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毎日フォーラム・特集

電子図書館 進まない公立図書館の電子書籍化

電子絵本を楽しむ子どもたち=東京都千代田区立四番町図書館で2015年2月6日

自治体予算の制約 民間企業との連携も

 「電子図書館」が登場して約11年余りになる公立図書館で、本の電子化が進んでいない。パソコンに加えてスマホやタブレット端末などが急増している中で、普及はまだ初期の段階だ。海外では行政サービスの電子化に合わせて電子書籍化が進展しており、図書館利用の9割が電子書籍という国もある。利用できる電子書籍が少ないことや、公立図書館は予算の制約もあり本の電子化が進んでいないとみられる。自治体の中には民間企業などのアイデアを取り入れながら電子書籍の利用を増やす取り組みもある。

     電子書籍化を推進している「電子出版制作・流通協議会」(電流協)によると、今年7月1日現在で、電子書籍貸出サービスを実施している図書館は81自治体、78館にとどまっている。中には兵庫県内のたつの市と宍粟市、上郡町、佐用町の4市町が合同で運営する「播磨科学公園都市圏域定住自立圏電子図書館」などもある。

     また、徳島県阿南市は「南阿波定住自立圏(阿南市、那賀町、美波町、牟岐町、海陽町)」に対して、阿南市を中心として電子図書館を提供している。全国の市区町村は1718自治体なので、自治体で導入しているのは全体のわずか4.7%だ。都道府県立も含めた全国の公立図書館は3273館あり、導入している公立図書館は2.4%とさらに低くなる。

     国内で最初に登場したのが、07年11月に開設された東京都千代田区立図書館が運営する「千代田Web図書館」だ。インターネット上で電子書籍の貸し出し・返却ができるサービスで、基本的に千代田区内在住・在勤・在学者が利用できる。現在所蔵している電子図書は約5000タイトルだ。

     明治から昭和初期の文学作品を中心にした青空文庫の約1300タイトルや憲法や民法、ビジネスの資格試験などに関するコンテンツなどがある。このほかに音声がでる英語学習書や動く絵本、生き物が立体的に見える3D図鑑などを増やしている。国立国会図書館所蔵の「国立国会図書館近代デジタルライブラリー」約300タイトルも読むことができる。

     さらに、千代田区立図書館で所蔵している江戸時代の和本、明治・大正時代の東京に関する資料、千代田区の古地図など87点を「千代田セレクション」として13年1月から電子化し公開している。

     青空文庫は、他の公立図書館でも導入事例は多い。著作権が消滅した作品や著者が許諾した作品を公開しているインターネット上の電子図書館で、複数の編集者が呼びかけて発足した。日本で著作権切れ作品をオンライン公開するために、ボランティアによって電子化されている。17年の年間アクセス数は計920万件以上という。

     実際にどう運営されているのだろうか。千代田区役所の上にある同区立図書館で、利用者登録し貸出券の発券を受けて、館内の端末やパソコンから「千代田Web図書館」へログインするパスワードを設定する。インターネットを通じて、パソコンやタブレット端末などで同時に5点のコンテンツを2週間借りることができる。端末には一時的な保存しかできず、貸出期限の2週間を過ぎると閲覧できなくなる仕組みだ。自動的に返却されるので、返却のための事務作業や返却の催促などが省力化できる。同図書館では毎月平均200~300タイトルの貸し出しがあるという。

    著作権が壁でコンテンツ不足

     電子書籍の普及で大きな壁となっているのが、読むことができる本・コンテンツが少ないことだ。著作権の関係で、なかなか本の電子化が進まないという現状もある。作家の中には著書が売れなくなるという理由で、依然として電子化を避ける人も多いという。またこれまでは、紙媒体が売れなくなるという出版業界の懸念が大きかったのも、電子書籍化が遅れた理由だ。さらに古い書籍は紙媒体の物をスキャンして電子化しなければいけないため、手間と費用がかかるという問題もあった。

    タブレット端末やスマートフォンで図書を閲覧する人たち=徳島市のイノベーションセンター徳島で2017年10月27日

     コンテンツ不足について、電流協は「現在は和書で約14万、洋書で約160万のタイトルがそろい、一定数を供給できている」と話す。さらに「利用者を増やすためには、音声を再生できる外国語電子書籍の提供や、視覚障害者向けの対応など電子ならではの機能や利点をアピールすることが必要」と指摘する。どの作品が人気かなど、電子図書館同士の情報共有も普及には欠かせないことだ。

     世界に目を転じると、米国では電子図書館が広く普及しており、14年時点ですでに公共図書館の電子図書提供率は9割を超えているという。電子書籍取次国内最大手のメディアドゥホールディングス(東京)は「アメリカなどでは、電子図書館を導入した当初から図書館を挙げて利用促進を図っており、電子図書館が住民に浸透して利用率が上がった。日本の図書館も同様に、導入後も継続的な利用促進を実施し、多くの住民が電子図書館に触れる機会を作る必要がある」と指摘する。

     しかし、今では書籍が電子データから作成されることもあり、電子書籍化を積極的に進める大手出版社も多い。ある調査では昨年の出版作品のうち講談社が75%、小学館が67%、カドカワが84%を電子書籍化したというデータもある。電子書籍化された作品をみるとマンガやライトノベルなど若者をターゲットにした書籍の電子化が多いという。図書館の利用者は高齢層が多いため、需要にあった書籍の電子化が急務ともいえる。同時にパソコンやネットが苦手な高齢者の利用促進をどう図っていくかも課題だ。

