死亡者の多くは「戸籍抹消」となっていた。

    「自治体、管理意識低い」

     毎日新聞が「満蒙開拓団実態調査表」に関して行った全国アンケートでは、33都府県が資料を保管しており、うち9都府県は永久保存扱いとしていた。一方、長崎が既に廃棄するなど、都道府県によって歴史的な公文書の保存と公開の扱いに大きな開きがあった。

     「永久保存」の9都府県のうち、千葉、東京、神奈川、京都、鳥取、佐賀の6都府県は歴史的文書として公文書館に移して保管している。佐賀は「保存期間10年以上の行政文書は自動的に公文書館に移管される。作成から30年で永久保存にするかどうかを決める」という仕組みの中で永久保存となった。岩手は通常の行政文書として保管しているが、担当者は「県民の権利義務に関するもので重要なもの」と回答し「永久保存」として扱っている。

     「不明」と回答した13道府県のうち、岐阜は「一般行政文書なので保存期間経過により廃棄したと考えられる」と説明した。

     栃木、新潟、静岡、香川、宮崎では、中国残留邦人の身元調査の参考資料として保管されているため、今後、時間の経過とともに「必要ない」と判断されて廃棄される可能性がある。

     公開基準については、神奈川は昨年10月から公文書館で全面公開。佐賀は公文書館に移管してCDに保存したデータを一部公開している。一部公開は19府県で、非公開は10都県。

     アンケートを集計する際、都道府県の担当者から最も多かった問い合わせは「満蒙開拓団って何ですか」だった。地下書庫の奥に放置されていた資料が2週間以上たって見つかったと回答した県もあった。

     公文書管理に詳しい長野県短大の瀬畑源准教授(日本近現代政治史)は「満蒙開拓団実態調査表のような貴重な文書が、まだまだ自治体の書庫に眠っているのではないか。担当者は重要な文書なのかどうかを判断することができていないし、公文書管理の意識も低い」と指摘。「歴史的に貴重な公文書を確実に残す仕組みを作ることが自治体には求められている」と強調した。


    満蒙開拓団と青少年義勇軍の都道府県別人数

            合計      開拓団     義勇軍

    ----------------------------

     (1)長野 3万7859人 3万1264人 6595人

     (2)山形 1万7177人 1万3252人 3925人

     (3)熊本 1万2680人   9979人 2701人

     (4)福島 1万2673人   9576人 3097人

     (5)新潟 1万2651人   9361人 3290人

     (6)宮城 1万2419人  1万180人 2239人

     (7)岐阜 1万2090人   9494人 2596人

     (8)広島 1万1172人   6345人 4827人

     (9)東京 1万1111人   9116人 1995人

    (10)高知 1万 482人   9151人 1331人

    ----------------------------

    (17)山口   6508人   3763人 2745人

    (19)岡山   5786人   2898人 2888人

    (22)富山   5200人   3775人 1425人

    (25)埼玉   4868人   2900人 1968人

    (26)愛媛   4525人   2200人 2325人

    (30)大阪   4155人   2030人 2125人

    (38)北海道  3129人   2002人 1127人

    (41)沖縄   2994人   2350人  644人

    (42)大分   2571人    735人 1836人

    (44)長崎   2150人    747人 1403人

    (47)滋賀   1447人     93人 1354人

    ----------------------------

     ※「満洲開拓史」(1966年)より、上位10都県と「満蒙開拓団実態調査表」が確認できなかったか廃棄した自治体(太字)の人数

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