メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

「だいじょうぶ」キャンペーン

起きうること頭に描く 歴史学者・磯田さん/NPO法人「プラス・アーツ」理事長 永田さん

磯田道史さん
永田宏和さん

 地震、豪雨、洪水、噴火、津波と、数々の天災と闘ってきた日本。今年も各地で災禍が続いている。犯罪や災害などから住民と街を守り、安心・安全な地域づくりを目指す「だいじょうぶ」キャンペーン(主催・同キャンペーン実行委員会)では2007年から、日ごろの備えの大切さを呼びかけてきた。あす9月1日は防災の日。古文書から災害を読み解いている歴史学者の磯田道史さんが訴える「起きうる事態を想像する力の大切さ」を、防災啓発に取り組むNPO法人「プラス・アーツ」理事長の永田宏和さんに聞いてもらった。【上杉恵子】

    自治体に救命担当の「命課」を 歴史学者・磯田道史さん

    ケーススタディーを子どもたちに NPO法人「プラス・アーツ」理事長 永田宏和さん

     永田さん 今年も自然災害が相次いでいます。7月の西日本豪雨では、200を超す命が犠牲になりました。

     磯田さん 4年前に広島市を襲った土石流に比べ、今回ははるかに予見性が高い災害でした。「いつ起きるか」が分かったのは数時間前ですが、「どこで起きるか」はハザードマップで何十年も前から明らかだったのです。

     水害時に浸水が5メートルを超える場所は、2階に逃げても助かりません。こうした地域では、介護が必要な避難者にどう声かけをするかといった計画案を作っておく必要がありました。また自治体も、災害時の救命を担当する「命課」を作るべきです。今回の災害は、後世の教訓となる点がたくさんありました。

     永田さん 危険な場所だと分かっていても土地を離れられなかったり、「ここだけは大丈夫だ」といった思い込みがあったりもします。

     磯田さん 「危ないところに住むな」といったネット上の書き込みがありましたが、安全だと言い切れる場所は日本にはまずありません。沖積平野に住んでいる以上、みんな等しく洪水のリスクを負っています。

     今回被害が大きかった倉敷市真備町(岡山県)は古代から人が住み、遣唐使の吉備真備(きびのまきび)を生んだほどの歴史ある土地です。無責任に「住むな」と言うのではなく、「こういう対策をしなければいけない場所だ」と助言すべきです。

     難敵は、我々の頭の中にある正常化バイアス。「そんなことになるはずはない」と、考えたくないことは起きないことにする思考法です。自分は長期にわたる歴史資料をいつも見ているので、「起きるはずがない」ことが実はしょっちゅう起きてきたことを知っています。しかし一般には、自分の経験値を頼りに「これまでなかったのだから、これからもない」と考えようとしがちです。

     永田さん 学校での歴史教育にも、災害の話はあまり出てきません。阪神大震災を経験した神戸市では副読本など独自の防災教材を作っていますが、多くの地域では災害史や地元の過去の被災を学ぶ機会が少ないのが現状です。身近に危険があることを教えたうえで、非常時に臨機応変に対応できるサバイバル力を身につけさせる教育が必要ではないでしょうか。今の子どもたちを見ていると、ピンチへの対応力が弱いと感じます。

     磯田さん 日常にも危機はあります。例えば、目の前の川を跳び越せるか、これだって幼いときから体験を繰り返すと、危機判断の感覚が養われます。

     歴史を振り返ると、岩倉具視も大久保利通も馬車の中で襲われましたが、日ごろから暴漢を警戒していた岩倉は直ちに自ら堀に落ち、水中に忍んで助かりました。一方、真面目な大久保は車中でも書類に目を通していて、斬り殺されました。リスク察知力が如実に違います。

     さらにさかのぼると、人類は5万年前から「象徴的思考」になり、起きていないことへの想像力を膨らませたことが近年分かってきました。左右均等な石器や針を作り出せたのは、頭の中にイメージがあった証拠。これがネアンデルタールよりホモ・サピエンスが栄えた理由です。

     同じことが防災にも言えます。危険から逃れるために必要なのは、起きうる事態を想像する力です。まず、過去にどういう状況で危機が生じているかといった「考えたくないこと」のデータを集め、それを回避することが重要なのです。

     永田さん いったん災害が起きると一気に意識が上がるので、6月に震度6弱を経験した大阪は今、防災熱が高まっています。しかし、冷めるのも早いのが現実です。

     磯田さん 日本人は「見立て」が好きで「何々であることにする」という非現実的な仮定のもとに、失敗を繰り返してきました。避難訓練もしかり。地震予知連絡会による予知があり、火事は火元が明らかで、消防車は水道管から放水する想定です。実際には予知はなく、火元は不明で、水道管は破断されているでしょう。建前としての「見立て」が有効に働く時もありますが、自然に対しては通用しません。命取りになります。

     幕末の薩摩藩が強かったのは、「もし~なら」という反実仮想力があったからです。「もしここで地震が起きたらどうするか」を考えさせるケーススタディーを、何度でもやるべきです。小さいころから続けると悲惨な目に遭わなくなるでしょうし、将来の仕事にも応用が利く思考パターンが身につきます。今の学校教育が目指す「生きる力の育成」そのものです。


