メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

毎日フォーラム・特集

SDGs 動き出した日本の「SDGs未来都市」

エネルギー自給率100%を目指す岡山県真庭市のバイオマス発電所=真庭市提供

全国29自治体 10モデル事業を選定

 SDGs(エス・ディー・ジーズ、Sustainable Development Goals)は持続可能な開発目標として2015年に国連のサミットで採択された。先進国を含む国際社会全体が30年を期限とする包括的な17の目標(ゴール)と169のターゲットを設定し、「誰一人取り残さない」社会の実現を目指す。政府は今年6月、29の自治体を「SDGs未来都市」と、その中から先駆的な10のモデル事業を選定した。今年はまさにSDGs元年だ。その選定に関わったローカルファースト研究所代表取締役(東洋大客員教授)の関幸子氏に、政府の取り組みとSDGs未来都市の最前線の動きを報告してもらった。

     SDGsは17のゴール別に具体的な169のターゲットが明記されているが、先進国である日本が実際に取り組まなくてはならない目標はそんなに多くはない。

     例えば、ゴール1は「あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」で、ターゲット1の1は「30年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる」。ゴール3は「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」で、ターゲット3の1は「30年までに、世界の妊産婦の死亡率を出生10万人当たり70人未満に削減する」とある。このように、ゴールとターゲットの関係はかなり具体的で、達成すべき数値目標が明確であることが特徴となっている。

     また、1から15までのゴールは、経済、社会、環境への具体的な達成すべき目標設定であるが、ゴール16の「平和と公正をすべての人に」では、「持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する」として、体制や法的な制度設計について記述している。さらに、ゴール17の「パートナーシップで目標を達成しよう」では、「持続可能な開発に向けて実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する」として先進国、途上国、企業、NGOなどのステークホルダーの役割と手法を明記している。

     日本では、16年5月に安倍晋三首相を本部長に、官房長官、外相を副本部長とし,全閣僚を構成員とする「SDGs推進本部」を設置され、国内実施と国際協力の両面で率先して取り組む体制を整備。この本部の下で、行政、民間セクター、NGO、NPO、有識者、国際機関、各種団体など幅広いステークホルダーによって構成される「SDGs推進円卓会議の対話を経て、同年12月、今後の日本の取り組みの指針となる「SDGs実施指針」を決定した。その後に、今年6月の第5回推進本部会合では、17年12月の第4回会合で決定した「SDGsアクションプラン2018」を更に具体化・拡大した「拡大版SDGsアクションプラン2018」を決定した。

     SDGs実施指針は、30アジェンダの実施に向けた重要な国家戦略であり、特に推進すべき目標として掲げたのは次の8項目である。

     (1)あらゆる人々の活躍の推進(2)健康・長寿の達成(Prosperity 繁栄)(3)成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション(4)持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備 (Planet 地球)(5)省・再生可能エネルギー、気候変動対策、循環型社会(6)生物多様性、森林、海洋等の環境の保全 (Peace 平和)(7)平和と安全・安心社会の実現(Partnership パートナーシップ)(8)SDGs実施推進の体制と手段--。

    地方創生、環境未来都市構想を発展

     SDGsを推進する上で、日本は独自の取り組み姿勢を示している。それは14年から動き出した少子高齢化に歯止めをかけ地域の人口減少と地域経済の縮小を克服する「地方創生戦略」との連携であり、08年から低炭素社会実現を目指してきた「環境未来都市構想」の推進である。

     地方創生での文脈から見れば、SDGsに基づき達成する社会は、実は地方創生の実現そのものであるという捉え方から「まち・ひと・しごと創生基本方針2017」の中に「地方公共団体における持続可能な開発目標(SDGs)の推進」が新たに盛り込まれた。具体的には、環境・社会・経済の3側面から持続可能性を目指す環境未来都市構想をさらに発展させ、自治体のSDGs達成に向けた取り組みを支援することになった。同時に、SDGs達成のためのモデル事例の形成、資金支援策の検討、有識者による継続的なフォローアップ支援が明文化され「SDGs未来都市」への道筋が敷かれたことになる。

     17年6月には、一般財団法人建築環境・省エネルギー機構理事長の村上周三氏を座長として、環境や福祉、都市政策、経済等の各分野の専門家10人で構成された「自治体 SDGs 推進のための有識者検討会」が設置された。筆者も一員として招聘されており、特に経済政策及び自治体の事業推進体制等の視点から多くの意見を述べた。

