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北海道地震

1週間 奪われた命、暮らし

 北海道胆振地方東部を震源にした地震は13日で発生から1週間を迎えた。観測された最大震度7は北海道では初めてだ。

     特に被害が集中したのは、震源に近い人口4600人余の厚真町。火山噴火で堆積(たいせき)した丘陵地帯の軽石層崩壊などで地震による全死者の8割超の36人が亡くなった。犠牲者は厚真川流域の山際の集落に多く、北西の山を背に家々が並ぶ吉野地区では、住民34人中過半の19人が死亡した。地域社会に尽力してきた高齢者や道内有数の稲作地帯を支える人々の命が奪われた。

     その厚真川の河口に近い苫東(とまとう)厚真火力発電所では、道内の半分の電力を発電中の二つの発電機が自動停止した。電力の需給バランス崩壊で、他の発電所も一斉停止。道内のほぼ全域295万戸が停電する「ブラックアウト」が起きた。

     停電はほぼ解消されたが、苫東厚真火力の全面復旧は早くても11月で、当面、全道で2割の節電が必要。札幌市内の住宅地では大規模な液状化も発生した。

     土砂災害への対応。電気に頼り切った社会のあり方。さまざまな検証が迫られている。


    父の後継ぎ米作り 厚真町吉野・滝本卓也さん(39)

     父親が体調を崩したことをきっかけに5年ほど前に勤務先を退職し、厚真町吉野地区の田んぼを引き継いで農業を始めた。周囲はベテランの農家ばかり。助けを借りながら工夫を重ねた。親族の男性は「ようやく良い米を作れるようになっていたのに」と話す。

     入院中の父親に代わり、祖母芳子さん(95)の生活を支え、2人の子も育てていた。突然の土砂崩れに、芳子さん、長女舞樺さん(16)とともに帰らぬ人となった。

    妻と笑顔で寄り添い 厚真町吉野・馬場治雄さん(86)

     厚真町内の高齢者グループホームで暮らしている認知症の妻を気にかけ、足しげく通い続けた。ホームに勤めている介護福祉士の山下直樹さん(48)は、天気など何気ない会話の中に夫婦の絆を感じたという。「温厚で物静かな方。二人が寄り添っている時の笑顔が印象に残っている」。最近は歩くことがつらくなり、愛妻と会う機会は少なくなっていたが「なるべく来たいんだ」と話し、家族会などホームの行事に積極的に参加していた。

    吹奏楽団の大黒柱 厚真町高丘・松下一彦さん(63)

     1986年に発足した厚真町民吹奏楽団の創設メンバーで、代表と指揮者を兼任する大黒柱だった。「とりあえずやってみるか」。そう軽く言って演奏したことのない曲に挑み、演奏後に「こんな曲だったんだ」と団員を笑わせた。

     ドラム、トランペット、テナーサックス……。友人らによると、タクトだけではなく楽器の腕前も確かだった。打ち上げで訪れる飲食店では奥のソファが定位置。笑顔を絶やさず周囲を明るくした。

    「とりまとめ上手」 厚真町吉野・中田美江さん(71)

     「とりまとめ上手」で知られていた。地元の寺で行われた法要では、世話役となる「料理長」を2度務め、今月8~10日に予定されていた50年に1度の「宗祖御遠忌法要」でも料理長の大役を担う予定だった。2年前から準備を進めていたが、かなわなかった。

     知人男性は「明るく朗らかで、気遣いもできる人だった」と振り返る。最近は足の具合が悪いため、1階で就寝していたところを、土砂崩れに巻き込まれたとみられる。

    上司の信頼厚く 厚真町吉野・中田朗さん(60)

     水田が広がる厚真町吉野地区で田んぼを守りながら、苫小牧市でトラック運転手として働いていた。当時の上司は「今年3月に定年退職するまで、安全運転、無事故の優良ドライバーだった」と振り返る。

     「豊ちゃん、今年も頼む」。高校時代からの友人、橋本豊さん(60)は、中田さんから毎年秋に稲刈りを頼まれた。最後の電話は8月下旬。「お願いする時はいつもいい調子。そんな電話がもうないと思うと寂しい」

    病気の父を支え 厚真町吉野・三上昭人さん(54)

     厚真町の葬儀会社に約20年間勤め、故人に寄り添った進行で遺族の信頼が厚かった。「ずっと一緒に仕事をしたいと思っていた。夢なら覚めてほしい」。同僚は言葉を失った。大学卒業後は大手スーパーなどに勤めたが、病気の父を支えるため地元に帰った。趣味は食べ歩き。新聞や雑誌のグルメ記事を集めていたという。父の死後、一緒に買い物に出かけ、仲良し親子として知られた母とも子さん(79)とともに帰らぬ人となった。


     この特集は岸川弘明、片平知宏、土江洋範、一宮俊介、北山夏帆、畠山嵩、阿部義正、三沢邦彦が、写真は竹内幹、佐々木順一、貝塚太一が担当しました(空撮は本社機「希望」から)。

     編集・レイアウト橘建吾 グラフィック菅野庸平

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