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やさしい肝臓病のはなし ~肝疾患医療センター市民公開講座から~

2018年9月3日掲出

 肝炎は肝臓が炎症を起こし、細胞が壊されてしまう肝臓疾患です。肝細胞が壊され続けると、やがてその部分に線維ができて硬くなり、肝臓の働きはだんだん低下します。しかし、肝臓は健康な状態の30%程度しか働けなくなっても、症状が現れづらいため“沈黙の臓器”とも呼ばれています。

 肝臓の炎症が6カ月以上続いた状態が「慢性肝炎」です。慢性肝炎の原因の90%は肝炎ウイルスの感染によるもので、日本ではC型肝炎ウイルスの感染によるC型慢性肝炎が60~70%、B型肝炎ウイルスの感染によるB型慢性肝炎が20~30%を占めます。また、昨今は肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などメタボリックシンドロームと深く関係する「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」も注目されています。

 肝炎が長期化すると、肝臓が線維化して硬くなる「肝硬変」になり、やがて「肝がん」へと進行していくことが少なくありません。

 

 

C型慢性肝炎治療の劇的進歩

 肝炎の治療は日進月歩です。

 現在、C型慢性肝炎、C型肝硬変の治療では、C型肝炎ウイルスを直接攻撃してウイルスの増殖を抑える「直接作用型抗ウイルス薬(DAA)」が標準治療となっています。

 C型肝炎の治療薬として、1992年からC型肝炎ウイルスを排除する物質を作らせたり、免疫の反応を強くしたりする注射薬「インターフェロン」が使われ、その後、2004年からはインターフェロンの効果を高める飲み薬「リバビリン」が併用されてきました。

 さらに2014年、C型肝炎ウイルスに直接作用して増殖を抑えるDAAと呼ばれる経口薬が承認されたことで、治療の新たな時代が到来しました。

 C型肝炎ウイルスはウイルスの型(ジェノタイプ)により、1型、2型などに分類されます。日本人の場合インターフェロン治療が効きにくい1型が約70%を占めています。DAAは、インターフェロンを使ってもC型肝炎ウイルスを排除できなかった人、インターフェロンの副作用で治療を行えなかった人、C型肝炎が再発した人にも高い効果が期待できます。

 DAAを服用するインターフェロンフリー治療では、1型、2型ともに高い効果が確認され、95%以上の人が治療終了後もC型肝炎ウイルスが検出されない状態が持続できるようになっています。

 C型肝炎治療の今後の課題は、抗ウイルス薬に耐性ができた場合の対応ですが、効果のより高い新薬が開発され、これまで治りにくかったウイルスも治療できるようになってきています。

 ウイルスが消失すると、肝がんになるリスクは低下しますが、肝がんになる可能性がゼロになるわけではありません。したがって、ウイルスが消失しても定期的な検査を受けることが必要です。

 

B型肝炎治療にも新薬が登場

 B型肝炎ウイルスは完全に排除することは難しいため、B型慢性肝炎ではウイルスが体内で増えるのを抑え、肝臓の炎症が沈静化した状態を目標とする治療を行います。

 B型肝炎に対する抗ウイルス治療は、日本では2000年以前は注射薬のインターフェロンによる治療しかありませんでした。しかし、2000年に飲み薬の「核酸アナログ製剤」が登場し、それまで副作用などでインターフェロンが使えなかった高齢者やインターフェロンで効果が得られなかったケースにも、治療法の選択肢が広がりました。

 この薬はB型肝炎ウイルスの遺伝子を作っている核酸(DNA)の合成を阻害し、ウイルスの増殖を抑えます。核酸(DNA)の材料になる物質に似た構造を持っているため核酸アナログと呼ばれています。その効果は高く、ウイルス消失率は90%程度といわれています。

 現在のB型肝炎に対する治療の基本方針は、慢性肝炎では核酸アナログ製剤、あるいは、インターフェロンと核酸アナログ製剤の併用療法、肝硬変では核酸アナログ製剤による治療となっています。

 B型慢性肝炎治療の今後の課題は、核酸アナログ製剤の服用を中止した後の肝炎再燃です。安全に核酸アナログ製剤を中止するために、さまざまな治療法が模索されているところです。また、抗がん剤や免疫抑制剤を服用した場合にB型肝炎が再燃する「B型肝炎再活性化」にも注意が必要です。抗がん剤や免疫抑制剤を開始する前にB型肝炎にかかっていないか、あるいは、かかったことがないかを検査することが推奨されています。

 

あなどれない脂肪肝

 脂肪肝は病理学的に5%以上の肝細胞に脂肪滴がある状態です。

 脂肪肝には、お酒を飲み過ぎた人がなるアルコール性の脂肪肝と、お酒をあまり飲んでいないのに肝臓に脂肪がたまる非アルコール性の脂肪肝があります。非アルコール性の脂肪肝の人も、肝炎や肝硬変になり、肝臓の病気が進行してしまうことがあり、近年注目されています。

 このような非アルコール性の脂肪肝のことを「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」といいます。 NAFLDの多くは、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧を伴っており、メタボリックシンドロームの肝臓版といえます。NAFLDのうち10~20%の人はさらに悪化して肝硬変に進行し、肝がんを発症することもあり、この肝臓病を「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」といいます。

 NASHはほとんど自覚症状がなく、たまたま受けた健康診断や人間ドックで指摘されることが多くなっています。また、日本人は遺伝的にこうした肝疾患をもたらす脂肪がつきやすい体質であると考えられています。

 基本的な治療は、バランスのとれた食事を心がけ、1日30分以上の有酸素運動を行って、生活習慣を改善することです。食事療法、運動療法によって、背景になっている肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧の改善を図ります。

 NASHで2型糖尿病を併発している場合は、2014年から国内で使用できるようになった「SGLT2阻害薬」などでの治療が可能です。この経口薬には余分な糖を尿から排出する作用があり、1日当たり300~400キロカロリーを減らすことができます。このため肝臓などに蓄積した余分な脂肪も減らすことができる可能性があり、現在、脂肪肝に対する効果を確認するための臨床研究が行われています。

 

 ●本稿は2018年5月19日開催の肝疾患医療センター市民公開講座「やさしい肝臓病のはなし」の講演内容を編集したものです。

〔講演および質疑応答登壇者〕加川建弘教授(東海大学医学部付属病院肝疾患医療センター長)/広瀬俊治助教(東海大学医学部内科学系消化器内科学)/荒瀬吉孝助教(東海大学医学部内科学系消化器内科学)/益子ひとみ管理栄養士(東海大学医学部付属病院栄養科)/古屋博行准教授(東海大学医学部衛生学公衆衛生学)/佐藤政代主任(東海大学医学部付属病院看護部)/鶴谷康太助教(東海大学医学部内科学系消化器内科学)/庄村雅子准教授(東海大学医学部看護学科)/髙橋和紗薬剤師(東海大学医学部付属病院薬剤科)