     有識者検討会議の役割は、「環境未来都市」推進構想の実績を踏まえ、地方創生における自治体 SDGs 達成のための取り組みを推進する基本的考え方を取りまとめるとともに、具体的施策を提言することにあった。5回の討議を経て、有識者検討会は同年11月に取りまとめた。

     コンセプトではまず、「自治体SDGs」という概念を「自治体による地域ステークホルダーと連携したSDGsの目標達成に向けた積極的な取り組みの総体」と明確にした上で次の提言を行った。

     (1)経済・社会・環境政策の統合による相乗効果の創出=SDGsは、経済・社会・環境の3側面を不可分のものとして扱い、統合的な取り組みを通じて持続可能な開発を目指すものとしてデザインされている。地域ごとの優先的課題に取り組むことで更なる相乗効果が生まれ、地方創生を実現化できる。

     (2)住民や様々なステークホルダーから見て、自治体に期待する役割=SDGs推進には、住民や民間事業者等の広範で多様な人材や機関の積極的な参加を促す活動を展開すること。

     (3)自治体がSDGs推進のために取り組むべき事項=バッグキャスティング手法による30年のあるべき姿としてのビジョン作成、優先すべきゴールとターゲットを選定し政策目標を立てる。あわせて、首長のリーダーシップ、執行体制(人材、予算、権限等)の整備が不可欠である。

     (4)政府の役割=具体的な行動の展開と相互学習の場づくりとともにモデル事業として「SDGs未来都市」を公募選定し、経済・社会・環境の3側面における新しい価値創出を通して持続可能な開発を実現する地域支援--。

     有識者検討会から提案されたあり方コンセプトを基に、政府は今年2月にSDGs未来都市の公募を開始。1カ月間で55の自治体から応募があった。先の有識者会議がそのまま、自治体SDGs推進評価・調査検討会(座長は村上氏)に移行し、筆者も含めて10人の委員が、評価項目と評価・採点方法を定めたSDGs未来都市等選定基準に基づき、書類審査とヒアリング調査を経て、29のSDGs未来都市と10のモデル地域を選定した。

     SDGs未来都市とは、SDGsの理念に沿った基本的・総合的取り組みを推進しようとする都市・地域の中から、特に、経済・社会・環境の3側面における新しい価値創出を通して持続可能な開発を実現するポテンシャ ルが高い都市・地域を指す。 

     自治体SDGsモデル事業とは、SDGsの理念に沿った統合的取り組みにより、経済・社会・環境の3側面における新しい価値創出を通して持続可能な開発を実現するポテンシャルが高い先導的な取り組みであって、多様なステークホルダーとの連携を通し、地域における自律的好循環が見込める事業を指すものである。

     選定されたSDGs未来都市は、北海道を含めて4道県、富山市など19市、熊本県小国町など5町、奈良県十津川村1村である。

     特徴としては、下川町、富山市、東松島市、横浜市、北九州市などは環境未来都市を基盤としながら経済・社会・環境の好循環型の提案となっている。市民の未病状態を長く維持して医療費や介護費用を減少しようとする神奈川県、子どもの貧困の解消と教育を重視したつくば市、女性の活躍と人材育成を基盤に置いた宇部市、市民生活を豊かにするためのリビングラボを中心に据えた鎌倉市など、地域特性と資源を分析し、評価した上での個性的な提案となった。

     モデル事業の10地域には、全体マネジメント・普及啓発等経費として 2000万円の定額補助と加えて事業実施のために必要不可欠な事業設備、機械装置導入経費、試作・実証経費、人材育成経費、システム開発経費等を対象に2分の1補助で2000万円までとして合計4000万円の補助金が提供される。

     29のSDGs未来都市には、地方創生交付金の1枠(8000万円程度)を申請する権利が与えられ、その範囲内で事業化できるように支援施策が制度化された。

    真庭市富原地区の樹齢100年のヒノキ林=真庭市提供

    エネルギー自給率100%を目指す真庭市

     自治体SDGs推進評価・調査検討会の委員は、8月中にモデル事業に選定された10自治体の現場に入り、その実態を把握するとともに事業推進へのアドバイスを行った。筆者も現地を訪問したので最新の情報を報告しよう。

     岡山県真庭市は、今回のSDGs未来都市計画で、30年のあるべき姿として三つを掲げた。

     一つ目は、木質バイオマス等の再生可能資源によるエネルギー自給率100%達成。有機廃棄物を利用した環境保全型農業から生まれた農産物の地産地消などにより、市外に流出していたお金が市内で循環する「回る経済」を確立する。

