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「恩赦」「公務員処分免除」に疑問

日本人はおおむね「天皇」を敬愛している。

     例えば「男・山根明!」で人気者?になった日本ボクシング連盟の「78歳の前会長」は、額に入れた1枚の写真をマイカーの後部座席の上にワザワザ外から見えるように飾っている。

      その写真は? 2013年秋、東京で行われた第68回国民体育大会「スポーツ祭東京2013」。10月7日午前、天皇、皇后は日野市で行われたボクシング競技を初めて観戦された。山根会長(当時)が同席。天皇、皇后に「アマチュアボクシングのルール」を解説した時の写真だ。

     笑顔で選手に拍手を送る天皇、皇后。その脇で山根さんが得意そうである。「男・山根明」はこの写真を大事にしている。サングラスにダブルの背広。何やら、ヤクザっぽい「いでたち」で周囲を威嚇した人物も「天皇」にはかなわない。多分、山根さん、心底「天皇」を敬愛しているのだろう。

     実は、僕も一度だけ天皇にお会いした時の写真があって、仕事場の片隅にそっと飾っている。日本人は「天皇」と「美智子皇后」が大好きだ。だから「天皇と一緒の写真」は日本人として「誇り」なのだ。

     しかし、この種の写真には「天皇利用」の下心が見えてくる。山根さんが車の後部に「天皇と一緒の写真」を飾るのは広告塔的な利用価値を意識しているのだろう。僕も「天皇と一緒に過ごした瞬間」を自慢しているのかもしれない。日本人は多かれ少なかれ「天皇」を敬愛し、同時に「天皇」を利用している。

     しかし「ここまでやって良いのか?」と違和感を持つケースもある。その一つが「過大な恩赦」である。

     「恩赦」とは、政府(行政権)または議会により国家の刑罰権の全部、または一部を消滅、若しくは軽減させる制度のこと。受刑者らも国家の慶弔に喜びを分かちあったり冥福を祈ったりするのが目的とされる。「恩赦」は共和制・君主制、大統領制・議院内閣制の政体の差に関係なく、多くの国で行われている。

     とはいえ、古代、日本には、犯罪と刑罰が「神に対するツミ(罪→穢れ)とハラエ(祓→清め)」として考えられていた。だから、神ではない人間が「刑罰を一方的に軽減すること」はできなかった。「天皇」でさえ「恩赦」をしなかった。

     ところが、江戸時代、宝永6(1709)年に、将軍・徳川綱吉が死去。それに続く新将軍家宣の就任に伴って、大がかりの「恩赦」が2度も行われ、全国で8831人が大赦の対象になった(新井白石の「折たく柴の記」による)。傍流から入った新将軍の恩恵を示すことで、政治基盤を強化するためだった。「恩赦」は、日本の場合、極めて政治的なイベントになってしまったのだ。

     大日本帝国憲法下の恩赦は天皇の大権事項だった。天皇が罪人を許した。日本国憲法下では、恩赦の決定は内閣が行い、恩赦の認証は天皇の国事行為として行われる。つまり、時の政権(つまり自民党)が天皇の名前で「司法権行使の効果」を変動させる。

     これまで、政府(事実上、自民党)は時代の大きな節目に権威保持のために?大々的な「恩赦」を敢行した。1989年の昭和天皇崩御(約1017万件)や90年の天皇即位(約250万件)、93年の皇太子の成婚時には「特赦」90件、「減刑」246件、「(刑の執行)免除」10件、「復権」931件。計1277件が記録されている。

     果たして、今回は?

     容疑者仲間が警察の留置場の中で「逃げようなんて思わず、早くゲロして、恩赦を貰った方がよい」なんて、半分冗談で相談しているというから「恩赦の中身」が牢の中でも話題になっている。

     もちろん「恩赦」という「司法権行使の変更」には「法の平等」が失われるから反対の意見もある。一連のオウム真理教事件で13人の受刑者の死刑が執行されたのは「恩赦の前」に済まさないと「不平等」が起こるからである。

     「恩赦」の時期、その内容で、司法権の判断が変更したり、そのまま続いたりする。これは「法の下の平等」に明らかに反するのではないか。僕は「恩赦」に違和感を持っている。 そればかりか、安倍内閣は「公務員処分免除」を検討している。

     19年の天皇陛下の退位と皇太子さまの新天皇即位に伴う代替わりに合わせ、国家公務員が過去に受けた懲戒処分の免除を行う!というのだ。

     これは「恩赦」とのバランスを取るためだというのだが、現行憲法下で10回あった恩赦のうち、(1)52年のサンフランシスコ講和条約締結(2)72年の沖縄本土復帰(3)89年の昭和天皇「大喪の礼--の3回は「処分免除」も併せて行われている(ということは、他の7回は「処分免除」はなかったのだが)。

     89年2月の昭和天皇の「大喪の礼」の際は、退職後でも「名誉回復」の意味合いで適用されているのだ。処分免除は「公務員等の懲戒免除等に関する法律」と内閣が定める政令に基づく。89年は懲戒処分(免職・停職・減給・戒告)のうち、減給か戒告の処分者が免除対象になった。具体的に言えば、減給期間中の公務員の処分が免除されると給与は元に戻る。

     期間が過ぎていると減給分の返還は受けられないが、履歴の賞罰事項が抹消され、定昇見送り処分を受けた対象者も定昇を受けられる。天下りも可能だ。

     89年と同じ基準を踏襲すると、財務省の決裁文書改ざんを巡る佐川宣寿前国税庁長官らの減給処分も免除されるのだろう(昨年の文部科学省による天下りあっせん問題を受けた前川喜平前事務次官の減給処分も免除されることになるが)。

     要するに、昨年から今年に多発した不祥事の「当事者」がそろって無罪放免になる。国民は、それで納得するだろうか?

     今回の天皇生前退位は、16年8月8日の 「象徴としてのお務めについての天皇陛下のお言葉」から始まった。象徴天皇は憲法上、政治的発言が制限されている。それにも関わらず「元首の生前退位」という“究極の政治的選択”を天皇自らが選ばれた。それは、日本国の近代歴史に特記すべき「革命的決断」だった。

     そして(僕から見れば)「やりたい放題」の安倍1強独裁政権を大いに慌てさせ(ご意志が全て生かされた訳ではないが)「退位特例法」を成立させた。

     天皇は柔らかな人柄とは想像できないほど「強固な意志」をお持ちの方だった。19年4月30日、ご退位。5月1日に皇太子さまが新天皇に即位される。天皇は「生前退位」の決意にそい「過大の恩赦と公務員処分免除は必要ない!」と言われるのを僕は心待ちにしている。(毎日新聞客員編集委員)

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