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号外東名あおり「危険運転」認める 懲役18年
新宿・歌舞伎町

ホストの街に散る命--事件記者ルポ

東京最大の歓楽街・歌舞伎町。平日夜でも人波は絶えない=東京都新宿区で2018年10月31日、春増翔太撮影(画像の一部を加工しています)

 10月2日午後7時過ぎ、東京・歌舞伎町のビルから20代の女性が飛び降りた。

 「すごい音がして外を見たら、女性が倒れていました。そばにはスーツを着た男性もあおむけて倒れていて、頭を押さえていました」。直後の様子を目撃した近くの飲食店の女性店員(21)が話した。女性は転落した際、真下にいた通行人を巻き込み、男性が重傷を負った。女性は搬送先の病院で死亡が確認された。

 屋上に通じる外階段には女性の靴が残されていたという。自殺とみられるが、事件性がないため警察による発表はなされず、動機は明らかになっていない。

 なぜ女性は歌舞伎町で死を選んだのか。記者は女性を知る人を探した。

「人生詰んだ」

 「初めて会ったのは9月上旬の深夜。私から声をかけたんだよね。歌舞伎町の路上でお互い一人でいたから『飲みに行こうよ』って。それから何回か飲んだり、ご飯食べに行ったり。人づてに飛び降りたって聞いたのは2日後くらいかな。正直驚きはなかった。あの子、ホストにはまっていて病んでる感じだったから」

 10月22日深夜。現場近くの路上で聞き込みを続けると、飛び降りた女性を知る18歳の少女に行き当たった。

 少女によると、女性は歌舞伎町のホストクラブの常連だった。「担当」と呼ばれるホスト目当てに、毎晩のように店に通っている様子だった。

 「めっちゃお金を使った時は『好き』って言ってくれるけど、本当の人の気持ちって分からない」「相手からしたら結局私はお金を使うだけの存在。好きなのは私だけなのかなあ」。女性はそんな話をしていたという。

 夜の店で働いているらしかったが、「200万円の掛け(ホストクラブへのツケ)がある」とも話していた。最後に会った9月中旬、女性が発した言葉を少女は覚えている。「私の人生、もう詰んだー」

ホストクラブやキャバクラがひしめき合う=東京都新宿区歌舞伎町2で2018年10月31日、春増翔太撮影

追い込み

 女性が自殺した原因は何だったのか。本心は分からない。ただ歌舞伎町ではホストとの関係で悩み追い詰められる女性客は少なくないという。

 「地方から上京してホストクラブに通い出して、お金がなくなって昼の仕事辞めて風俗に勤め出す子なんてざらにいるよ」。歌舞伎町の路上で話を聞いた茨城県出身の22歳の女性は言った。しばらくして「私もだけどね」と明かした。

 地元で看護助手として働いていたが、ネットで出会ったホストに誘われて18歳で上京。相手が勤めるホストクラブに通い出し、多いときは一晩で30万円以上使うこともあった。すぐに月十数万円の給料では足りなくなり、19歳で看護の世界を離れて風俗店で働き始めた。「周りにいる子もだいたい同じ」。この日もホストクラブで5時間飲んだ帰りだという。

 女性はホストクラブについて、「優しくしてくれることが魅力」だと語る。話を聞いてくれる。ほめてくれる。酒を飲み、時間を忘れて楽しめる。そのうち恋愛感情を抱き始める。「来てくれるとうれしいと言われれば行っちゃうし」

 ホストは売り上げによって、店内でのナンバー(序列)が決まる。女性客たちは「担当のナンバーを上げたい」という思いから思わず高いボトルを入れてしまう。「掛け(ツケ)でもいいから」という言葉に乗れば借金はふくれあがる。年末年始のかき入れ時を控える10月は閑散期とされ、ホストによる「掛け」の回収もきつくなるという。

 「客は愛の形として金を注ぐけど、ホストは金は金としか見ていない。追い込みをかけられた時にそれに気づいて、うつになったり自殺未遂を起こしたりするんだよね」。別の常連客の女性は言う。

女性が転落した直後、現場を調べる捜査員ら=東京都新宿区歌舞伎町2で2018年10月2日、山本佳孝撮影

負の連鎖

 歌舞伎町には200~300のホストクラブが集まり、数千人のホストがいるとされる。ここ20年で店の数は変わっていないが、同地に事務所を構える公益社団法人「日本駆け込み寺」のスタッフ、乾龍一さん(42)は「内実は大きく変わった」と話す。

