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今週の本棚・本と人

『牧水の恋』 著者・俵万智さん

俵万智さん=中澤雄大撮影

 ◆俵万智(たわら・まち)さん

     (文藝春秋・1836円)

    放浪歌人と重ねた対話

     空前の大ヒットを飛ばした歌集『サラダ記念日』の刊行から31年になる。以来、親しみやすい口語文体で時代の空気感と心の移ろいを三十一(みそひと)文字で描写してきた国民的歌人が不思議な縁あって、今年で没後90年を迎えた若山牧水の評伝に挑んだ。

     言わずと知れた放浪歌人である。<幾山河(いくやまかは)越え去り行かば寂しさの果てなむ国ぞ今日(けふ)も旅ゆく>。こうした名歌が若き日の恋愛、それも苦悶(くもん)の末に詠まれたことはあまり知られていない。一つ年上の美女、園田小枝子(さえこ)に焦点を絞り、鑑賞を掘り下げながら進めた考察は、恋を歌い続ける著者ならではだろう。

     「牧水って、旅と酒のイメージがとても強くて、歌碑も一番多く建っているとか。幾つかの有名な歌が浸透していますが、知られていない部分がまだたくさんある。宝の山なんです」

     牧水の魅力にはまった高校生の時は、自身の「大失恋」体験と重ね合わせて愛唱した。早大生時代には歌人の佐佐木幸綱氏に師事し、有名な<白鳥(しらとり)は哀(かな)しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ>の解釈にいたく感銘を受け、本歌取りの一首<空の青海のあおさのその間(あわい)サーフボードの君を見つめる>を作った。

     縁はこれにとどまらない。2006年の牧水賞受賞以降、何かに導かれるように深まり、現在は牧水を育んだ宮崎に住む。こうした経過は本作の第四章に詳しい。同時に、本人による「俵万智研究」にもつながり、読者は再び驚かされる。「知らず知らずのうちに影響を受けていたんだと思って。古典からの言い回しや栄養とか、無意識のバトンを受け取っていたんですね」。まさに牧水との「対話の心」を実感した瞬間である。

     <一日を全部自分に使える日書き継いでゆく牧水の恋>

     文芸誌連載中の1年間は全力投球する日々。牧水研究を始めたころ、まだ幼かった一人息子の背丈は母を超え、手が掛からなくなったという。書斎には牧水の大きなパネルを飾り、歌人の愛した地酒と自著をお供えしている。執筆を振り返って「普遍性のある歌を詠ましめた深い恋愛だったのでしょう。憑(つ)かれたように書かれた手紙も情熱的で、私もこんなのもらったら、惚(ほ)れてまうやろ、という気持ちでしたね」とほほ笑んだ。<文と写真 中澤雄大>

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