     一方、国立国会図書館も電子化を進めている。02年10月から、所蔵する明治・大正・昭和前期刊行図書のデジタル画像を収録する「近代デジタルライブラリー」の提供を始めた。図書約97万点、雑誌129万点などがデジタル化されインターネットで提供されている。

     10年6月には、同図書館の諮問機関である納本制度審議会より「オンライン資料の収集に関する制度の在り方について」という答申を受け、インターネット経由で提供される電子書籍・雑誌に関しても、紙の書籍・雑誌と同様に国会図書館が収集するという方向が示された。このサービスは16年5月末に「国立国会図書館デジタルコレクション」に統合された。同図書館は「今後も、戦前期刊行図書から順次著作権の処理を進め、インターネットから画像をご覧いただける資料を増やしていく」と説明する。

    電子図書館について説明するスタッフ=岐阜県関市の市立図書館で2018年1月26日

    神戸市と民間サービス会社が「KOBE電子図書館」

     全国の自治体はどう導入しているのだろうか。電子図書館を今年6月に導入したのは神戸市だ。同市は子会社の「オーバードライブ社」を通じて電子図書館サービスを展開する「楽天」(東京都)と協定を結び、同月22日から「KOBE電子図書館」を試験的に開館とした。市立図書館で発行するIDを使い、パソコンやスマホで専用サイトにアクセスして読む仕組みで、子ども向けの英語図書や小説、実用書など約1万1500冊を用意しており、利用傾向を見ながら試験期間の2年でさらに1500冊程度増やすという。

     市立図書館の図書館カードを持っている人が対象で、市内に11ある図書館の窓口で専用のIDとパスワードを発行してもらえば、ウェブ上で電子書籍を借りることができる。初回のID発行時以外は図書館に行く必要がなく、借りた本は貸出期限の2週間が過ぎると自動的に返却される。一部を除き、誰かが借りている時は紙の書籍と同様に「貸出中」となって読めないが予約ができる。

     蔵書の中で特に力を入れるのは英語図書だ。2年後の英語の小学校教科化を見据え、ディズニー映画の本「アナと雪の女王」など、小学校低学年から楽しめる約500冊をそろえた。うち大部分が電子図書の利点を生かした英語の朗読ナレーション機能がついた本で、正しい発音を学ぶことにも役立っているという。約1万1500冊のうち1万冊は著作権の切れた文学作品などの「青空文庫」で、ほかに作家・石田衣良さんの小説やジャーナリスト池上彰さんの時事解説本、料理本などを用意している。

     このKOBE電子図書館のシステムを支えているのがメディアドゥ社だ。ウェブサイトのトップには「最新の電子書籍」「料理に悩むのはもうおしまい」「あなたが1番手!まだ借りられていない本」「色褪せない面白さ、不朽の名作」といった特集が設けられており、読み手の心理をくすぐる工夫を凝らしている。メディアドゥ社は14年にオーバードライブ社と戦略的業務提携を締結しており、18年7月末時点で公共図書館13館、大学図書館2館、学校図書館2館、企業図書館2館の計19館へ電子図書館を導入した実績を持っている。同社は「利用を促す工夫をたえず続けることが重要」と話す。

     神奈川県綾瀬市の同市立図書館でも今年4月から、メディアドゥ社とオーバードライブ社のシステムを導入し、約1万2000タイトルの電子書籍の貸し出しを始めた。今後さらに導入数を増やし22年度末までに約2万タイトルにする計画という。同図書館も貸出期限が終了すると自動的に返却される仕組みだ。綾瀬市は「電子書籍は図書館へ直接来館できない市民がパソコンやスマートフォンなどで利用でき、24時間貸し出しも可能になる。電子書籍を今後も充実させ、全国屈指の規模を目指す」と話している。

    電子化で若者の利用者増を図る

     奈良県の大和高田市立図書館は7月から、電子書籍の貸し出しを始めた。電子図書を導入したのは同県内では広陵町立図書館、斑鳩町立図書館に続き3館目で、貸し出し利用率の低い若者世代を取り込むことを狙って、英会話など資格試験の参考書や漫画、小さな子供に見せる動く絵本などをそろえている。同館は15年から民間の「図書館流通センター」が指定管理しており、蔵書は約13万冊あるが、敷地の狭さから新しい本を多く並べるのが難しく、電子書籍の導入につながった。同図書館の電子書籍も2週間で自動的に読めなくなって返却される。同館は電子書籍約3000冊と、青空文庫の定番小説など約4000冊で貸し出しを開始し、随時追加していく予定だ。

     大和高田市立図書館に先行して14年9月に約4000冊を導入した広陵町立図書館では、貸し出しが伸び悩んでいるという。同図書館では利用が14年度に236冊、15年度は392冊にとどまっており、大和高田市立図書館は「無料で借りられる図書にも、役立つ情報はたくさんある。普段図書館に縁がない層に少しでも図書に触れてほしい」と話している。

     岐阜県の関市立図書館でも2月から「電子図書館」がスタートした。同県内の図書館での電子書籍の貸し出しは初めてで、英語の音声で読み聞かせできる絵本や乗り物図鑑など子ども向けを中心に現在89冊からのスタートだが、今後随時増やしていくという。貸し出しは1回に3冊までで、必要な手続きをすれば、美濃加茂市や各務原市など隣接する12市町の住民も利用することができる。同市は「電子書籍はかさばらず、どこでも自由に読むことができる。電子書籍の導入で活字に親しんでもらう機会を増やしたい」と話している。公立図書館で電子図書館を増やしていくには、より使いやすいサービスの充実がカギを握っている。

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