    NHK「BOSAI」 ラジオ、サイト、アプリ 外国人向け情報発信

    新聞紙を使った皿の作り方を英語字幕付きで紹介する「HOW TO CRAFT SAFETY」の動画

     年々増加する訪日外国人。仕事や留学で長期滞在する人も多い。言葉が分からず、土地勘もないまま災害に見舞われれば、不安感は何倍にも膨らむ。

     国際放送「NHKワールド JAPAN」は、多言語による「BOSAI」の普及と啓発に取り組んでいる。防災ノウハウを紹介するラジオ番組「BOSAI」を昨年4月から毎月1回、17言語で発信。今月8日には、防災に役立つノウハウを集約した英語のウェブサイト「BOSAI」を開設した。

     サイトの主なコンテンツは番組の音声アーカイブや防災クイズ、防寒着や防水ズボンといった必需品を新聞紙やポリ袋などで作る動画「HOW TO CRAFT SAFETY」だ。

     動画の日本語版「つくってまもろう」は、東日本大震災(2011年)を機に災害現場で役立つアイデアを広く共有しようと、NHKが永田宏和さん(NPO法人「プラス・アーツ」理事長)の協力を得て制作。同局のホームページにアップしている。NHKワールド JAPANでは5言語版を作成し、「BOSAI」サイト誕生に先駆けフェイスブックなどで公開してきた。チーフ・プロデューサーの小笠原晶子さんは「噴火時の対応はインドネシアが優れたノウハウを持っているなど、日本だけが防災先進国ではありません。今後は他国の防災情報も取り入れたい」と意欲をみせる。

    地震発生を伝えるアプリのプッシュ通知画面=NHK提供

     また、災害発生時の情報発信策としてNHKワールド JAPANは今年2月、スマートフォンのアプリを使ったサービスを始めた。震度3以上の地震情報や津波警報・注意報を気象庁が発表すると、英語によるプッシュ通知が自動送信される。画面をタップすると、災害の内容を伝える番組の動画やニュース記事の画面に移動できる。今年度中には中国語版も開始予定だ。

     担当する宇野真樹専任部長は、東日本大震災の報道に関わった経験から「このアプリで一人でも多くの命が救われてほしい」と話す。

     「BOSAI」のサイトはhttps://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/radio/bosaiweb/


    「だいじょうぶ」キャンペーン

     犯罪や事故などの「こわいもの」から子どもやお年寄りを守り、自然に「だいじょうぶ」と声を掛け合える社会を目指す運動。ロゴマークは、「行政」「企業・団体」「市民」の三つの輪をかたどり、安心安全の輪を大きくしていきたいという願いをこめている。

    「だいじょうぶ」キャンペーンホームページ http://daijyoubu-campaign.com または「だいじょうぶ」キャンペーンで検索


    主催

    「だいじょうぶ」キャンペーン実行委員会(会長=野田健・元警視総監、元内閣危機管理監、原子力損害賠償・廃炉等支援機構副理事長/事務局:毎日新聞社)

    共催

    全国防犯協会連合会、全日本交通安全協会、日本消防協会、全国防災協会、日本河川協会、日本道路協会、都市計画協会、全国警備業協会、日本防犯設備協会、日刊建設工業新聞社、ラジオ福島、毎日新聞社

    後援

    内閣府、警察庁、文部科学省、国土交通省、消防庁、海上保安庁、東京都、NHK

    協賛

    JR東日本、セコム、東京海上日動、トヨタ自動車、みずほフィナンシャルグループ、三井不動産

    協力

    地域安全マップ協会、プラス・アーツ、情報セキュリティ研究所


     ■人物略歴

    いそだ・みちふみ

     1970年岡山市生まれ。慶応大文学研究科博士課程修了、博士(史学)。静岡文化芸術大教授などを経て、2016年から国際日本文化研究センター准教授。映画化された「武士の家計簿」のほか「天災から日本史を読みなおす」など著書多数。NHK大河ドラマ「西郷どん」では時代考証を担当。


     ■人物略歴

    ながた・ひろかず

     1968年兵庫県生まれ。阪神大震災(95年)を経験後、2005年の10年事業の一環として、防災の知識や技を楽しく学ぶ「神戸カエルキャラバン2005」を美術家の藤浩志さんと企画。翌年、NPO法人「プラス・アーツ」を設立。「イザ!カエルキャラバン!」を国内外で展開している。

    毎日新聞のアカウント

    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. 安室さんコンサート 療育手帳で入場断られ…「取り返しがつかない」憤りの声
    2. 三越伊勢丹 3店閉鎖へ 新潟、相模原と府中
    3. 台風24号 沖縄は大しけ 30日ごろ西日本直撃恐れ 
    4. 県教委 バイク免許に新要項 高校生「3ない運動」廃止 /埼玉
    5. トランプ米大統領 自慢に失笑 国連総会で各国指導者

    編集部のオススメ記事

    のマークについて

    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです