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強制不妊手術

「記録なし」救済焦点 20府県で特定ゼロ

 旧優生保護法(1948~96年)下での障害者らに対する不妊手術問題を巡り、厚生労働省が自治体に求めた調査では、手術を受けたとされる約2万5000人のうち、記録に個人名が残るのはわずか12%に過ぎなかった。与党ワーキングチーム(WT)や超党派の議員連盟が年内にも救済策をまとめる方針だが、記録の残らない人の救済の枠組みをいかに構築するかで調整の難航も予想される。

 「法改定から問題が20年も放置されてきた結果だ。文書管理のあり方が改めて問われている」。不妊手術を受けた被害者が国家賠償を求めている仙台地裁訴訟の新里宏二弁護団長は、厚労省の調査結果を厳しく批判した。

 厚労省が今回まとめたのは、医師が提出した報告書など自治体に残る手術の記録。20府県は個人名が特定できた記録がゼロで、うち栃木、大阪、熊本など8府県では、手術の申請数や実施件数が分かる資料も残っていないとした。条例などで定められた行政文書の保存期間を過ぎて廃棄されたとみられる。

 特に記録の散逸が著しかったのが、形式的に本人が同意して実施されたとされる手術。国の統計では8518人が受けていたが、個人名が判明した人はいなかった。「審査手続きを経る強制手術と違って行政の関与が薄かったため、記録を残そうとしなかったのではないか」というのが厚労省の見立てだ。

 1996年に旧優生保護法を改正した頃から、国に対して被害者への補償を求める声は出ていた。記録の保存について、対応が遅きに失したのは否めない。厚労省幹部は「都道府県に保存を求める明確な根拠がなかった」と釈明した。

 それでも当事者の掘り起こしが進んだ自治体もあり、宮城県は900人、北海道は830人の個人名を特定。3月に「個人を特定できる資料がない」と大井川和彦知事が説明した茨城県は、市民団体の文献調査をきっかけに県立歴史館に保管されていた記録などを発見した。

 名前が分かる記録が残っていた3033人への対応はまだ決まっていない。超党派議連の議論では、不妊手術を受けたことを家族や周囲に言わずに生活している可能性も考慮して、本人へは伝えるべきでないとの意見が出ている。

 これに対し、新里団長は「国内の高齢障害者全員に手術を受けた可能性があることを通知し、疑わしいケースがあれば、行政が本人に直接調査するなど進んだアクションが必要だ。プライバシーの保護も重要だが、それを盾に調査が消極的になってはならない」と訴える。【原田啓之、遠藤大志、吉田卓矢】

被害認定、条件付けに壁

 不妊手術を受けた人の大多数の記録が見つからない中、国会では個人が特定できる記録がないことを前提とした被害救済のあり方に議論の焦点が移りつつある。救済の議員立法を検討している与党WTの田村憲久座長(自民党)は6日、「記録がない人の救済にはどういうことが条件として必要か、ある程度整理できないと救済できない」と述べた。

 被害救済は司法判断を待たず、議員立法での解決を目指すのが、政府・与党の方針だ。与党WTと超党派連盟は、記録がない人も含め幅広く救済するとの見解では一致している。

 「記録なし」の被害認定については、与党内で宮城県が2月に示した4項目の基準が参考例として挙がっている。(1)手術痕がある(2)県内に当時在住(3)手術が推測できる関連文書が現存する(4)本人の証言に整合性がある--を満たせば認定するとの考え方だ。

 ただ、数十年も前の不妊手術の痕を確認する手法は確立しているわけではなく、東海地方のある産婦人科医は「手術の形式によっては体の表面に痕跡が残らない」と指摘する。画像診断機器などを使った場合の精度も不明という。

 「関連文書」も自治体や医療機関などの協力がなければ、探すのは難しい。公費支出を伴う以上、一定の条件付けは必要だが、厳格にすれば幅広い救済の趣旨から外れるため「基準が固まるのにまだ時間がかかる」(与党幹部)というのが現状だ。

 被害者への「謝罪」を巡っても、調整が難航する可能性がある。

 超党派議連は被害者側の訴えをくんで、国会や政府による謝罪につながる文言を法案に盛り込むことを検討している。与党内にも同調の声はあるが、一方で「当時の手続きは適法だった。謝罪は国家賠償にもつながり、なじまないのではないか」(与党WTメンバー)という慎重意見も出ている。各地で起きている裁判の進行にも関わるだけに、首相官邸の判断も必要になるとみられる。【阿部亮介】

柔軟な対応を

 旧優生保護法に詳しい利光恵子・立命館大生存学研究センター客員研究員の話 国の調査要請は努力義務的な色合いが濃かった。都道府県によって資料探索の熱意に温度差があり、正確性に疑念がある。個人名を特定できない当事者の救済については、記録がないからといって被害事実が消えるわけではない。本人の申告や関係者への聞き取り、手術痕の確認などで積極的かつ柔軟に対応すべきだ。

再審査制度、機能せず

 厚生労働省は強制不妊手術の実施決定に不服がある場合、国の中央優生保護審査会に再審査を請求する関連書類の有無も調べたが、都道府県の回答は「ゼロ」だった。一方、再審査制度を当事者に知らせていなかったり、説得で抑え込んだりした記録が次々に見つかっている。再審査制度を盾に「人権保護」が担保されていたとする国の主張は事実上崩れた。

 同省が再審査記録を重視するのは、強制不妊が人権侵害に当たると批判された際、再審査制度を理由に正当化してきたため。だが、北海道では一連の調査過程で、手術決定に反対した保護者らを「理解不足」と保健所などの説得で翻意させた記録が多数見つかった。

 厚労省の担当者は取材に、省内でも「見つかっていない」と語った。また千葉県は今回の調査で当初「3」とした再審査請求数を「0」と修正した。【田所柳子】

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