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香山リカのココロの万華鏡

遠くても寄り添う心を /東京

 強力な台風が日本を直撃し、関西を中心として大きな被害が出た。直後、今度は北海道を震災が襲い、多くの犠牲者が出るとともに全道が停電する未曽有の事態が起きた。

     個人的な話になるが、私は北海道出身で、実家の家族や親戚はみな小樽や札幌などにいる。地震が起きた直後に弟からの電話で起こされ、ひとり暮らしの母に連絡がなかなかつかないなど、朝まで緊迫の時間をすごした。身内の無事が確認できて安堵(あんど)したのもつかの間、停電がなかなか解消しない。稼働はしていないものの、外部からの電源が喪失し、非常用電源で冷却を続けているという泊原発も気になった。母が住む小樽から原発までは約40キロの距離なのだ。

     ただ、私は東京で仕事をしており、すぐに北海道に駆けつけることもできない。新千歳空港は閉鎖されており電車も動いていない。バッテリーを節約するため携帯電話での連絡も最低限にしつつ、被災地から遠く離れた場所で気をもみながら日常の仕事を続けた。

     そこで分かったことがある。これは当たり前のことなのだが、北海道に家族などがいる人以外にとっては、震災もたくさんある出来事の一つだ。そればかりに関心を持っているわけにもいかず、仕事の話をしたり食事をしたりしなければならない。しかし、私にとってはこの瞬間も家族がつらい思いをしているので、とても仕事や雑談に集中する気分ではない。そこには大きな差があるのだ。

     「でも」とそのあと気づいた。その前の台風のとき、私は被災地やそこにいる人びとのことを親身になって考えただろうか。関西出身の友人が心配そうな顔をしたとき、「大変だね」とは言ったが、すぐに別の話題に移り冗談を言って笑わなかっただろうか。

     医者の私が「当事者の身になるのは難しい」などと言うのは恥ずかしいが、今回の経験を通してつくづくそう思った。もちろん、全国でいろいろな災害があるたびに、被災者やその場所の出身者の身になり、いっしょになって落ち込みすぎるのも問題だ。ほかの場所ではいつもの生活を続けることが、逆に被災地を安心させることもおおいにありうる。

     とはいえ、「私の住む場所は関係ないから」というだけで、いまつらい思いをしている人や関係者に無関心になるのは避けたい。私も北海道の人たちを応援しながら、台風や西日本豪雨の被害を受けた人や関係者の気持ちにもしっかり寄り添っていきたい、と改めて思った。(精神科医)

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