 自身も15年ほど前までホストをしていた乾さんは「昔は女性経営者などの客が多かったが、不況のせいでそういう客は減った。今は学生でも、会社員でも、とにかく客にして、広く薄く金を搾り取ろうという風潮が強くなりました」と話す。日本駆け込み寺にはそんな女性たちからの相談も寄せられる。

 ただ乾さんは疲弊した業界において、ホストたちもまた追い込まれている、と感じる時があるという。

 「先日相談に来た北海道出身の21歳のホストは月給がマイナス2000円でした。支給された服の代金の返済や寮費、旅行の積み立て、わけのわからん天引き。差し引いたらただ働き以下だったわけです。ここに来たとき、ほとんど何も食べてない日が続いて参っていました。うちに来たのは心療内科に紹介されたからです」

 テレビで見かけるような高級マンションに住み、スポーツカーを乗り回すホストは、ごく一握りに過ぎない。ほとんどは体を壊すか、心を病むかして歌舞伎町を去っていく。客の掛けを回収できずに「飛ぶ(失踪する)」ケースも多い。

日本駆け込み寺代表の玄秀盛さん=東京都新宿区歌舞伎町2で2018年11月29日、春増翔太撮影

 「この街はおかしなっとるんや。ホストもホスト通いも自由やけど、甘い文句に釣られてこき使われるホストもある意味の被害者かもしれん。その被害者が客を追い込み、新たな被害者を生む。それが今、この街で起きとることなんちゃうかな」。日本駆け込み寺代表の玄秀盛さん(62)は言った。

 警視庁の捜査関係者によると、歌舞伎町では10月の1カ月間で少なくとも7件の飛び降り自殺や未遂騒ぎがあり、5人が死亡した。いずれのケースも動機は明らかになっていないが、死者のうち3人は若い女性だった。

 取材を続けていた10月最後の金曜日の26日。この日もまた夕方に1人の女性が、ビルの屋上から転落して亡くなった。約2時間後、記者が現場に着くと、警察の規制線は既になく酔客が行き交っていた。何事もなかったかのように、いつもの歌舞伎町の夜が始まろうとしていた。【春増翔太、山本佳孝、土江洋範】

新宿・歌舞伎町で10月に起きた飛び降り自殺

支援を求めて

 「誰にでも寂しさを感じたり、悩んだりすることはある。精神的に弱ったり、お金に困ったりすることも恥でも何でもないんですよ」。自殺相談に応じているNPO「OVA」(東京都新宿区)代表理事で精神保健福祉士の伊藤次郎さん(33)は言う。「困ったときは他者に頼ればいい。当たり前の正しい行動です。行政や支援団体、病院、生活保護などの枠組みはそのためにあるんです」

 OVAにも、歌舞伎町にいる女性やホストたちから相談が寄せられることがある。「彼ら、彼女らは日々の中で感じる寂しさを埋める居場所を求めて夜の街に出入りしている。でも、それは決して特殊なことではない」と伊藤さんは言う。

 厚生労働省の統計によると、2017年の自殺者数は2万1321人と09年(3万2845人)から減り続けている。しかし15~34歳では、自殺が死因の第1位になるなど「深刻な状況にある」(同省の自殺対策白書)とされている。

 伊藤さんによると、自殺を考える人は「自分はだめだ」「私が悪い」と自責の念を抱くケースが多く、誰かに相談することを恥じる傾向があるという。「特に夜の店で働く人々は自らの立場を後ろめたく思っていることがあります。でも、悩む人が世間の目を気にしてSOSを出せないなら、それは社会の問題です」と指摘する。

 「死にたい」は勇気を出して告白したSOSだというのは、自殺防止に取り組む人々では共通の認識だ。近年、自殺相談に応じる民間の団体は少しずつ増え、若い世代に向けてラインなどSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の窓口もある。伊藤さんも「あなたや周囲の人が少しでも『死にたい』と思ったら、知人でも私たちのような支援団体でも構わないので、ためらわず相談してほしい」と話している。

相談に応じている主な支援団体

 公益社団法人「日本駆け込み寺

 どんな相談でも受け付けている。歌舞伎町の事務所も年中無休で対応

 一般社団法人「若草プロジェクト

 貧困や虐待、性的搾取など少女、若い女性の相談を受け付けている

 一般社団法人「Grow As People

 風俗など「夜の仕事」に関わる女性たちの相談を受け付けている

 NPO法人「BONDプロジェクト

 ラインやメールで10~20代の女性の相談を受け付けている

 NPO法人「国際ビフレンダーズ東京自殺防止センター

 年中無休で匿名可の電話相談を受け付けている

 NPO法人「OVA

 子供や若者を中心にメールやチャットで自殺相談を受け付けている

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