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毎日フォーラム・視点

慶応大大学院政策・メディア研究科特任教授 長瀬光市

長瀬光市氏

縮小社会の中の自治体 経営を機能させるシステムの総合化

 日本全体が、高度経済成長からバブルの時代には、時代の流れに乗り、全国一律の政策を実行してさえいれば、地域の問題は解決し、自治体運営ができた時代であった。その後、「失われた20年」の中で、従来は効果的・効率的だと考えられてきた自治体運営の方法では、全くうまくいかないことが明らかになった。

     その間に、地方分権一括法が1999年に成立し、機関委任事務が廃止され、中央政府と地方政府は対等の関係(=自治体の自律)になった。平成の大合併を経て、3300の自治体は2017年4月現在で1718にまで減少した。人口減少・低成長時代に入り、15年から国策として「地方創生」が推進されている。

     生産年齢人口の減少や景気低迷による税収の減少、人口や社会構造の変化による社会保障費の増加、社会インフラ劣化への再投資の必要性などから財政は慢性的に逼迫する一方、多様化・複雑化する住民ニーズにも対応するという、矛盾する課題に挑戦することが自治体に求められている。

     行政組織とは、「人口が減少しても安心して幸せに暮らせる社会を築く」ことを実現する組織体であり、自治体に求められていることは、誰のための「自治体経営」かの視点である。そのためには、行政組織の活動を通じて、出来るだけ生産性高く(=資源は少なく、生み出すものは多く)、成果を実現することを目指すべきである。

     自治体に対して「総合行政」という言葉が使われ始めたのは、おそらく 1960年代の末頃からだ。50年を経過しても「総合化と政策に対する説明責任」が果たせないのが、大半の行政組織の実態といえる。

     政策アドバイザーとして関わった熊本県天草市は、06年に2市8町が合併して誕生した。市域面積は約683平方キロ、人口8万3000人で、366の自治会と366の行政区(区長は行政への協力委員)で構成されている。合併以降、本渡への人口集積と周辺地区の人口減少、過疎化が進行している。

     当時の職員数は1567人。行政経営の仕組みは、総合計画と個別計画以外に、予算編成、事業評価、組織管理、人事評価など、新市建設を旗印にさまざまなシステムの導入や計画を競い合って作り続けてきた。その結果、事務事業は1400、個別計画94、審議会等が78(1010人の委員任命)にまで膨張していた。合併による必要性があったといえ、数多くの計画やシステムを維持・管理する事務や作業量が職員の負担となっていた。

     職員との意見交換で明らかになったことは、「若手職員らが、合併後、地域と自治体の自律に危機意識を持っていた。総合計画の改訂時期をチャンスと捉え、この際、現状を整理し、総合計画を中心に全てのシステムを同期させて機能するように再構築(=トータル・システム化)する」ことだった。

     自治体経営戦略(行政経営と地域経営)として、総合計画改訂を契機に、肥大化した行政システムを再構築する。計画を3層構造(基本構想・基本計画・実施計画)、期限は8年とし、計画自身に評価機能を持たせた。基本構想に地域が目指す姿である「市民が住み続けたいと思う環境指標22」を掲げた。基本計画に八つの部門経営方針と政策方針を掲げ、41の政策を設定した上で、92本の施策計画と実行計画に750の活動・事業を位置づけた。

     基本構想の序論で「計画の総合化」や「行政システムの統合化」の指針を示し、計画の最上位の総合計画を核とした自治体経営のトータルシステム化を推進することを示し、前期基本計画の期限に「計画とシステム」の棚卸、検証を行った上で、総合化・統合化と体系化を行う方針とした。

     実行戦略として、「自治体経営のトータルシステム化方針」を策定、部門・職員が一丸となり二つの切り口から推進する。

     (1)「行政システムの統合化」方針

     今後の税収減や合併交付金の削減等を見据え、限られた財源を効果的に活用することを目指し、総合計画を中心として、各種の行政システム(予算編成、目標管理、人事評価、行財政改革、実施計画、評価システム等)が総合計画を中核に効果的に連動させるよう再構築する。

     効果的な事務遂行や庁内での情報共有を効果的に行う視点から、総合計画の運用プロセスに沿った「行政システムの統合化」を支援するための電算システムによる業務支援システム(新財務会計システム)を導入する方針とした(18年秋から本格稼働を予定)。

     (2)「計画の総合化」方針

     総合計画と個別計画の連動を徹底し、併せて個別計画の整理・統合化を行う。その結果として、計画の実施の実行性と総合性を高め、計画策定や管理に関わる手間やコストを削減する。具体的には、個別計画の見直しを行い、総合計画の目標年次・期限、部門方針などと整合させる。

     分権改革以降、「計画のインフレ」状態が顕著となり、「補助金」をもらうための「計画」が増え、総合計画に含まれないことが多くなった。このような状態の是正や肥大化した審議会等の統廃合を進める。また、個別計画の改訂などに当たり、毎年6月に専門部会ごとに改訂内容、スケジュールを確認。11月に計画内容を確認し、基本計画や実施計画、予算に反映させる方針とした。

     15年度からトータルシステム指針の運用目的で、専門部会を総合計画策定後も継続させた。総務企画部門(企画・総務・財政・行革)が経営改革の推進本部となり、7部門を中心に自治体経営再構築に取り組んだ。役割は、政策・事業評価、行政システムの統合化、計画の総合化、審議会等の統廃合、枠配分予算と実行計画との調整など、試行錯誤を繰り返し行った。

     やがて、(1)部課長が総合計画の目指す姿の実現に対し説明責任が芽生えてきた(2)部門内、部門間の調整力が高まり総合行政が浸透した(3)計画にない事業は予算をつけないルールが浸透(4)事業のスクラップ&ビルドを徹底し、枠配分方式が効果を上げてきた(5)合併による肥大化した組織に議論する風土が生まれてきた--など変化の兆しが見えてきた。

     その結果、事務事業が1400から750、個別計画が94から39に削減。職員数が1567人から1048人に減少、審議会等の統廃合も進展し、財政状況に改善の兆候が見えてきた。

     縮小社会の中の自治体経営は、「縦割り主義から、地域からの発想」に変革し、「硬直化した行政システム」を変えることで、トータルシステムが構築される。天草市の部門と職員による、トータルシステム化に向けた試行錯誤が現在も続いている。「改革と改善」には始めがあって、終わりはない。

     ながせ・こういち 1951年福島県生まれ。法政大工学部建築学科卒。藤沢市経営企画部長などを経て慶応大大学院政策・メディア研究科特任教授。神奈川大法学部非常勤講師、天草市・鈴鹿市・市原市などの政策アドバイザー、金ケ崎町行革委員会委員長、相模原市街づくりアドバイザーなどを兼務。一級建築士。専門分野は自治体経営、地域づくりなど。主な著書に「縮小社会再構築」(公人の友社、監修・著)、「地域創生への挑戦」(公人の友社、監修・著)、「ひとを呼び込むまちづくり」(ぎょうせい、共著)、「湘南C-X物語」(有隣堂、共著)他。

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