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毎日フォーラム・創る 地域活性リポート

さかりば農園・農村ゲストハウスさかりば経営 鍋島悠弥さん

大三島の盛集落の秋祭り=2016年9月
鍋島悠弥さん

地域に息づく「生きる力」

 本州と四国を結ぶ瀬戸内しまなみ海道の中心にある大三島。2012年に地域おこし協力隊としてこの地に移住した私は、数多くの失敗を重ねながらも濃密な経験を積み重ね、現在は農園とゲストハウスを経営している。移住から7年目を迎えた。地域と向き合い、その一員として生きてきて見えたものは、地域という現場に息づく「生きる力」の存在だ。

     私は大学院在籍時に、農村地域の観光開発をテーマとした研究に取り組み、調査のために各地の現場へ足を運んでいた。あくまでも研究者として地域を捉える日々のなかで、現場に生きる人々そのものに憧れを抱くようになった。

     このような経緯から、地域おこし協力隊として大三島へ移住することになったが、当時の私は、大学院で学んだことを生かすことができると過剰な自信を持っていた。過疎地に移住した自分という存在は無条件に地域に必要とされ、歓迎されてしかるべきだと思い込んでいたのである。

     しかしながら、活動のなかで自分の発言や行動の全てが上面だけを滑り続けているような違和感を抱いていた。この原因は、現在となって振り返れば明確であった。地域には人々の暮らしがあり、地域という狭いコミュニティーのなかには、よそ者の自分には到底把握しきれないような濃密な人間関係が多様な日常と共にある。その日常に目を向けることもなく、自分の経験を生かすべき現場としてのみ地域を捉えていたことが違和感の要因だったのだ。

     移住者である自分にとって一番大切なことは、地域の日常や生活に入らせてもらうことであると気づいたのだ。この感覚に気づいてからというもの、焦りや不安のようなものは小さくなっていく。地域に流れている独特の感覚とペースをつかむことができるようになったことが大きかったのだろう。

     地域に溶け込むように日常を生きる。これはよそ者たる移住者としてまず初めに乗り越えなければならない大きなステップであろう。このステップを越えた時から、私は加速度的に地域が持つ本当の意味での魅力に気づき、学んでいくようになった。それがまさしく地域の持つ「生きる力」であった。ロープの結び方、作業機械の使い方といった技術的なこと、地域の歴史や文化が培ってきた誇り、人としての在り方、といった地域に流れる当たり前の日常に潜在的に存在する「生きる力」。

     これらは、教育機関では学ぶことはできず、都会に暮らすだけでは現実感を伴わないものだ。地域おこし協力隊の3年間という任期を通して学び得たこの「生きる力」は、現在の自分の仕事のみならず、人生観にも生かされている。

     昨今、大学生や若い世代が地域へと関わりを持つ機会が増加しているが、地域という現場で学び得ることは多いだろう。それらを学術的要素として捉えることは必要だが、その根底に眠る地域の力を体感し、糧としながら実生活へ生かしていくことが最も重要だと感じている。日本の地方という古来の風土のなかで培われてきた「生きる力」こそが、これからの日本を担う我々が引き継いでいくべきものではないだろうか。

     なべしま・ゆうや 1987年大阪府生まれ。近畿大大学院農学研究科修了。愛媛県今治市地域おこし協力隊を任期満了後、定住。さかりば農園、農村ゲストハウスさかりばを経営しながら外部専門家として日本各地でまちづくりに携わっている。

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