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記憶つないで

カネミ油症50年/中 根本的治療法なく 薬、生活指導、通院費…重い負担

近藤医師の診察を受ける未認定患者の女性(左)。「治療で体調は良くなったが、経済的な負担は大きい」と話す=長崎県五島市の五島中央病院で、浅野翔太郎撮影

 「どこかのタイミングで薬を減らしていきましょう」。9月21日、長崎県五島市の福江島にある五島中央病院の診療室で、受診した市内の女性(55)に対して近藤英明医師(54)が優しく言葉をかけた。近藤医師は九州大学病院油症ダイオキシン研究診療センターから派遣され、カネミ油症患者が集中する同市で診察を続けている。

 女性は同市の奈留島生まれ。周囲の家庭と同じようにカネミ倉庫(北九州市)製の米ぬか油を使い、一番のごちそうが魚のすり身揚げや野菜の天ぷらだった。1968年10月にカネミ油症患者の存在が発覚すると、子どもたちの就職や結婚に影響することを案じた父は「関わらない方がいい。この問題には触れないようにしよう」と油の入った一斗缶を畑に埋めた。しかし、食卓を囲んだ母はがんで死亡、父や兄弟は皮膚の黒ずみや発疹などに今も苦しんでいる。

 女性は長年、油症との関係を疑うような目立った症状もなく暮らしてきたが、2013年、突然の激しい痛みが全身を襲った。痛みは治まらず、ひどい時はベッドにも横になれず、机に突っ伏したまま寝た。家事が手に付かないことで、夫から責められた日もあった。病院を転々としても原因は不明だったが、友人と話すうちに油症に思い当たった。

 17年、五島中央病院で近藤医師の診察を初めて受け、足に不快感や痛みが出る「レストレスレッグス症候群」と診断された。米ぬか油に混入したダイオキシン類のポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)などが原因の油症被害は、全身の倦怠(けんたい)感や関節痛など症状は多岐にわたる。女性も油症と疑われるが、今年受けた検診ではPCDFの血中濃度が認定基準を満たしていなかった。

 ダイオキシンは体外に排出されにくく、人体への影響は未解明の部分が多いため、油症患者の根本的な治療法は確立されていない。近藤医師が昨年実施した調査では、血液中のPCDF濃度の高さと睡眠の質の低下に関連がみられたという。医師たちは表れた症状への治療に加え、漢方薬などで症状を抑えたり、バランスの取れた食生活を指導したりしているのが現状だ。

 女性は、薬を変えたり、食事や睡眠の取り方など生活全般について指導を受けたりした結果、波はあるものの徐々に症状は軽減されている。しかし、薬代をはじめとする高額の医療費や、通院のための交通費など経済的な負担が重くのしかかる。「油を口にして半世紀たった今も苦しんでいるのは事実。健康以外は何もいらないから元の体に戻してほしい」

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