     二つ目は、中央図書館を拠点とした生涯学習、木造の小学校・こども園等を拠点とした郷育により、都市の「効率」より農山村の「生活の質」を重視する若者、関係人口、移住者が増加し、彼らが新産業の担い手となる。

     三つ目は、旭川の下流住民、漁業者等と連携した環境保全活動等を通じて、持続可能で豊かな環境が創出され、大規模災害の少ない地域として安定・安心な真庭ライフスタイルを実現する。

     真庭市は、典型的な中山間地で、古くから木材の産地として知られ、生産から加工、流通まで体制が整い発展してきた。大田昇市長のリーダーシップの下で、全国でもいち早く地元木材を活用したバイオマス発電に着手し、現状でも再生可能エネルギーによる地域エネルギー自給率は30%を超えている。今回のSDGs未来都市の実現に向けて2基目のバイオマス発電所を整備し、マイクロ・小水力発電設置とともに、全国初の地域エネルギー自給率100%の「エネルギーエコタウン真庭」を目指す。

     同時に、環境・経済・社会の自律的好循環を形成し、東京1極集中に伴う人口減少や地域経済の衰退といった負の連鎖を完全に断ち切り、地方・農山村の永続的発展モデル自治体を目指した戦略的な事業計画を示している。

    ITによる経済活性化を目指す壱岐市

     長崎県の離島である壱岐市の30年のあるべき姿は、古来、大陸と九州を交易により繋いできた国境の島としての伝統を基盤として、徹底した交流起点のまちづくりを推進し第4次産業革命の恩恵により、さらなる交流機会を獲得し、壱岐活き対話型社会「壱岐(粋)なsociety5.0」を実現していることだ。

     具体的な戦略としては、IoTやAIなど先進技術を積極的に取り入れ、就業者の高齢化や後継者不足等の深刻な課題を抱えていた1次産業の改善に取り組む。農業は、定植から収穫、出荷、販売までの一連の生産工程をシステム化し、IoT及びAIにより生産工程を自動化することで、就業者の心身の負担を軽減し、持続可能産業へと変革させる。解消すべき課題として、(1)担い手不足の解消(2)1次産業労働者のQOL向上(3)技術伝承(4)取引先の拡大--を掲げ、6次産業システム管理を行う島内教育プログラムの実施やECマーケットの確立を目指している。

    関幸子さん

     白川博一市長は、「壱岐市はもとより交易の島として発展しており、新しいことやよそ者を受け入れる素地がある。今後は島外大学生と島内高校生によるイノベーションプログラムをさらに発展させ、若者によるまちづくりを進めたい」と語る。

     SDGs未来都市が選定されたこともあり、多くの自治体や企業が関心を示している。加えて、8月31日には内閣府が事務局を務める「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」が発足し、自治体、企業、NGO、NPO、大学・研究機関等の広範囲はステークホルダーとのパートナーシップを強化する場づくりが進む。そこでは実際の事業のマッチング、情報や意識醸成に向けた普及啓発活動、課題解決のための研究会の開催が予定されている。

     併せて、ESG投資(環境environment、社会social、企業統治governance)に配慮している企業へ投資や融資が拡大するなど、日本においてもSDGsへの取り組みがまさに始まろうとしている。SDGsという言葉と概念を普及させるとともに、自治体だけでなく企業や市民が、経済・社会・環境の好循環を作り出すために具体的行動へと移す時期に来ている。

     せき・さちこ 法政大大学院政策科学研究科修士課程修了。1980年から東京都三鷹市、財団法人まちみらい千代田で約30年間の地方行政に携わる。その間に株式会社まちづくり三鷹、秋葉原タウンマネジメント株式会社等のTMOを設立しエリアマネージメント事業を推進。09年から現職。内閣府の自治体SDGs推進評価・調査検討会、総務省地域IoT実装推進事業評価会の委員など政府委員に就任。

    毎日新聞のアカウント

    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. 大阪震度6弱 塀倒壊で女児死亡 高槻市が和解金支払いへ
    2. リカちゃん人形 賢明女子学院中・高制服で登場 購入予約700体 姫路 /兵庫
    3. 涼宮ハルヒ 5年ぶり新作書き下ろし短編 「ザ・スニーカー」特別号に掲載
    4. WEB CARTOP 海外で言うと恥ずかしい!? 日本車のおかしな車名3選
    5. 皇室 皇太子ご夫妻が福岡入り 昨年の豪雨被災地にも

    編集部のオススメ記事

    のマークについて

    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです